今回は、存在してもいない病気について解説するという変な記事です。
病気に対して予防や対策をするためには、その病気についてよく知ることが肝心。
しかし、以下でご紹介している病気について詳しく知っても、それらを予防するのには何の役にも立ちません。
なにせ、存在しない病気ですから……。
〈originally posted on December 17,2017〉
1 コカイン・ベビー
妊娠中の女性がコカインを服用した場合、胎児にはどのような影響が出るのか。
この点につき、コカインの使用者が急増した1980年代~1990年代のアメリカでは、薬物の有害性がかなり深刻に捉えられ、生まれてくる赤ん坊の身体・知能に重大な問題が生じると信じられていました。
このような子供は、コカイン・ベビーやクラック・ベビー(コカインの俗称がクラックなので)などと呼ばれ、ニューヨーク・タイムズ紙は、今後400万人以上のコカイン・ベビーが生まれることで、将来的にアメリカの教育制度が破綻するとまで予測したのです。
この予測が正しければ、成長したコカイン・ベビーたちが様々な犯罪行為に走り、街が無法地帯になる可能性すらあります。
社会に災厄をもたらすコカイン・ベビーの時代が来ると思い込んだ多くの国民は不安に陥りました。
ところが、実のところ、こんな世紀末的な事態を心配する必要は全く無かったのです。
母親の摂取したコカインが胎児に影響しうることを示唆するデータは確かに存在しますが、その数はわずか23例。
しかも、その子供が大人になってからの状態について調べたデータはありません。
医学的な根拠が薄弱であることを考えると、コカイン・ベビーと呼ぶべき子供は、実質的には存在していなかったと見てよいでしょう。
にも関わらず、この誤った認識のため、当時コカインをやっていた妊娠中の女性は、タバコや酒を摂取している場合よりもはるかに強い批判に晒されたそうです。
【スポンサーリンク】
2 誰にでも当てはまる(?)集合体恐怖症
(トライポフォビア)とは、キツツキの開けた穴や蜂の巣など、小さい穴が集まった物に対する恐怖症です。
「病気」としての歴史は浅く、2005年ごろから認知度が上がり始めました。
この症状を患っている人は、小さな穴の集合体を見ると、強い嫌悪感を催し、肌が痒くなったり、吐き気がしたりすると言われています。
しかし、よく考えてみると、細かい穴が密集した物というのは、それだけでも普通の人にとっては十分キモチワルイわけで、全ての人が大なり小なりこの恐怖症を持っているとも言えそうです。
実際、この恐怖症は医学的にはまだ完全に解明されておらず、カリフォルニア大学のキャロル・マシューズ博士のように、集合体恐怖症は、病気としては存在しないと断言する人もいます。
3 女性を襲う謎の虫
1962年、アメリカのとある織物工場内で、ドレスを製作していた女性従業員たちの間で、奇妙な病気が流行しました。
その主な症状は、手足のしびれや目眩、吐き気など。
最初のうちは、病気の原因が特定出来ませんでしたが、何らかの虫に噛まれたことでこれらの症状が現れたという噂がすぐに広まりました。
そして奇妙なことに、噂が流れてからこの謎の病にかかる人が急増し、その数は一気に60人を超え、中には入院する者も出て来る事態に。
得体の知れない虫が引き起こす病気の話は、マス・メディアによって大きく取り上げられ、さらに、専門機関が具体的な原因究明に乗り出しました。
その結果、出された答えは、なんと……。
「集団ヒステリー」でした。
何人かの従業員は実際に虫に噛まれていましたが、おそらくその虫はどこにでもいるごく普通の虫。
しかし、噛まれた当人の中で、とんでもなく危険な虫に噛まれたのではないかという不安が増大し、それが目眩や吐き気につながっていたのです。
さらに、その噂が広まったことで、同様の症状を訴える人が続出したのだと考えられています。
4 うつ病(モドキ)
がれっきとした病気であるのは言うまでもありません。
ここで問題にしているのは、あくまで「うつ病モドキ」です。
過去に専門家からうつ病であると診断された6000人を対象に行ったあるリサーチによれば、彼らのうち、本当に深刻なうつ病状態であったのは、60%にも満たなかったとか。
つまり、本来は「病気」というほどでもない症状の人が、うつ病であると診断されているケースがかなり多いということになります。
それだけなら、大した問題ではないと思われるかもしれません。
しかし、「抗うつ剤」を使う人の存在を考慮すると、そうも言っていられないのです。
アメリカでは、過去20年間で、抗うつ剤の使用者数が約4倍になり、そのうち、10代~20代の若い世代の使用者が1割以上を占めています。
うつ状態になると、脳内で合成されるセロトニンという物質が減少します。
抗うつ剤は、そのセロトニンの合成を助ける働きがあるのですが、十分なセロトニンがある(即ち、うつ病でない)人がこの薬を服用すると、セロトニンの量が過剰となってバランスを崩してしまうのです。
その程度が酷くなると、突然の発作に襲われることもあるので、「うつ病モドキ」の場合には、簡単に薬に頼ってしまわないように注意が必要でしょう。
【スポンサーリンク】
5 ユダヤ人を救った奇病
1943年、ナチス・ドイツの兵士がイタリアでユダヤ人を一斉検挙しようとした際、ある病院において、「K症候群」なる病気にかかった患者が急増しました。
その病院を訪れたユダヤ人は、ヴィットリオ・セイサードッティという医師によって、次々とK症候群であると診断されていたのです。
では、このK症候群にかかるとどんな健康被害があるのかというと、特に何もありません。
この病気は、ナチス・ドイツの兵士を追い返すために、彼がでっち上げたものなのです。
病院にナチスの兵士たちがやって来ると、彼らはセイサードッティ医師からこの謎の病気について警告され、極めて感染力が強くヤバイ症状を抱えた患者が院内に大勢いることを知ります。
しかも、それらの「患者」たちは、兵士に聞こえるようにわざとゲッフォン、ゲッフォンと勢い良く咳き込んでいました。
さすがのナチスもこの状況で平気でいられるはずはなく、彼らは速やかに退散したとか。
この作戦によって救われたユダヤ人の数ははっきりしていませんが、おそらくは数十人から数百人いたのではないかとされています。