フィクションの世界では馴染み深いのに、現実の世界では無縁の物。
その一つは、武器ではないでしょうか。
ナイフ、剣、刀といった近接武器から、銃、ライフル、バズーカといった遠距離武器まで、映画やゲームではよく目にしますが、現実に手にしたことのあるのはナイフくらいだという人が多いはず。
それらの武器の中には、フィクションの影響でかなり誤解されているものがあります。
今回は、そういった武器の数々をご紹介しましょう。
1 弓矢

弓矢を駆使して華麗に敵を蹴散らすヒーローで最も有名なのは、やはりロビン・フッドでしょう。
ロビン・フッドの活躍を描いた映画の中で、僕が特に好きなのは、ケヴィン・コスナーが主演した『ロビン・フッド(原題 Robin Hood: Prince of Thieves)』です。
流れるような動作で背中の矢筒から矢を引き抜き、瞬時に敵を仕留める様は、カッコよすぎて初めて観たときは痺れました。
しかしながら、歴史上の文献などによると、これはあまり正しくないのだとか。
実際は、矢筒を背中に携えることは、(少なくとも西洋においては)一般的ではなかったとされています。
その理由は、戦闘において効率が悪いから。
背中よりも、腰などに矢筒を装備した方が、素早く矢を射ることができます。

さらに、矢の残数を把握するのもこちらの方が容易です。
また、矢筒を使わずに、矢をベルト等に直接装着する場合もあったとか。
確かに、いちいち背中から矢を取り出すのは、動作に無駄が多い気がします。
特に、敵味方が入り乱れた激しい戦闘の最中にあっては、コンマ数秒の遅れが命取りになりますから、身体の後ろではなく前に矢を装備するのが合理的。
とは言うものの、背中の矢筒から矢を抜くのは、そのカッコよさがロマンに溢れています。
効率を取るか、ロマンを取るか。
実際の戦場では前者でしょうが、映画やゲームの中では後者でいいと思います。
2 ヌンチャク

世界中の人たちにとって、「ヌンチャク」という言葉で連想する有名人は一人しかいません。
それはもちろん、ブルース・リーです。
鍛え抜かれた鋼のような肉体と、目にも止まらぬ速さで繰り出されるヌンチャク攻撃は、カンフーの真髄を世に知らしめたと言っても過言ではありません。
ところで、このヌンチャクは、誰がどういう経緯で発明した武器なのか。
これに関しては、明確に記した文献がほとんど残っておらず、憶測の域を出ません。
一説によれば、米の脱穀に使用する農具が原型だと言われていますし、他説では、日本の「火の用心」でおなじみの拍子木が原型ともされています。
武器としてのヌンチャクが初めて文献に登場するのは、今から数百年前の沖縄について書かれた文章であるとする説が有力です。
その文章によると、ヌンチャク(的なもの)を武器として使ったのは、当時の華族階級の人々なのだとか。
彼らは刀や鉄砲などの武器が使えなかったため、通常は武器として使用しない物を、間に合わせの護身用武器として利用していたらしいのです。
その過程で生まれたのが、ヌンチャクというわけ。
ただし、これもやはり確たる証拠はありません。
さらに言えば、この武器が実際に戦闘で使用されたのかも疑わしいのです。
というのも、ヌンチャクは武器としてはかなり「残念」なものだから。
ヌンチャクは攻撃のリーチが短いため、刀や銃を持った相手にはほぼ無力です。
さらに、ブルース・リー並みのスゴ技を身につけなければ実戦で役に立たず、ズブの素人が振り回せば自分の顔面にヌンチャクが直撃して自滅する危険性大。
要するにヌンチャクは、扱いにくい上に威力もいまいちという、非常に残念な武器なのです。
となると、現実にはほとんど戦闘で使用されなかったという見方がかなり説得力を持ちます。
もしもブルース・リーの映画が無かったら、歴史の中に埋もれていたかもしれません。
3 スナイパーライフル

映画やビデオゲームに出てくる殺し屋に必須の武器というと、スナイパーライフルでしょう。
遠く離れたビルにいるターゲットを狙い、スコープを覗きながらゆっくりと引き金を引くと、次の瞬間には頭部に風穴を開けた相手が床に倒れる。
しかしこれも、現実とはかなり異なるのです。
まず、「スナイパーライフルといえばヘッドショット」という組み合わせは、それほど現実的ではないのだとか。
その理由は、万が一ヘッドショットを外してしまった場合、ターゲットに気づかれて、それ以上の任務遂行が不可能になるから。
あえて難易度の高いヘッドショットを狙うより、胸部や胴体を狙って任務遂行の確実性を高めるわけです。
また、現実世界のスナイパーは、照準で正確にターゲットを狙うテクニックよりも、「計算」の方がはるかに重要になります。

数百メートル先、時には数キロメートル先のターゲットに弾丸を命中させるためには、弾丸の軌道に影響を与える種々の要素、すなわち風力、風向、気温、重力などを考慮せねばなりません。
これらの要素を基にして緻密な計算を繰り返し、弾の発射角度を決定するわけです。
ちなみに、スナイパーというと一匹狼のイメージが強いですが、実際には上記のような細かい計算を担当するパートナーを伴うことも多いそうです。
そうなると、『ゴルゴ13』のデューク東郷とはかなりイメージが違いますね。
4 槍

近接武器には実に多くの種類がありますが、フィクションの世界で最もポピュラーなのは、剣や刀ではないでしょうか。
映画やアニメ、ゲームには、剣や刀を振り回す主人公が頻繁に登場します。
一方、槍はどうか。
槍を持ったキャラクターが主人公というのは、ゼロではないにせよ、かなり少ないと思います。
ゲームだと、『魔界村』の主人公アーサーの初期装備が槍ですね。
剣や刀に比べてやや人気が劣る印象の槍ですが、現実世界において歴史的にみれば、近接武器の中で槍はダントツの人気を誇る武器でした。
その理由の一つは、量産のしやすさ。
棒状の柄に金属の刃を付ければ完成ですから、製作工程が簡単です。
さらに、抜群のリーチの長さのおかげで、敵の接近を防ぎつつ攻撃が可能。
いざという時は、魔界村よろしく槍を敵に目掛けて投げることもできます(当然、武器を失いますが)。
こうしてみると、槍というのはなかなか優秀な武器なのです。
5 ガトリングガン

ガトリングガン!!
いきなり何だよと思われたでしょうが、それにしても名前の響きだけでこんなに強そうな印象を与える武器も珍しいと思います。
印象だけではなく、実際にガトリングガンは強力です。
こんな凄まじい殺戮兵器を発明した人物は、筋金入りの戦争マニアか何かだと思いたくなりますが、真実は真逆。
ガトリングガンを発明したのは、リチャード・ジョーダン・ガトリングというアメリカ人男性。
19世紀半ば、自動的に大量の種を蒔く装置を発明し、彼は特許を取得しました。

それ以降、ガトリングは農作業に役立つ機械をいくつも発明します。
しかし、南北戦争の勃発とともに、彼の中に変化が訪れました。
当時、出兵後に天然痘が原因で命を落とす兵士が多かったことから、戦場に出る兵士の数を減らすことができれば、死者の数も抑えられると考えたのです。
そのためには、1人で100人分の働きをするような兵士が必要。
そこで目をつけたのが、銃です。
この時代の銃は構造が原始的で、一発撃つごとに弾と火薬を詰める、という地味な作業が必須でした。
1分間で撃てるのはたったの2~3発。
そこでガトリングは、自らが過去に発明した自動種蒔き機を改良し、種の代わりに弾丸が発射されるようにしたのです。

クランクを回すと大きなバレルが回転し、そこに装填された弾丸が次々と前方に射出されます。
その発射速度は、1分間で約350発。
これ一台で、優に兵士100人分以上の戦闘能力があります。
発明は大成功です。
これにより、1862年、ガトリングは特許を取得。
この銃は、「ガトリングガン」と呼ばれるようになりました。
ところが……。
軍隊の規模を縮小させ、死者数を激減させるというガトリングの意図とは裏腹に、ガトリングガンはその後の戦争において多くの兵士とともに戦場に投入され、死体の山を築くこととなったのです。
一人でも多くの兵士を戦場から遠ざけるという目的で発明したガトリングガンが、大量の死者を生む原因となってしまったのは、皮肉という他ありません。