タクシードライバーはなかなか過酷な仕事です。
タチの悪い酔客を乗せてしまったら、無茶苦茶な理由で難癖をつけられ、暴行を受ける可能性もあるでしょう。
イカレタ男に12時間もぶっ通しで運転させられることもあるかもしれません。
車の中は一種の密室ですから、厄介な客と二人きりという状況はかなりの危険度。
逆に、客の方は至ってマトモで、運転手が異常な人物、ということもあります。
結局、運転手と客の両方がマトモでないと、車内は悲惨な空間と化すのです。
〈originally posted on August 25,2019〉
1 (たぶん)史上最悪の泥酔客
タクシードライバーにとって厄介な客の代表格は、飲みすぎた酔っ払いでしょう。
これは恐らくどこの国でも同じです。
パキスタン出身のアファーク・イフティハール(33)は、イギリスのバーミンガムに住むタクシードライバーで、3人の子供がいます。
2018年12月15日午前4時ごろ、彼は、若い男女のグループを乗せました。
彼らは泥酔しており、一人の女性客が車内で嘔吐し始めたのを見たアファークは、一旦車を停めて外に出ます。
その女性に、とりあえず降りてもらおうとしたところ、別の仲間がタクシーの売上金を窃取。
これを見た彼が「警察を呼ぶぞ」と言った途端、若者たちがにわかに殺気立ちました。
これはマズイと感じたアファークは、運賃はいいからもう行け、と言ったものの、時既に遅し。
頭に血が上った客たちは、彼に壮絶な暴行を加え始め、そのうちの一人はスティレットヒールの先でアファークの右目をブスリ。
その後、彼は病院で治療を受けましたが、右目が回復することはありませんでした。
片方の目を失うのは、ドライバー職にとっては致命的。
彼はまだイギリス国籍を取得していないので、十分なサポートを受けることが出来ず、これから3人の子供をどうやって育てていくかが大きな課題として残されています。
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2 心臓発作のフリをして乗車拒否した運転手
目的地までの距離が短い客のことを、タクシー業界の隠語では「ゴミ」と呼ぶそうです。
近距離とはいえ一応は客ですから、ゴミ呼ばわりするのはどうかと思うのですが、運転手が心の中で「チッ…またゴミかよ」と呟くくらいならまだマシです。
今年、オーストラリアのニュー・サウス・ウェールズで、ある女性がシドニー空港でタクシーを止め、アナンデールまでと告げたところ、その運転手は露骨に表情が険しくなりました。
空港から目的地までは約10km。
運転手がその女性客のことを「ゴミ」だと思ったかどうかは分かりませんが、彼は何があっても乗車を拒否したかったようです。
その男は、いきなり車から降りると地面に膝を突いて胸を押さえ、心臓発作が始まったフリを始めました。
そして今にも泣きそうな表情で、
「お客さん、運転はムリだ。絶対ムリ。具合が悪いんだ。もし事故ったら誰が責任を取る?」
と言いつつ、近くの木にしがみつく有様。
これを見た女性客は、半ば呆れて「オスカーものの素晴らしい演技よ!」と称賛したとか。
この事実を知ったタクシー会社は、問題の運転手を解雇。
臭い芝居までして近距離の客を断ったがために、その男は、社会のゴミにならないよう、再就職先を探す日々を送るはめになりました。
3 嘘の性的暴行で運転手を告訴した客
『それでもボクはやってない』という映画をご存知でしょうか。
痴漢の冤罪を題材にした、周防正行監督の作品です。
僕自身は観たことが無いのですが、知る人ぞ知る「前田有一の超映画批評」というサイトで98点という高得点を叩き出しています。
こういう冤罪は電車の中だけで発生するというイメージがありますが、場合によってはタクシーでも起こるのです。
2017年1月8日、イギリスのマンチェスターでタクシードライバーをしていたハルーン・ユーサフは、深夜に一人の女性客を乗せました。
彼女の名前はローラ・フッド(当時25歳)。
目的地はローラの自宅で、ユーサフは何の問題も無く、彼女を家に送り届けました。
しかし、この至って平凡な出来事で、彼は人生を狂わされることになります。
後日、ローラは彼を告訴したのです。
性的暴行を受けたという理由で。
彼女の話によれば、ユーサフは故意に遠回りをした上で、車からローラを引きずり降ろして暴行を加えたとのこと。
しかし、警察の捜査が始まった当初から、彼女の証言には奇妙な点がありました。
自分を襲った運転手の外観について、「50歳くらいの男でヒゲは生えていない」と供述していたのですが、ユーサフは当時29歳で、豊かなヒゲが特徴的でした。
さらに、「故意に遠回りをした」という点については、タクシーに設置されたレコーダーの走行記録を調べたところ、ローラがATMを利用するために途中で一回降りた以外は、どこにも寄り道などしていなかったのです。
こういった食い違いにも関わらず、ローラは自分の主張を決して曲げませんでした。
裁判は約2年半にも及び、今年の6月、彼女は遂に、自分の主張が真実ではないことを認めたのです。
ユーサフの無実は証明されたものの、ローラを乗せるまでは妻と子供と平穏な生活を送っていた彼にとって、この「試練」は悪夢そのもの。
現在、彼は何かにつけて不安感を抱くようになってしまったとか。
ちなみに、虚偽の事実に基づく告訴によって、一人のタクシードライバーの人生を狂わせたローラには、有罪判決が下されています。
4 妊婦に怒鳴り続ける鬼畜ドライバー
イングランド北部のリーズに住むダナ・ハリソン(23)は、子供を出産するというめでたい日に、吐き気のするような体験をしました。
それは、予定よりも11日早く陣痛が始まり、急いでタクシーに乗って病院に向かっていたときのこと。
病院まであと少しというとき、彼女は車内で破水し、今にも子供が生まれそうな状態になったのです。
それを見た運転手は半狂乱になり、ダナに激しく怒鳴り始めました。
病院に到着し、ダナが車椅子に乗って分娩室に向かおうとしているときも、後部座席を掃除しろと言いながら運転手は怒りをぶちまけ続けます。
そして、車内を汚したことを理由に、50ポンド(約6500円)の追加料金を請求。
彼女は十分な持ち合わせが無かったので、とりあえず30ポンドを支払うことに。
これでようやく解放されるかと思いきや、その運転手はダナが病院に入っていくまでずっと恨み言を叫んでいたとか。
ちなみに、彼女の話によると、後部座席は少し濡れてしまっただけであり、運転手がそこまで激昂するのは信じがたいとのこと。
この事実を後から知った彼女の夫は、タクシー会社に電話し、その運転手の名前を聞き出そうとしたのですが、会社側は明らかにしませんでした。
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5 運転手に強盗を実行させた客
タクシードライバーにとって最も怖い体験の一つは、客に車をカージャックされることでしょう。
2000年、スコットランド在住のアリステア・ランキン(当時30歳)は、武器を携えた10代の客たちにタクシーを乗っ取られ、命からがら逃げたという恐ろしい経験をしています。
そして2015年11月、またもや彼はヤバすぎる男性客を乗せてしまいました。
その男はランキンに銃を突きつけ、嘘くさいポーランド語訛りでスコットランド銀行に向かうよう命令。
警察に通報出来ないようにするため、ランキンの携帯の電源も切らせました。
目的地に着くと、男はランキンの胴回りに爆弾を巻きつけ、メモが貼られた大きめのバッグを持たせて銀行の受付に行くように告げます。
命令に背けば胴体が吹っ飛ぶかもしれない彼に選択の余地はありません。
ランキンは言われたとおり受付に行き、行員の女性にバッグを差し出しました。
メモには「4分でバッグを満杯にしろ」との指示が。
それを見た行員は9730ポンド(約120万円)をバッグに詰めてランキンに渡します。
しかし、彼がタクシーの場所まで戻ると、犯人は既に逃走。
その後、警察と爆弾処理班が到着し、ランキンの体から「爆弾」を無事に取り除いたのですが、爆弾は偽物でした。
とは言え、彼は自分の体が今にも爆発するかも知れないと思い込んでいたわけで、その恐怖は相当に大きかったのは間違いありません。
その証拠に、事件の直後から、ランキンはPTSDに苦しめられるようになったとか。
運転手に強盗を実行させるというこの卑劣な事件を起こしたのは、ジムのインストラクターをしていたアンディ・パトリックという男。
パトリックは、事件から3週間後に逮捕されました。
ランキンの妻トレイシーは取材に答えて、
「パトリックにはどれだけ重い刑が下されても足りない。夫に地獄を味わわせたんだから」
と語っています。