「エクソシスト」と聞いても、ホラー映画の中で、悪魔と戦う神父のイメージしか湧かない、という人が多いでしょう。
ホラー映画の傑作である、『エクソシスト』の影響もあるのかも知れません。
しかし、エクソシストは決して映画の中だけの存在ではないのです。
今回は、小説でも映画でもなく、現実世界における悪魔祓いの実体をご紹介します。
〈originally posted on November 20,2016〉
1 悪魔祓いの最多記録保持者
ローマ・カトリック教会のゲイブリエル・アモース神父は、世界で最も多くの人に悪魔祓いを行った人物です。
集団に対して一斉に実施したものを含めると、その人数は10万を超えています。
アモース神父は1990年に国際エクソシスト協会を設立したメンバーの一人で、世界的に有名なエクソシストでもあるのです。
今まで数え切れないほどのインタビューを受けて悪魔祓いについて語り、また何冊もの専門書を書いています。
既に現役を退いていますが、多い時には一日に20件もの悪魔祓いをこなしていたそうです。
2 教授 vs 悪魔
悪魔が取り憑くなどといった超自然現象は、科学者によって否定されることが多いのですが、その科学者をもってしても認めざるをえなかった事例があります。
2008年、ニューヨーク医科大学で准教授を務め、精神科医でもあるリチャード・E・ギャラガー博士は、悪魔に憑かれたある女性についての詳細な研究結果をまとめました。
本人のプライバシーに配慮して、女性には「ジュリア」というあだ名が付けられています。
ギャラガー博士によると、ジュリアはベッドの上で人間とは思えないような体の動きを見せ、ときどき理解不能な言語を喋っていました。
また、このとき同じ部屋にいたスタッフに関して、彼女が知り得ない事実を語ることもあったとか。
口をついて出る言葉には誰かを罵るようなものが多く、また、ジュリア自身のことを「彼女」という三人称で表現していたのが大きな特徴です。
その発言の一例を挙げると……。
彼女を一人にしろ!
彼女は我々のものだ!
失せろ、マヌケな神父ども!
声のトーンは目まぐるしく変化し、男性のような低い声になることも。
宗教的なもの、神聖なものに対する憎悪に満ちた感情が表れていたと、ギャラガー博士は説明しています。
3 アメリカで初の「悪魔裁判」
「悪魔殺人の裁判」として知られ、アメリカの裁判史上で初めて悪魔の存在が取り上げられたのが、アーニー・ジョンソンのケースです。
1981年2月16日、コネチカット州ブルックフィールドで、ジョンソンは自分が住むアパートの大家を殺害した容疑で逮捕されました。
後の裁判で彼の弁護士は、この犯行はジョンソンに取り憑いた悪魔の仕業によるものだという驚きの弁護を行います。
しかし、実はもともと憑かれていたのはジョンソンではありません。
彼のフィアンセの弟なのです。
その11歳の少年に取り憑いた悪魔は、数日間にわたる悪魔祓いの結果取り除かれたのですが、その直後、今度はジョンソンに取り憑いたというわけ。
それから数ヶ月後、ジョンソン……というか、彼に取り憑いた悪魔がナイフで大家を刺殺。
しかし、悪魔による犯行であるという主張は裁判で認められず、ジョンソンには10~20年の不定期刑が宣告されました。
ただし、彼はその後、5年間の服役だけで出所しています。
4 「場所」に取り憑く悪魔
悪魔が取り憑く対象は人間だけとは限りません。
ときには特定の場所に取り憑くこともあるのです。
2013年5月31日、スリランカのコロンボに住む女性教師の家に悪魔が取り憑きました。
それを祓うべく現れたのが、プロの悪魔祓い師であるマキシ・カストロ。
その地域では人口の7割を仏教徒が占めており、彼のようなエクソシストは珍しくありません。
悪魔が憑いた原因について、過去にそこで何者かが散骨したためだと考えたカストロは、庭にやや浅めの墓穴を掘ります。
そして周りの者に指示を出し、自分自身を剣とともに生き埋めにさせ、その後は剣が地面を突き破るのを合図に助け出してもらう計画でした。
しかし、彼が地中に埋まってから約3時間が過ぎても何の変化も無し。
その様子を見守っていた人たちが心配になってカストロを救出したものの、彼は意識不明の状態。
すぐに病院に運ばれましたが、命は助かりませんでした。
5 約40体の悪魔に憑かれていた男
次にご紹介するのは、イングランドのウェスト・ヨークシャーに位置する小さな町オセットで起きた奇怪な事件。
マイケル・テイラーと妻のクリスティーンは、非常に信心深く、よくクリスチャンの集会に参加していました。
夫のマイケルは、集会の主宰者であるマリー・ロビンソンと次第に親密になり、いつしか妻のクリスティーンが二人の関係を怪しむようになります。
1974年、ある集会でクリスティーンは遂に、マリーと不倫しているのではないかと夫に詰め寄りました。
マイケルはそれを真っ向から否定したのですが、このときから彼の様子がおかしくなっていきます。
奇妙な行動が目立つようになり、突発的に狂ったような言動に走ることも。
そんな異常な状態が数ヶ月続き、周りの住民からは悪魔に憑かれているのではないかと噂され始めます。
これを深刻に受け止めたマイケルは、神父に悪魔祓いを依頼。
24時間以上にも及ぶ死闘のすえ、マイケルの体からは40体もの悪魔が祓われました。
ところが、彼がその場を後にしようとしたとき、神父から非常に気になる警告を受けたのです。
ほとんど全ての退魔が成功していながら、一番ヤバそうな悪魔を放置されたマイケルは、とりあえず帰途につきます。
そして家に着いた直後、妻と飼い犬を殺害。
その後、血塗れになって通りをさまよっているところを発見されました。
マイケルは裁判にかけられましたが、刑事責任能力なしとみなされ、無罪となっています。
6 アンネリーゼ・ミシェル
次にご紹介する事例は、過去にさまざまなメディアで取り上げられ、大きな議論の的となった悪魔祓いのケースです。
ドイツ出身のアンネリーゼ・ミシェルは、てんかんの発作と精神障害に苦しんでいました。
彼女の症状は悪化の一途をたどり、1973年からは危険な行為に及ぶこともしばしば。
また、その頃から彼女は得体の知れない声を聴くことも増えました。
数年後、不安になった彼女の両親は、カトリック教会に相談。
それを受けて、二人の神父が10ヶ月にわたり、70回に及ぶ悪魔祓いを行いました。
その間ミシェルはほとんど食べ物を口にせず、美しく整っていた顔は骸骨のように痩せこけていく一方。
1976年、彼女は栄養失調により23歳の若さでこの世を去りました。
後の裁判で、ミシェルの両親と二人の神父には、過失致死罪により6ヶ月の懲役刑が言い渡されています。
7 取り憑かれた体の中では何が起きているのか
1 超怪力になるナゾ
悪魔に憑かれた状態の人は、激しく暴れて大人が数人がかりでも手がつけられないということがあります。
普段は強そうに見えない人でも怪力を発揮するのは何故なのか。
その原因は、本人が強い恐怖を感じているためにアドレナリンが大量に分泌され、それにより筋肉への酸素供給が増えるからだと考えられています。
2 ありえない体の動きをするナゾ
腕や足が不自然な方向へと曲がっている様子は、いかにも悪魔に憑かれているという感じがします。
実は、これは本当にあり得ない動きをしているわけではなく、こういった体の動きは誰でもやろうと思えばできるのだそうです。
ただ、普通はそんな風に妙な姿勢をする人はいないので、憑かれている人が不自然な体勢をとっていると、あり得ない動きをしている錯覚を与えてしまうのです。
3 意味不明の言語を喋るナゾ
知らないはずの外国語を話したり、訳の分からない言葉を発したり……。
こういう現象も悪魔に憑かれた人によく見られます。
これは、無意識のうちに脳に蓄積された雑多な情報が「言語」として再構成されているのではないかと考えられています。