ビデオゲームには、プレイヤーが気づかないように仕掛けられた罠が満載です。
2018年、世界保健機関(WHO)が、重度のゲーム依存症を「ゲーム障害」として認定しました。
ゲームが止められなくなって、生活にまで影響が出る状態は、立派な病気なわけです。
ゲームにハマり過ぎている状態を「病気」と捉えるのは、少々大げさだと感じる人もいるかも知れませんが、しかし、人間はほとんどあらゆるモノに対して中毒状態になりうるとも言われています。
その意味では、薬物中毒もゲーム障害も、本質的な部分においては大差ないかもしれません。
薬物戦争についての著書もある、作家・ジャーナリストのヨハン・ハリ氏によると、人間が薬物中毒に陥る原因は、薬物それ自体ではないのだとか。
ベトナム戦争のとき、米兵の約20%が戦地でヘロイン中毒になったのですが、そのうちの95%が、本国に帰還して家族との生活を再開すると、ヘロインを断つことに成功しました。
中毒症状を生む本当の原因は、人生を豊かにするような、人と人とのつながりが失われることにあるようです。
逆に言えば、そういったつながりを取り戻すことで、健全な生活が復活する可能性もあります。
〈originally posted on June 22,2018〉
1 ユーザーの行動を制御する方法
フルプライスで販売されるようなゲームの場合、購入した人がそのゲームで実際に何時間くらい遊ぶかといったことは、メーカー側にとっては大きな問題ではありません。
重要なのは、「何本売れるか」だからです。
一方、基本プレイ無料のスマホゲームの場合、プレイヤーがそのゲームで遊ぶ時間の長さが重要になってきます。
ゲームの運営会社にとっては、利益を生むために、できるだけ長期間、プレイヤーをゲームに縛り付けておく必要があるのです。
そのために必要なのは、「面白いゲーム」ではありません。
何故なら、何年遊んでも飽きないような神がかったゲームシステムを作るのは、そう簡単ではないからです。
スマホゲームにとって必要なのは、「ゲーム自体を面白いと感じていなくてもプレイヤーが遊び続けるシステム」なのです。
バンジーというゲーム会社で研究員を務めるジョン・ホプソンは、そのシステムが「スキナー箱」のようなものだと考えました。
スキナー箱は、行動分析学の創始者であるバラス・スキナーが考案した実験箱で、箱の中にはライトと小さなレバー、餌の入った容器が取り付けられています。
その箱に入れられたラットが、ライトの光ったときにレバーを倒すと、容器から餌が出てきます。
ライトが光っていないのにレバーを倒しても何も出てきません。
これを繰り返すことで、やがてそのラットは、ライトが光った時にだけレバーを倒すようになります。
これはつまり、「刺激(=ライト)」と「報酬(=餌)」を上手く組み合わせることで、ラットの行動を制御しうるということです。
スマホゲームは、運営会社の意に沿う形でプレイヤーにゲームを続けさせるために、報酬を上手く利用しています。
毎日ログインすればログインボーナス。
デイリーミッションをこなせばボーナス。
イベントをクリアすればボーナス。
ギルドを結成すればボーナス。
対人戦に参加すればボーナス。
こうすることで、運営会社は、プレイヤーの行動を(ある程度は)制御できるのです。
もちろん、ゲーム会社が、ユーザーのことを「ラット」であると捉えているかどうかは、また別問題ですが……。
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2 ランダム要素の多さ
先のホプソン氏によると、低確率でゲットできるようなアイテムも、中毒性と密接な関係があります。
例えば、ゲーム内の或るボス敵を20回倒すごとに(必ず)特定のレアアイテムが入手できるとしましょう。
そのボスがかなりの強敵で、上手いプレイヤーでも1回倒すのに15分かかるなら、そのレアアイテムを1個手に入れるには、15分×20回=5時間かかります。
さらに、そのレアアイテムを5個集めると、チート級の破壊力を持つ「宝剣エクスカリバー」と交換できるとしましょう。
どうしてもそれが欲しければ、5時間×5回=25時間を費やす必要があります。
ゲームがこういう設計だと、多くのプレイヤーはエクスカリバーを諦め、そのボスと戦うことすらしないでしょう。
いくら強力な性能を持つとはいえ、武器ひとつ入手するのに25時間も使っていられないわけです。
ところが、「20回倒すごとに」の部分を「倒す度に20分の1の確率で」に変えるだけでアラ不思議。
今度はほとんどのプレイヤーがそのボスに挑みます。
何故なら、戦う度にレアアイテムが手に入る可能性があるからです。
そして、長い苦労の末、ようやくエクスカリバーをゲットしたときには、自分がその武器のためだけに数十時間も費やしたという残酷な現実に気づきません(もしくは気づきたくない)。
低確率で入手できるレアアイテムは、単にプレイヤーの射幸心を煽るためだけに存在しているのではなく、プレイ時間の感覚を失わせるのにも一役買っているのです。
3 面倒くさすぎるアイテム管理
イギリス出身のジャーナリストであるマルコム・グラッドウェルによれば、我々が日々の仕事で満足感を得るためには、自律性(=他人に指図されず、自分で決定を下しながら仕事をこなすこと)、仕事の複雑さ、努力の結果報酬を得ること、という3大要素が必要なのだとか。
そして、中毒性の高いゲームは、自律性と複雑さの2つをゲーム内で巧妙に実現しています。
例えばRPGなどで、何十体もいる味方キャラクターの中からどれを強化し、どういうメンバーでパーティ編成するのかを自由に決めるのは正に自律性です。
また、属性(炎・氷・風・光・闇など)その他様々なパラメータが付いた装備・アイテムの強化手段や、多彩な特徴を持つキャラクターたちの育成方法を複数用意しておくことで、複雑さが増します。
なぜ複雑さが必要なのかといえば、単純作業をひたすら繰り返しているという感覚をプレイヤーに抱かせないためです。
これらの要素を取り入れた結果、中毒性の高いゲームは、敵との戦闘自体はシンプルなのに、それ以外の部分(=装備やキャラの強化)が恐ろしく複雑化する傾向にあります。
これはつまり、敵と戦うというゲーム本来の楽しさよりも、武器や強化素材などの各種アイテムを整理・管理することのためにより多くの時間を割かねばならないということです。
4 努力に対する報酬=レベルアップ
ゲームにおいて、先ほどの3大要素の3つ目である「努力の結果報酬を得る」ことの典型例は、「レベルアップ」です。
これは、中毒性を生む上で特に重要な要素。
当たり前ですが、我々は、日常生活において突然自分の能力が飛躍的に上がるような体験をすることはありません。
だからこそ、ゲームの中なら何度でも味わえるレベルアップという達成感に惹かれるのです。
ほとんどのRPGは、プレイヤーを確実にゲームに引き込むため、ゲーム開始直後は簡単にレベルが上がるようにしておき、その達成感をお手軽に味わえるようになっています。
ところが、レベルが上がるにつれ、次のレベルに到達するために必要な経験値が急激に上がっていき、レベル1から2に上げるのに要する時間がわずか10分程度だったのが、レベル99から100に上げるには数週間(あるいは数ヶ月)かかる、などどいうこともあります。
しかし、プレイヤーはすでにレベルアップの快感を知っているので、レベル100になったときの達成感を味わうために、気の遠くなるような経験値稼ぎに明け暮れるのです。
では、レベルをMAXまで上げてしまったら、もはやレベルアップの喜びは得られないのかというと、そんなことはありません。
大抵のゲームは、武器やキャラクターのレベルがMAXになると、今度はそれを「進化(覚醒・限界突破)」させることで、さらに強化できるようになっています。
一度最高レベルにまで達した武器・キャラクターについて、さらに強くできるチャンスをプレイヤーに提供するのも、「努力に対する報酬」を与える機会を増やすための工夫です。
5 オンライン協力プレイ
生活に支障をきたすほどの中毒者を生むゲームの多くは、長く遊んでいく上で、オンラインでの協力プレイが必須であるという共通点があります。
カナダのセントメリーズ大学で心理学を教えるブレント・コンラッド教授によると、協力プレイが中毒性につながる一因は、「貢献度」なのだとか。
オンラインゲームの多くは、他のプレイヤーと協力しないとまずクリアできないような高難易度のミッション(もちろん、クリア報酬はたんまり)を用意しています。
プレイヤーは、全国(あるいは全世界)にいる他のプレイヤーと共に強敵に挑むうちに、自分のキャラクターをさらに強くして、パーティにもっと貢献したいと望むようになります。
自分の貢献度が高ければ高いほど、ゲーム内での自分の存在価値も高まるわけです。
そして、ゲーム内で確立した自分の地位を維持するため、毎日のようにログインしては敵を狩り、素材を集め、装備を強化。
ゲームのサービスが継続する限り、これが延々と繰り返されます。
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番外編 ゲーム中毒になる子供たち
誤解の無いように言っておくと、僕は決して、中毒性の高いゲームそれ自体が悪であるなどとは思っていません。
重要なのは、プレイヤーが如何にしてゲームと「良い付き合い方」をするか、ということでしょう。
大人であれば、ゲームに費やせる時間は物理的に限られていますから、深刻な事態を引き起こすほどの中毒に陥ることはあまり考えられません。
しかし、子供の場合は話が別です。
イギリスに住む或る9歳の女の子は、『フォートナイト』というゲームにハマりすぎて、リハビリが必要なまでになりました。
『フォートナイト』というのは、全世界で4千万回以上もダウンロードされている超人気ゲーム。
ゲームの中でプレイヤーは、様々な銃を駆使して100人で殺し合いを行い、最後の1人になるまで生き残れば勝利となります。
このバトルロイヤルに夢中になっていたその女の子は、毎日夜中にこっそり起きてXboxの電源を入れると、明け方まで遊んでいました。
画面の前から離れられないのでトイレにも行けず、しょっちゅう失禁していたとか。
学校では授業中に当然のように爆睡。
彼女がゲームをしていた時間は、一日平均10時間です。
これらの事実を知った両親がXbox本体を没収すると、彼女は父親の顔面を殴って怒りを爆発させたそうです。
また、同じくイギリスの10歳の男の子は、『ワールド・オブ・ウォークラフト』や『コール・オブ・デューティ』といったゲームを毎日8時間以上プレイしていたことで、手術を受ける羽目になっています。
彼は、先ほどの女の子と同様、一旦ゲームを始めると中断することが出来ず、トイレを我慢するのが常態化していました。
その結果、彼の膀胱と腸は異常なほど拡張し、腸内で蓄積した大便がまるでレンガのように固くなって排泄機能を阻害していたのです。
ひょっとすると、日本でも同様のニュースが流れるのは、時間の問題なのかもしれません……。