たった一人
でひっそりと暮らしたい……。
日々の仕事のストレスが増大していくうちに、こういう思いに至ることは、誰しも一度くらいはあるでしょう。
人との付き合いを断てば、人間関係で神経をすり減らすことも無くなります。
とは言え、本当に誰にも会わない生活を始めるのは、普通の人には不可能。
たいていは、「たまには孤独になりたい」という願望を抱きつつ、いつもと変わらぬ生活を送るわけです。
しかし、ごく稀に、完全な孤独を手に入れるべく、本当に隠遁生活に入る人が現れます。
今回は、そんな人たちの話です。
〈originally posted on April 12,2020〉
1 突然消えたスペイン人医師
今から約20年前、スペインのセビリアで医師をしていた、カルロス・サンチェス・オーティス・ド・サラザールという男性が、突然行方不明になりました。
当時のスペインは、深刻な不況の真っ只中。
そのことが、失踪と何かしら関連があるのかも知れません。
いずれにせよ、家族の必死の捜索にも関わらず、手がかりは何も無し。
しかし、2019年、イタリアのトスカーナ州スカルリーノ近くの森で、きのこ狩りをしていたグループが、一人の男性と遭遇します。
その男性は、汚れた顔で、長い髭を生やしており、たまたま森にいたというよりは、森で生活しているといった様子。
お察しの通り、彼こそが、カルロスだったのです。
声をかけられると、彼は、
「私はスペイン人だ。名前はカルロス。ここに住んで20年になる」
と答え、薄汚れたパスポートを提示。
きのこ狩りのグループは、念の為にパスポートを開いてそれを写真に収め、その場を立ち去りました。
その後、カルロスの母アメリアが、この話を聞きつけてスカルリーノを訪れます。
そして、先程のパスポートの写真を見て、そこに写った顔写真から、森にいた男性が息子のカルロスであると確信。
しかし、彼は再び森の中で姿を消し、またもや居所がつかめない状態に。
アメリアの話によると、息子がどういう生き方をしようと勝手だが、もう一度、最後に会っておきたい、とのこと。
おそらくカルロスは、母親のこの切実な願いを、この先知ることは無いでしょう。
【スポンサーリンク】
2 危険すぎる洞穴で暮らす老人
中国の陝西省南部に住むフェン・ミンシャン(61)という男性は、かなり危険な場所で生活しています。
彼は、崖の途中にある洞穴で暮らしているのです。
洞穴は、海抜15メートルの所にあり、誤って落下すればただでは済まないでしょう。
フェンがこの洞穴を発見したのは、彼がまだ子供の頃。
そのときは、洞穴はかなり小さかったのですが、彼はハンマーを使い、何年もかけて、人が住めるくらいの大きさに拡張していったのです。
そして、今から約25年前に、洞穴に移住。
本人の話によれば、穴の中は夏でも涼しくて快適なのだとか。
穴に出入りする際は、ロッククライミングよろしく、岩肌のわずかな出っ張りを使って、器用に移動します。
フェンの家族は、一応彼と連絡を取り合ってはいるのですが、誰一人として、洞穴まで辿り着けた者はいません。
市の役人が、介護施設に入るように彼を説得したことが何度かあるものの、その度に失敗に終わっています。
今はまだいいですが、フェンが70代、80代になって体力が衰えるに連れ、この洞穴生活の危険度はさらに増すかも知れません。
3 隠遁生活をしていたものの、ピンチになって救難信号を発信
隠遁生活は、必ずしも平穏を維持できるとは限りません。
2019年2月、スコットランドの森の中で、自作の丸太小屋を住み処としている男性が、救難信号を発信しました。
彼は70代で、何年もその小屋で生活を続けていたのですが、何らかの原因で、命にかかわる非常事態が発生したのです。
そして、その救難信号が受け取られた場所が、なんと米国テキサス州のヒューストン。
スコットランドとヒューストンは、約7200kmも離れています。
その後、ヒューストンからイギリスの沿岸警備隊へ連絡が行き、沿岸警備隊が救助隊を信号の発信源に派遣。
一時間半に及ぶ救助活動の末、男性は無事に最寄りの病院へと運ばれました。
【スポンサーリンク】
4 自分が殺人を犯したと勘違いして25年間も隠れていた男
世間との接触を完全に絶ち、一人でひっそりと暮らしたくなる理由は、人間関係に疲れたから、という場合が多いでしょうが、ちょっと怖い理由のこともあります。
今から25年前、ロシア在住のニコライ・グロモフという男性が、酒に酔った状態で妻のリューボフと口論になり、妻と娘(当時6歳)に暴力を振るった後、家を飛び出しました。
それからしばらくして、酔いが覚めた彼は、帰宅して驚きます。
家の中が無人だったのです。
このときの彼は、気が動転していたためか、妻と娘に最悪の事態が起きたという感覚に襲われました。
実際は、リューボフは娘とともに病院に行き、それから別の住所に移り住んでいたのです。
ところが、殺人を犯してしまったと思い込んだグロモフは、警察から逃れるため、森の中へと逃亡。
それ以来、ずっと森で生活していました。
しかし、2019年6月、脚に負った怪我が元で壊疽にかかり、彼はやむなく病院で治療を受けることに。
72歳のグロモフの脚は、症状がかなり進行していて、残念ながら、切断以外の選択肢はありませんでした。
手術は成功しましたが、その直後、彼は、妻と娘の身に起きた真実を知ることになります。
妻のリューボフは、この数ヶ月前に、入浴中の事故により死亡。
娘の方は、すでに結婚し、家庭を持っていました。
自分の父親はもうこの世にいないと信じていた彼女は、グロモフが生きていると分かった後も、彼に対して何の関心も示さなかったとか。
グロモフは、一時的に身柄を拘束されましたが、妻と娘への傷害の罪は時効にかかっていたため、その後釈放されています。
自分が殺人犯では無かったと知ったとき、彼の中には、ある種の安堵感があったことでしょう。
しかし同時に、25年間の逃亡生活は一体何だったのか、という疑問に苛まれたはず。
そんな彼は、25年振りに再会した娘に対し、
「どんなに愚かな男でも、父親は父親だ」
と語ったそうです。