女性を蔑視
する発言によって、森喜朗氏が組織委員会の会長を辞任。
これは、おそらく国民の大半が予想していた結果でしょう。
時代錯誤な差別的発言をすれば、その責任を取るのは至極当然の流れ。
その意味では、一応納得のできる決断だと言えますが、しかし、森氏が辞任しただけで、こういった差別問題が根本的に解決するわけでは、勿論ありません。
組織のトップでありながら、公の場で堂々と蔑視的なことを言う人は他にもいますし、これは日本だけの問題でもないのです。
例えば、イングランドサッカー協会の会長だったグレッグ・クラーク氏は、昨年11月、女子サッカーを小馬鹿にする発言をしたことから、会長の座を退きました。
自分はこういった差別はしない、と思っている人であっても、油断してはいけません。
差別は我々の日常生活に、意外な形で現れることもありますから。
〈originally posted on February 16,2021〉
1 女子の方が学校の成績が低くなる?
学校の先生には、生徒たちの成績を付けるという重要な仕事があります。
その際、「この生徒は素直で良い子だから、ちょっと甘めに採点しよう」などという依怙贔屓は絶対に許されません。
ましてや、女子と男子との間で差別をするなど論外です。
しかし、先生は平等に採点してくれているはずだと信じている人には、かなり気になるデータがあります。
2015年に、イスラエルにあるテルアビブ大学が発表した研究内容によると、女子生徒の方が、男子生徒よりも、成績の面で不利に扱われている可能性があるのです。
エディス・サンドとヴィクター・レイヴィーの両氏によって行われた実験において、イスラエル国内の10歳~12歳の小学生3千人について、ある筆記試験の解答内容が、教師によってどのように評価されるのかが調べられました。
まず、その生徒たちの実際の担任教師が評価し、その後、その生徒たちについて名前も性別も知らない別の教師らが評価。
すると、興味深い結果が出ました。
生徒たちの担任教師の方が、そうでない教師に比べ、明らかに女子を男子よりも低く採点する傾向が見られたのです。
ちなみに、この実験で行われた筆記試験の教科は、算数。
全教科の中で、最も客観的に評価しやすい教科です。
にも関わらず、普段、その生徒のことを知っているか否かで、評価に差が出てしまいました。
脳ミソにカビの生えたような男性教師ばかりがその実験に参加していたからでは、と思われれた方もいるかも知れません。
ところが、この実験に参加していた「担任教師」の大半は、女性。
女性の教師が、意図的に女子生徒の評価を下げるということは考えにくいので、担任教師の多くは、無意識のうちに差別的な評価を行っていたことになります。
この事実だけでも、女子生徒にとっては嬉しくないですが、差別的評価の悪影響はまだあります。
理数系の教科で、本来なされるべきよりも低く評価された小学生女子は、「自分は理数系に向いていない」と判断し、理数系に進むのを避ける傾向が強まるのだとか。
この研究は、あくまでイスラエル国内で実施されたものであり、他の国にもそのまま当てはまるかどうかは分かりません。
日本でも同じような実験をした場合、どういう結果になるのかが気になります。
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2 男性の方が賢く見られる?
学校で女子の方が不当に低く評価される可能性に触れた直後に、またもや女性にとって不愉快なデータをご紹介せねばなりません。
2020年に『エクスペリメンタル・ソーシャル・サイコロジー』という学術誌に掲載された論文によれば、一般的に、男性は女性よりも「賢い」と見られる傾向が強いそうです。
これは、78ヶ国から約3千人が参加した実験を通して得られた結果。
参加者の70~75%の人が、男女間での知性の違いについて、無意識のうちに上記のような偏見を抱いていました。
ニューヨーク大学のアンドレイ・シンピアン教授の話では、世間に浸透しているこのような偏見は、女性にとって、就職や昇進の面で不利益に作用している可能性が高いとのこと。
興味深いのは、多くの人は、自分が偏見を抱いていることを自覚していないという点です。
その証拠に、「あなたは、女性より男性の方が賢いと思いますか」とストレートに聞かれると、ほとんどの参加者は「NO」と答えました。
にも関わらず、実際には上記のような偏見が存在しているというわけです。
3 男性だけ名字で呼ばれるナゾ
次にご紹介するのは、日本には無く、主に欧米だけに見られる差別的要素。
それは、名前の呼び方です。
歴史的に有名な発明王と聞いて、すぐに思い浮かぶ名前は、エジソンでしょう。
彼のファーストネームはトーマスですが、エジソンのことをわざわざトーマスと呼ぶ人はまずいません。
これは、作家であれ、音楽家であれ、科学者であれ、誰もが知っている有名な男性の名前のほぼ全てに当てはまります。
一方、有名な女性の名前については、ファミリーネームだけでなく、ファーストネームで呼ばれることも多いのです。
男性はファミリーネームのみで呼ばれるが、女性は両方で呼ばれる。
この違いは、性差別とどう関係があるのか。
アメリカにあるコーネル大学の研究によれば、学術的・専門的な分野で活躍する男女を比較すると、ファミリーネームのみで呼ばれる男性の方が、ファミリーネームとファーストネームの両方で呼ばれることが多い女性よりも、重要な存在だと認識される傾向があるそうです。
また、同大学のスタヴ・アティール教授のチームが、大学の学生が講師たちをどのように評価するのかを調べたところ、ファミリーネームのみで呼ばれる男性講師は、そうでない女性講師よりも、仕事の能力が平均で14%高いと評価されていました。
名前の呼び方一つにも、差別的な要素が隠れているというのは意外です。
4 男性を起用した広告の方が効果的
カリフォルニア州に本拠を置き、マーケティング技術開発を行う「ロケット・フューエル」という会社が行った分析によると、男性の有名人を起用した広告の方が、女性の有名人を起用した場合よりも、最大で4倍も効果的なのだそうです。
あらゆるジャンルの中で、男女で効果の差が最も大きいのは、エンタメ産業の分野。
この事実は、実際に広告に起用される有名人の男女差にも影響しています。
エンタメの分野では、広告に男性が登場している割合が41%だったのに対し、女性はわずか8%でした。
ただし、この分析結果は、あくまで「男性のみ」の広告と「女性のみ」の広告を比較した場合の話。
「女性のみ」の広告は、男性と女性の両方が出ている広告に比べると、より効果的なのです。
分析を行ったロケット・フューエル社の代表取締役であるドミニク・トリグ氏は、
「この分析結果は、あくまで過去のデータを検証して得られただけであり、広告業界の今後の動向を限定するものではない」
とコメントしています。
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5 スマートスピーカーも女性差別する(?)
アレクサを搭載したAmazonの「エコー」など、話しかけるだけで様々な機能を実現することが可能なスマートスピーカーは、使いこなせれば大変便利です。
しかし、使用する上で避けられないのが、こういったスマートスピーカーは、時々、発話者の音声を正確に認識できないことがあるという点。
そして、音声認識の正確さについては、男女差があるのです。
2019年にイギリスで、スマートスピーカーの所有者に対して行われたリサーチによると、スマートスピーカーが音声認識を失敗する割合は、女性の音声の場合の方が、男性の音声の場合よりも13%高いという結果が出ました。
また、音声認識に失敗することが全く無い、或いは滅多に無いという割合は、男性の音声で46%だったのに対し、女性の音声では32%。
微妙な違いと言えなくも無いですが、しかし確実に、女性の音声の方が、スマートスピーカーに認識されにくいとも言えるでしょう。
このような違いが生まれる原因としては、スマートスピーカーの開発段階で、主に男性の声を使って音声認識の精度を上げている可能性が挙げられます。
スマートスピーカーが発する音声は、(少なくともデフォルト設定では)女性の声であることがほとんどなのに、女性の声の方が認識されにくいというのも、何か妙な話です。
さらに言えば、スマートスピーカーの音声が女性の声であるという事実にも、差別が隠れています。
所有者からアレコレ命令されて、文句一つ言わずにその命令を「女性の声で」実行してくれるスマートスピーカーは、女性は従順な存在であるべきという固定観念を助長しかねない、という研究結果があるのです。
考えてみれば、こういったデバイスを販売しているAmazonやグーグル、アップルなどの開発部は、そのスタッフのほとんどが男性でしょう。
そのことが、上記のような固定観念につながっているのかも知れません。