YouTuberは大変です。
YouTubeからの収入のみで生計を立てている人は、本当に過酷だと思います。
再生回数を維持するために、バズる動画を目指せば目指すほど、動画の内容が過激になりがちな面もあるでしょう。
その結果、時にはとんでもないワナを踏んでしまうことも……。
1 ドンキーコングの王者ビリー・ミッチェル
ドンキーコングは、言わずと知れた任天堂が大昔に発売したアクションゲーム。
最上段からコングが転がしてくるタルをタイミング良くジャンプでかわしながら、どんどん上を目指すというものです。
このゲームのハイスコアで世界記録を達成して注目を浴びた人物が、ビリー・ミッチェルという男性。
ドンキーコングの王者として、一躍有名になりました。
しかしその後、チート疑惑が浮上。
このゲームの記録は、ドンキーコングのオリジナル基盤を使って達成するのがルールなのですが、ミッチェルはエミュレーターを使ってプレイしていたのではないかと疑われたのです。
この疑惑について、アポロ・レジェンドというYouTuberが、自らのチャンネルでかなり突っ込んだ内容の動画を公開。
その動画を見た人なら、ミッチェルがチーターであると疑わないような内容です。
これに対しミッチェル側は、アポロ・レジェンドに訴訟を起こす構えを見せました。
しかし、両者の争いは法廷闘争に発展することなく、和解が成立したとされています。
その直後、アポロ・レジェンドはミッチェルに関する動画をすべて削除。
そしてこの和解からほどなくして、アポロ・レジェンドは自ら命を絶ちました。
2 チーターを糾弾するカール・ジョブスト
カール・ジョブストというオーストラリア人YouTuberも、ドンキーコング王者のチート論争に参戦していました。
ゲームのスピード・ランナーでもあるジョブストは、スピード・ランニング系動画を投稿する一方で、ゲーム界のチート行為を暴く動画も数多く公開。
彼もアポロ・レジェンド同様、ミッチェルのチート疑惑についての動画を何本も投稿していたのです。
そんなジョブストが、アポロ・レジェンドの死後、ある動画を公開。
その動画では、アポロ・レジェンドとミッチェルとの和解に関してかなりセンシティブな内容に触れていました。
和解によってアポロ・レジェンドは巨額の金をミッチェルに支払うこととなり、経済的に困窮した彼は仕事を増やすなどしたものの、従来からの健康上の問題と相俟って、日々の生活はかなり追い込まれていたと説明。
そして自殺に至った、と。
この流れを説明された視聴者のほとんどは、ミッチェルがアポロ・レジェンドを死に追いやったも同然だと感じることでしょう。
一方のミッチェル側は、この動画によってまるで自分が殺人者であるかのように扱われたとして、ジョブストを名誉毀損で訴えました。
これに対しジョブストは、「自分が負けることなどありえない」という自信をファンに示し、余裕綽々。
ファンの大半も彼の勝訴を信じていたことでしょう。
そして2025年4月始め、判決が下されたのですが……。
結果はジョブストの敗訴。
日本円にして約3400万円の支払いを命じられました。
一体なぜ敗訴したのか。
実は、アポロ・レジェンドがミッチェルに大金を支払ったという事実は確認できなかったのです。
彼の親族も、そのような金銭のやり取りは無かったと証言。
さらに、彼の遺書にはミッチェルのことや和解のことは何一つ記載されていませんでした。
つまり、自殺の理由にミッチェルが絡んでいるという事実は無く、唯一考えられるのは彼が病気に苦しんでいたということのみ。
ジョブストは、恐らくミッチェルに対する義憤から、先入観に凝り固まった状態で情報収集していたのでしょう。
その結果、ミッチェルが一人のYouTuberを心身ともに追い込んだという、自分にとって都合のいいシナリオを作り上げてしまったのです。
3 たった一本の動画で3400万円が吹っ飛ぶ
ジョブストのチャンネルは登録者数が100万人を超えており、彼はYouTuberとしては成功者と言えます。
YouTubeから得ている収入はかなりのものでしょう。
とはいえ、3400万円という賠償金を払わねばならないのは痛い。
さらに、弁護士費用なども加えると、経済的損失はもっと大きくなります。
しかも、彼が被ったダメージはそれだけにとどまりません。
彼は、「GoFundMe」というサイトで訴訟費用の寄付を募っていました。
その際、彼が名誉毀損で訴えられた理由は、ミッチェルのチート疑惑に関する動画を公開したからだという誤解をファンに与えてしまったのです。
仮に裁判の争点が、ミッチェルがチート野郎であるか否かということであれば、ジョブストの勝利はほぼ確実だったことでしょう。
チート疑惑に関して、ミッチェル側に不利な証拠は山ほど存在しますから。
ところが、裁判の争点はチート疑惑とは全くの無関係。
これにより、ジョブストに寄付をした多くのファンが、ミスリードされたとして憤慨したのです。
4 ジョブストの致命的ミス
人気YouTuberとして安定した収入を得ていたジョブストは、明らかに致命的ミスを犯しました。
YouTuberに対して訴訟を起こそうとするような人物に対し、自らの動画で喧嘩を売ってしまったのです。
こういう相手についての動画を作る際は、法的観点から問題が無いかを徹底的に調査するべきでした。
それを怠ったがために、彼は裁判で敗けたのです。
この一件は、たった一つの判断ミスで多くのものを失うことになるという教訓に満ちた事例だったので、今回、当サイトでご紹介しました。