知っていても学校の成績アップには全く貢献しない、記憶のテクニックをご紹介します。
「記憶術」や「暗記法」といった言葉でググってみると、「一度覚えたら死ぬまで絶対忘れない超記憶術!」みたいなサイトが山のようにヒットします。
中には、それらの暗記テクニックを数万円で販売している所もあるから驚きです。
そういったものに本当に効果があるのかどうかは分かりませんが、誰でもすぐに記憶の達人になれるような、夢の方法はまず存在しないでしょう。
〈originally posted on November 19,2017〉
1 ドア通過記憶術(または忘却術)
何か用事があって自分の部屋に来たのに、それが何だったか思い出せない。
何かを取りに来たような気がするが、それすらも自信が無い。
まだそんな年齢じゃないのに、もうヤバイのか……。
ひょっとして、始まっちゃったのか……。
こういう場合、始まっちゃってる可能性も捨てきれませんが、おそらく心配する必要はありません。
ノートルダム大学のゲイブリエル・ラドヴィンスキー博士が行った研究によれば、人間は、ドアを通過することによって、その直前に覚えていたことを忘れる傾向があるそうです。
ドアを通過すること自体が重要なので、部屋から出るか、部屋に入るかは関係ありません。
また、元にいた場所に戻ってきても結論は同じです。
これは、ドアを通過すると、新しい環境に置かれたと脳が認識し、それまでの一時的な記憶をリセットしようとするからだと見られています。
ドアを通過するだけで生じる物忘れを防ぐには、覚えておきたい事柄を声に出しながらドアを通過するのが効果的なのだとか。
確かにこの方法だと、何度ドアを通過しても忘れることは無さそうです。
ただし、自宅以外ではやらない方が良いでしょう。
【スポンサーリンク】
2 低音ボイス記憶術(女子限定)
スコットランドとカナダの大学で実施された研究によると、女性が男性と会話をする際、その男性が低い声で話している方が、女性にとって魅力を感じやすいそうです。
それだけではありません。
低い声の方が、発言内容も記憶に残りやすいのです。
これは、人間の進化の過程において、女性は、男性的な要素が強いものをしっかり記憶に留めようとする傾向が備わったからだと考えられています。
男らしい男性をパートナーに選んだ方が、家族としての生存率が上がるわけです。
低い声の方が記憶しやすいのであれば、勉強にこれを応用することも出来る可能性があります。
高校で日本史や世界史を教える先生としては、低くて渋い声の男性教師が、女子生徒の成績アップにはピッタリと言えるかもしれません。
逆に、甲高い声で喋り、しょっちゅう声が裏返るような先生だと……。
3 ナイスなアイデア記憶術(及び糞アイデア忘却術)
何らかのアイデアを思いついたとき、それをメモに書き留める人は少なくないでしょう。
そうでもしないと、思いついたそばから忘れてしまいます。
しかし、そうやって書き溜めたメモを後から読み返してみると、中には下らないアイデアも混じっているかもしれません。
そんな不要なアイデアを綺麗さっぱり忘れるにはどうすればいいのか。
オハイオ州立大学の研究者らによれば、そういう場合、メモ用紙をグシャグシャに丸めてゴミ箱に捨てれば良いそうです。
逆に、覚えておきたいアイデアがあれば、そのメモを整理した上で保管しておきます。
たったこれだけのことなのに、記憶に与える影響は大きいそうです。
このように、単純な行動が記憶に影響する例は他にもあります。
例えば、手を洗うことは、自分が過去に行った事に対する罪悪感を弱める効果があるとされています。
何か重大な決断をした後、本当にそれで良かったのかと悩むことは誰しも経験があると思いますが、そういう時に手を洗えば、不安感が軽減されるのです。
4 うつむきっぱなし想起術
何かを必死に思い出そうとするとき、人は無意識のうちに床(地面)あるいは天井(空)に目線を動かします。
真正面をしっかり見据えたまま思い出そうとする人はあまりいないでしょう。
スコットランドの心理学者グループが、この現象について詳しく調べるため、ある実験を行いました。
まず、被験者となる小学生を2つのグループに分け、全く同じ暗記テストを実施します。
テスト中、一方のグループは、先生の顔などを含めどこを見ても可。
もう一方のグループは、床に置かれた解答用紙以外を見ることは不可。
実験の結果、解答用紙以外に目線を動かさなかったグループの方が、他方よりも20%正答率が高くなりました。
この違いを生んだ原因は、被験者が「顔」を見たか否かです。
人間は社交性の高い動物なので、誰かの顔が視界に入った途端、その顔に対して集中力が大幅に割かれてしまいます。
よって、何かを思い出すことに集中しているときは、他人の顔が目に入らないように目線を下か上に移してしまうのです。
また、この傾向は、高齢になるほど顕著に現れるとされています。
大事な試験の真っ最中に、うっかり試験監督者の顔を見てしまうのは、なるべく避けた方が良いでしょう。
5 写真的記憶術
とは、見たものを、まるで写真に収めるかのように正確に脳に焼き付ける記憶です。
あらゆる記憶法の中で、間違いなくこれが最強の方法でしょう。
人間の目をカメラとして使えるわけですから。
本当に存在すれば、ですが……。
1970年代に、ハーバード大学に通うエリザベスという学生にこの能力があるとする論文が発表されたものの、写真的記憶は、未だ科学的に証明されていません。
むしろ、人間の脳は、写真的記憶には向かないとさえ言えます。
我々が何かを記憶するとき、その情報はジグソーパズルのように分解され、その中から重要なピースだけが脳に刻まれます。
思い出すときは、それらのピースを使って元の情報を再構築するわけです。
「再構築」するということは、我々は、何かを思い出す度に、記憶したものとは微妙に異なる情報を引き出している可能性があるということ。
再構築の際、オリジナルの情報に影響を与えるのは、「現在の記憶」であるとされています。
すなわち、人間の脳は、記憶した情報を正確に思い出すことよりも、現在の状況に合わせて記憶を書き換えることを優先するのです。
ちなみに、いわゆる「一目惚れ」もこれで説明が付くと言われています。
実際には、誰かを見た瞬間に恋に落ちるなどといったことはほとんど無いでしょう。
その相手と交際を始めたり結婚したりしてから、初めて出会った時のことを思い起こすとき、現在の二人の関係を反映させた形で思い出すため、一目見た瞬間に惚れたのだと錯覚してしまうのです。
【スポンサーリンク】
問 「スーパー記憶術」なんて本当に存在するのか?
誰もが簡単に習得できて、資格試験等で絶大な効果を発揮する記憶術があれば、試験勉強の負担が大幅に軽減されることは言うまでもありません。
問題は、果たしてそのような、「スーパー記憶術」とでも言うべきものが存在するのか、という点です。
これについて、あくまで個人的な結論ですが、「誰もが簡単に習得できる」という意味では、そんな記憶術は存在しないと考えています。
記憶法や勉強法に関する書籍は、毎年のように出版されていますが、それらの中に、目新しい内容を盛り込んだ本は、おそらくほとんど無いでしょう。
覚えたい情報をイメージ化し、それらを使ってストーリーを作る「イメージ記憶術」というものがあり、世に出回っているナントカ記憶術は、基本的に、このイメージ記憶術の応用です。
例えば、「場所法」という記憶術がありますが、これは、自分の見知った場所に、覚えたい物を結合させて頭の中で強くイメージするというもの。
家の玄関から始まり、トイレ、浴室、居間、キッチン、自室などに、記憶したい物を結合させた映像を作るのです。
その他にも、「数字記憶法」「人名記憶法」など色々あるものの、結局は、印象に残りやすい映像を頭の中に描くことで、記憶を定着させるという原理は同じ。
そして注意すべきは、このイメージ記憶術は、試験勉強において、決して万能ではないということ。
そもそも、受験に必要な知識というのは、内容が抽象的なことが多く、イメージ化するのに向いていません。
それを無理矢理イメージに変換して、さらにそれを使ってストーリーを作り、仕上げに脳内で映像化するのですから、かなりいびつな(遠回りな)覚え方になるのです。
イメージ記憶術は、記憶力を競うコンテストなどでは役に立つかも知れませんが、これを試験勉強に有効活用するのは、誰にでも簡単にできる芸当では無いでしょう。
よって、イメージに頼らない記憶法であれば、誰でも手軽に効果を上げられる可能性はあるかも知れません。
例えば、有名なところでは、「エビングハウスの忘却曲線」を利用した覚え方です。
復習のタイミングを工夫することで、効率的に記憶を定着させるテクニックなのですが、これは誰でもすぐに効果を実感できるでしょう。
ただし、この方法は、記憶術というよりは、勉強のコツ、というべきかもしれません。
また、最近では、速聴を利用して、繰り返し聞くことで覚えるタイプの記憶法も注目されています。
この方法で、実際に効果があったという人も多くいるようなので、一度自分で試してみて、いつかその感想を追記しようと考えています。