犯罪の被害者
にならないようにするのは、そう簡単な話ではありません。
格闘術の心得がある人ならば、ある程度は悪漢に抵抗できるかもしれませんが、相手が武器を所持していれば、それも難しいでしょう。
複数人から襲われた場合や、被害者が非力な子供の場合は、危険度はさらに上がります。
しかし、犯罪者に抵抗する術を持っていなくても、意外な形で難を逃れられることがあるのです。
今回はそんな、ある意味幸運な体験をした人々の話をご紹介します。
〈originally posted on January 5,2020〉
1 ゴスペルを3時間歌い続けて誘拐犯に勝った少年
2014年3月14日、米国ジョージア州アトランタで、ウィリー・マイリックという9歳の男の子が、自宅前で遊んでいたところ、車に乗った男に連れ去られる、という事件が発生しました。
普通に考えれば、誘拐された子供は、怖くて泣き出したりするものです。
しかし、ウィリーは違いました。
見知らぬ男の車に乗っている最中、彼は、アメリカ人ゴスペルシンガーである、ヘゼキア・ウォーカーの「エブリ・プレイズ」という歌を、唐突に熱唱し始めたのです。
誘拐犯が、静かにしろ、と怒鳴っても、ウィリーは歌い続けます。
そうして、3時間近くも、チビっ子のゴスペルを聞かされた男は、遂にブチ切れて、車を停め、ウィリーを外に放り出し、「今日のことは誰にも言うなよ」とだけ言って、車で走り去ったのです。
ウィリーは無傷。
まさに、ゴスペルの勝利です。
その後、この話を聞いたウォーカー本人が、わざわざニューヨークからウィリーに会いに来たとか。
憧れのシンガーから熱いハグを受けたウィリー少年は、涙を流して感激し、さらには、二人で「エブリ・プレイズ」を歌ったそうです。
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2 棺桶に7年間閉じ込められ、突然解放された女性
1977年、米国オレゴン州で、コリーン・スタンという女性(当時20歳)が、ヒッチハイクをしているときに、二人組の男女に誘拐されました。
犯人は、ジャニス・フッカーという女と、その夫キャメロン。
彼らは、コリーンを自宅に連れていくと、棺桶のような小さな箱の中に、彼女を幽閉。
それ以来、コリーンは、一日のほとんどを、この棺桶の中で過ごすことに。
棺桶から出されることもありますが、その時は、決まって彼らから虐待を受けます。
この恐るべき生活が7年も続いた1984年、誘拐犯の一人であるジャニスが、夫がいない間にコリーンを家の外に連れ出し、解放しました。
何故ジャニスが彼女を解放したのかについては、コリーン自身、今でも分からないのだとか。
ただ、キャメロンが目論んでいた「何か」が、ジャニスに危機感を抱かせたのではないか、と彼女は予測しています。
その後、フッカー夫妻は逮捕され、裁判にかけられました。
夫のキャメロンには懲役104年が言い渡されましたが、妻のジャニスは、夫に対する証言と引き換えに、免責されています。
3 帰宅が遅くなりすぎて、殺人鬼に会わずに済んだ女性
1974年から1991年にかけて、10人を殺害した連続殺人犯として知られる、デニス・レイダーという男がいます。
1979年、レイダーは、アンナ・ウィリアムスという女性を標的に定め、数ヶ月間、彼女をストーキングしていました。
同年4月28日、レイダーは遂に、より直接的な行動に出ます。
アンナが外出したのを確認すると、彼は、その誰もいない家に侵入し、固定電話の線を切断し、彼女の帰りをひたすら待ちました。
この状態で、アンナが帰宅すれば、もはや彼女の命はありません。
ところが、アンナが帰宅したとき、彼女は、何者かが侵入したことに気づいたものの、その侵入者に遭遇することなく、命拾いしたのです。
なぜ彼女は、殺人鬼の犠牲にならずに済んだのか。
実は、アンナ自身は、特に何もしていません。
強いて言えば、彼女は遊び過ぎただけです。
その日、アンナは友人とダンスに出かけていたのですが、かなり盛り上がったので、家路につくのが、予定より大幅に遅れていました。
待てど暮らせどアンナが帰ってこないことに、しびれを切らしたレイダーは、犯行を諦めて自分も帰ってしまったというわけ。
ちなみに、レイダーはその後、「あのとき、なぜ現れなかったんだ」というメッセージを込めた、ポエムをアンナ宅に郵送したそうです。
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4 テロリストに襲われた女性の最後の秘策
イギリス出身のケイ・ウィルソンという女性は、21歳のときにイスラエルに移住し、そこで、ツアーガイドとしての仕事を始めました。
それから25年が経った2010年のクリスマス、46歳の彼女が、友人のクリスティーンと一緒に森の中を散策し、風光明媚な自然を堪能していたときのこと。
突然、二人組の男が目の前に現れ、ケイたちに襲いかかります。
彼らは、パレスチナから国境を超えてきた、テロリストでした。
ケイは、咄嗟に、ペンナイフを取り出して応戦し、男に手傷を負わせます。
しかし、マチェーテ(山刀)を振り回す彼らに対し、ケイたちの抵抗はすぐに限界に達し、両手を背後で縛られ、猿ぐつわを嵌められました。
ここから、男たちによる、執拗な攻撃が始まります。
地面に横たわったケイは、体の至るところで、皮膚が切られ、骨が砕けるのを感じながら、生き延びるための最終手段をひらめきました。
それは、死んだフリをすること。
彼女は、両目を大きく見開き、全身から生気を追い出し、「死体」と化したのです。
そしてこの作戦は、見事に成功。
ケイにマチェーテを振り下ろしていた男は、彼女が死んだと思い込み、その場を離れました。
これにより、辛うじて命は助かったのですが、しかし、ケイはこの後、死ぬよりも辛い経験をすることになります。
死体を演じて、じっと動かないケイの前で、クリスティーンが殺されるのを、彼女は瞬き一つせず、見つづけねばなりませんでした。
その後、男たちが去ってから、ケイは起き上がり、息も絶え絶えの状態で、ただ歩き続け、とあるキャンプ地に到達。
そこでキャンプをしている人が、今にも倒れそうなケイを発見したことで、彼女はすぐに病院に搬送され、手当てを受けました。
犯人の男たちは逮捕され、事件から9ヶ月後、ケイは、法廷で彼らと相見えることに。
二人の男は、ケイの姿を見るやいなや、彼女が生きていることに驚き、互いに責任を転嫁して口論を始めたとか。
裁判の結果、この二人には、終身刑が宣告されています。
しかし、ケイにとって、これで事件が終わったわけでは、勿論ありません。
自分の目の前で、友人が、激しい苦悶の声を上げながら殺されていくのを、彼女はただじっと見ていたのであり、この事実は、マチェーテによるどんな深い傷よりも、彼女の心に深い罪悪感を残したと、ケイは語っています。