レトロゲーム
のコレクションは、日本国内だけでなく、欧米でも強い人気があります。
どちらかと言えば、欧米の方が盛り上がっている面があるでしょう。
アメリカなどでは、日常的に行われるガレージセールで、古いゲームのコレクションが出品されることもよくあります。
そういった場所に足を運び、お目当てのゲームを入念に探すのが、熱心なゲームコレクターたち。
彼らは多くの場合、純粋に自分のコレクションに加えたいがために、「ゲームハント」を行います。
しかしながら、近年、この状況に、大きな変化が現れているのです……。
〈originally posted on September 8, 2021〉
1 初代スーパーマリオが200万ドル
今から35年以上前に発売された、NES(ファミコンの海外版)用の初代『スーパーマリオ』。
その未開封品が、つい最近、オークションにて200万ドルで落札されました。
たった一本のゲームソフトが、200万ドル。
それだけ古いソフトが、未開封のまま存在していることは、確かに珍しいと言えます。
それにしても、200万ドルというのは尋常ではありません。
一体なぜこんな現象が起きているのでしょうか。
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2 誰がレトロゲームを鑑定するのか
日本で中古ゲームソフトを売る場合、そのゲームのコンディションを評価するのは、買取店です。
しかし、海外では、レトロゲームの鑑定を専門に引き受ける会社が存在します。
その一つが、2017年に設立された、「ワタ・ゲームズ」。
この会社は、ゲームソフトが送られて来ると、箱表面や外装フィルムのキズ・汚れなどを調べ、そのコンディションに応じて等級を付けた上で、送り主に返送するのです。
当然ながら、高い等級が付けられれば、それだけオークションで高く売れる可能性があるということ。
少しでも高値でレトロゲームを売りたい人にとって、ワタ・ゲームズの鑑定は非常に重要な意味を持ちます。
3 どこでレトロゲームを売るのか
レアなゲームであれば、非常に高額で売れることもあるわけですから、そういうゲームは、街の小さなゲームショップではなく、オークション・ハウスで売るのが通常。
そして、レトロゲームのオークションにおいて、現在、支配的な地位にあるのが、1976年に、ジム・ヘルパリンによって設立された「ヘリテージ・オークションズ」という会社。
この会社がレトロゲームをオークションで扱い始めたのは、今から約2年前。
どんなゲームでも扱うわけではなく、先述のワタ・ゲームズによって鑑定されたゲームしか取扱いません。
つまり、オークションにレトロゲームを出品したければ、まずはワタ・ゲームズの鑑定を受けるのが必須ということ。
この点に関して、二つの奇妙な事実があります。
一つ目は、ヘリテージ・オークションズが、ワタ・ゲームズによって鑑定されたゲームしか扱わないと発表した2018年の時点で、ワタ・ゲームズは、実はまだ鑑定の業務を開始していなかったということ。
二つ目は、ワタ・ゲームズのようにレトロゲームを鑑定する企業としては、10年以上も活動している「VGA」という会社が、当時既に存在していたということ。
10年の鑑定経験のある会社を差し置いて、ただの一つもゲームを鑑定していない会社を信頼するというのは、何とも妙な話。
しかも、ヘリテージ・オークションズの設立者であるジム・ヘルパリンは、ワタ・ゲームズの顧問でもありました。
ここまで来ると、この二つの会社の間に、何やら怪しい関係が見え隠れするのは、当然と言えましょう。
4 如何にしてレトロゲームの値段を釣り上げるか
ヘリテージ・オークションズの参加者は、落札した場合、落札額の20%を上乗せした金額を支払わねばなりません。
この20%が、ヘリテージ・オークションズの儲けとなります。
ということは、より高額で落札された方が、会社の利益も上がるということ。
では、レトロゲームの世界で、ゲームの価格を高騰させるには、どうすればよいか。
その方法の一つは、「レトロゲームは儲かる」という新常識を世間に定着させることです。
それにより、人々はレトロゲームを投資の対象として見るようになります。
5 レトロゲーム・バブルの始まり
2017年、NES版の初代『スーパーマリオ』が、3万ドルで売れたことが大きな話題になりました。
そして2019年には、同じ『スーパーマリオ』が、今度は10万ドルで落札。
わずか2年の間に、3倍以上の価格です。
興味深いのは、このとき10万ドルで『スーパーマリオ』を共同購入した3人のうちの1人が、先程のジム・ヘルパリンだったということ。
つまりこの人、自分の会社が主催するオークションに出品された物を、自分で落札したのです。
その直後、ヘリテージは、それまでの最高価格を大きく更新する10万ドルで売れたという事実を、プレスリリースで発表。
これについて、ワタ・ゲームズのCEOであるデニス・カーンは、レアなレトロゲームの価格高騰の傾向は、今後も続くだろうとコメント。
彼はその後も、様々なメディアを通して、レトロゲーム市場の未来が明るいことを強調し続けました。
このように、ビデオゲームが記録的な高額で売買されれば、それはニュースのヘッドラインを飾ることになります。
それによって世間は、「レトロゲームは儲かる」という認識を強めていくのです。
6 誰が超高額なレトロゲームを買うのか
投資目的でレトロゲームを購入する人たちにとっての心配事は、ゲーム一つに何千ドル、何万ドルといった大金を出す買い手が本当に現れるのか、ということ。
レトロゲームをしこたま買い集めても、それらを高額で転売出来なければ、意味が無いからです。
この点、その不安を払拭してくれる人物が、2019年に現れました。
それが、エリック・ナイアマンという歯科医。
彼は、『マリオブラザーズ』や『ゴルフ』『バルーンファイト』といった、NES初期のゲームの未開封品を中心に40本近くの超レア・ゲームソフトを、何と100万ドルもの資金を投資家からかき集め、購入したのです。
レア度が高いとは言え、所詮はファミコン時代のゲームソフト。
そんなものに100万ドルを出すコレクターが現れたことは、当然、大きなニュースとして報じられました。
このナイアマンという男性は、よほどレトロゲームが好きなのだろう、と思いたくなりますが、その点がどうも怪しい。
100万ドルで一連のゲームを購入した時における、彼のゲームコレクター歴は、たったの数ヶ月。
根っからのゲームコレクターというわけではないのです。
しかも、購入時期は、ヘリテージがレトロゲームを扱い始めた時期と一致します。
さらに、ヘリテージとワタ・ゲームズは、ナイアマンのような熱心なコレクターが、世の中には数多く存在しており、レトロゲームの争奪戦はまだまだ激化していくという趣旨のコメントを発表。
この二社とナイアマンとの関係はよく分かりませんが、一つ明らかなのは、ナイアマンが100万ドルもの大金を使ってレトロゲームを購入した真の目的は、彼のゲーム・コレクションを充実させるためではないということ。
レトロゲーム・バブルが加速すれば、彼が手に入れたゲームソフトは、購入資金の何倍もの価値を生み出します。
それらを全てオークションに出せば、まさに巨万の富を得ることが出来るのです。
7 レトロゲームの価値はどうやって決まるのか
テレビのお宝鑑定番組を観たことのある人は多いと思います。
家の押入れで長年眠っていた古い壺なんかを持ってきて、専門家に鑑定してもらうアレです。
100万円の価値があると思っていたら、数千円にしかならなかったり。
逆に、数千円の価値しかないと思っていたら、驚きの高額だったり。
どうやって具体的な価格を決めているのかを疑問に感じた人もいるかも知れません。
ところで、お宝を所持している者と、それを鑑定する者が、同一人物だったらどうなるか。
常識的に考えて、その鑑定には不正の疑いが生じるでしょう。
自分の物をより高く売るために、本来よりも高く評価するのは目に見えています。
それと似たようなことが、ワタ・ゲームズでも行われていた疑惑があるのです。
同社の取締役だったジェフ・マイヤーは、ある時、有名なゲーム・コレクターから大量のレトロゲームソフトを購入し、その後、それらをヘリテージのオークションにて売却しました。
ここで重要なのは、それらのゲームソフトを鑑定したのが、他ならぬワタ・ゲームズであるということ。
つまりマイヤーは、自分の会社に自分のゲームを鑑定させた上で、それらをオークションにかけていたのです。
しかも、その事実は公表せずに……。
ちなみに、ワタ・ゲームズでは、自社の社員が、自社で鑑定したゲームソフトをオークションに出品する行為を禁止しています。
この件について批判を浴びたマイヤーは、昨年1月に同社の取締役を辞任しました。
さらに、ワタ・ゲームズの創設者の一人であり、同社の首席顧問でもあるマーク・ハスペルも、最近になって疑惑の眼差しを向けられています。
彼は、ワタ・ゲームズが創設された頃から、マリオやメトロイド、ゼルダといったレトロゲームを急に買い漁るようになりました。
そしてつい先日、彼が、アタリ2600用のレトロゲーム70本以上を、大手オークションサイトのeBayで、偽名を使って高額で出品していた疑いが浮上。
お察しの通り、それらのゲームを鑑定したのはワタ・ゲームズであり、ゲームのほとんど全てが、高い等級を与えられていたのです。
8 邪魔なサイトは潰す
仮に、ワタ・ゲームズが恣意的な鑑定を行っているとすれば、その不正はどうやれば判明するのか。
ある古いゲームソフトについて、10万ドルの価値がある、と鑑定された場合、その金額がインチキであることにはどうやって気づくのか。
その一つの手段は、ネット上のデータベースを参照することです。
かつて、膨大な数のレトロゲームについて、その価値を細かくデータベース化した、「ニンテンドー・エイジ」というウェブサイトがありました。
このサイトを見れば、自分の持っているレトロゲームが、現在どれくらいの価値があるのか、いくらで売れるのかをある程度把握出来ます。
逆に言えば、こういうサイトは、鑑定会社が恣意的な鑑定をするには極めて邪魔な存在。
そこでマイヤーは、ニンテンドー・エイジをサイトごと買収し、その直後、サイトを閉鎖しました。
データベースのみならず、同サイトのフォーラム等で共有され、長年に渡って蓄積された、レトロゲームに関する知識が全て消滅したのです。
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9 ビデオゲーム・バブルの崩壊
レトロゲームの価値はどんどん上がっていくと大衆が信じれば、転売目的でレトロゲームを買い求める人が増え、そのことがさらにレトロゲームの価格高騰を招きます。
まさに、レトロゲーム・バブル。
この状況を、ワタ・ゲームズとヘリテージ・オークションズが意図的に作っているのだとしたら、転売ヤーたちは、両社にとって都合のいいように踊らされているだけということになります。
一方、この現状に迷惑を被っているのが、純粋にビデオゲームを愛するコレクターたち。
最近は、レトロゲームを目当てに彼らがガレージセールに行っても、転売ヤーたちに先を越され、何も買えない場合が珍しくないとか。
レトロゲーム・バブルの波に乗り遅れまいとする転売ヤーは、今後も増え続けるでしょう。
それと同時に、レアなゲームの価格も上がり続けます。
今年の7月には、NINTENDO64用の『スーパーマリオ64』が、150万ドルで落札されました。
その翌月には、NES用の『スーパーマリオ』が、200万ドルで落札。
将来的には、1本のゲームソフトが、300万ドルで取引きされる日が来るのかも知れません。
しかし、レアなゲームソフトの価格は、いつまでも上がり続けるということはありません。
バブルはいずれ必ず崩壊します。
まさにその時、一攫千金を目論んでレトロゲームを買い漁っていた転売ヤーには、地獄が訪れることになるでしょう。
かつての日本で、バブルに乗じて不動産を買いまくった人々が、地獄を見たように……。