認知症
とよく混同されがちなのが、アルツハイマー病です。
厳密に言えば、認知症は特定の病気の名前ではなく症候群で、その中にアルツハイマー病や血管性認知症などがあります。
複数のタイプの認知症を併発することもあり、アルツハイマー病と血管性認知症の混合型は近年特に増えつつあるとされています。
家族が認知症になる可能性を考えると、年齢に関係なく、この問題と無縁でいられる人はほとんどいないでしょう。
〈originally posted on December 9,2018〉
1 皮肉を理解する能力と認知症
超絶にダサい服を着ている人に対し、「それ、なかなかお洒落なファッションですね」などと言ったら、誰でもそれが皮肉であると分かるでしょう。
ここまで露骨な皮肉でなくとも、例えば、相手の自慢話に付き合わされて、全く何の興味も湧かないのに、「へぇ、凄いですね!」と返すような皮肉は、日常会話に頻繁に現れます。
ある意味、皮肉は会話に不可欠の要素と言えるかもしれません。
興味深いことに、自分が言われたことに皮肉が含まれる場合と含まれない場合とでは、前者の方が脳内ではより高度な情報処理を行っているのだとか。
これは、皮肉を理解する能力が低い場合、脳に何らかの障害が発生している可能性を示唆しています。
アメリカのカリフォルニア大学の研究者たちが明らかにしたところによれば、皮肉を皮肉だと気づく能力が著しく低い人は、「前頭側頭型認知症」である疑いがあるそうです。
さらに、皮肉を理解する能力は他の様々な病気とも関連性があり、自閉症や統合失調症、脳卒中なども、この能力を低下させる原因になりうると見られています。
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2 車の運転で認知症を予防
現在、75歳以上のドライバーが免許を更新するには、認知機能検査を受けねばなりません。
これはもちろん、認知機能が低下している状態での運転が事故につながるから実施されているわけですが、一方、最近の研究によると、車の運転は、認知症を予防する効果があるそうです。
ニューヨークにあるコロンビア大学のゴーファ・リー教授によると、車を運転することは、ドライバーの注意力を高めたり、自制心、自立心などを向上させたりすることに一役買っています。
また、自分で好きなときに外出できるので、家に引きこもりがちになることが無く、人とのコミュニケーションの機会が増えて、より活動的になることも期待できるのです。
ただ、視力や筋力の衰えなどが原因で、若い頃と同じようには運転できなくなり、やむなく免許を返上する高齢者も増えてきています。
しかし、そうやって車の運転を止めてしまった人は、肉体的・精神的な面での老化がさらに進む可能性があるのだとか。
免許返上は、交通事故を引き起こすリスクを避けられるというメリットがある反面、健康面へのデメリットもあります。
そのことを踏まえた上で、積極的に認知症予防に取り組む必要があるとリー教授は語っています。
3 大昔の食生活でアルツハイマー病を改善できる可能性
グレーター・マンチェスターのプレストウィッチに住むマーク・ハッツァー(50)には、82歳になる母親シルヴィアがおり、彼女は3年前から急に物忘れが激しくなりました。
そして2016年12月、アルツハイマー病であると診断されます。
その症状はかなり重く、てんかん発作も併発したため、彼女は一旦病院へ。
しかし、そこでシルヴィアは、病院のスタッフに誘拐されたと勘違いし、警察に通報する有様。
遂に自分の誕生日も思い出せなくなり、息子であるマークのことも認識できなくなりました。
ところが驚くことに、現在の彼女は、記憶を取り戻し、自宅で限りなく普通の生活を送っています。
彼女をアルツハイマー病から救ったのは、マークが独自に考案したという食事のメニューです。
彼は、中世においてアルツハイマー病を患う人が少なかったのは、食生活が関係していると考え、当時、庶民が口にしていたメニューを参考にしたのです。
ブルーベリーやクルミ、ブロッコリ、ケール、ほうれん草などをふんだんに使用した食事に変えてから数ヶ月後、シルヴィアの症状に改善の兆しが見られました。
それからは、脳トレとしてジグソーパズルやクロスワードパズルを利用し、なるべく多くの人々と触れ合い、適度な運動も欠かさないような生活に。
その結果、彼女は驚異的な回復を見せたのです。
この事実は、アルツハイマー病の研究者の間でも注目され、また、同じ病気で苦しむ人たちに彼女が大きな希望を与えたことから、シルヴィアは今年の夏に開催されたイギリス王室の園遊会にも招待されています。
4 シューティングゲームのやり過ぎは認知症のリスクを高めるか
ゲームをプレイすることは、反射神経や認知機能の向上など、老化防止の上で一定の効果が見込めるとする研究結果があります。
これは、ゲームが認知症予防になりうることを示しています。
ただし、ある特定のジャンルのゲームだけは、プレイのし過ぎに注意すべきかもしれません。
暴力的なシューティングゲームのやり過ぎは、アルツハイマー病にかかるリスクを高める可能性があるという論文があるのです。
その論文の基になった実験では、約100人の被験者に様々な人気シューティングゲーム(『コール・オブ・デューティー』『キルゾーン』『ボーダーランズ2』など)を合計90時間プレイしてもらいました。
また、比較のために、被験者たちは、『スーパーマリオ3Dワールド』もプレイ。
カナダにあるモントリオール大学のグレッグ・ウェスト教授によると、これまで、ゲームは視覚的注意力や短期記憶力の面で好ましい影響をもたらすと言われてきたが、実験の結果、マイナス面も明らかになったとのこと。
シューティングゲームをプレイした被験者の脳をスキャンすると、記憶を司る部位である「海馬」における神経細胞が少なくなっていたのです。
逆に、『スーパーマリオ』をプレイした後の脳では、神経細胞が増えていたとか。
この結果だけを見ると、毎日のようにシューティングをやるのは、将来的に認知症のリスクを高める可能性があると言えるかも知れません。
しかし、オックスフォード大学のアンドリュー・プシビルスキ教授は、上記の結論は、統計的な説得力に乏しく、また、ゲーム自体が神経細胞の増減に影響した証拠も明確ではないとして、強く反論しています。
果たして、シューティングゲームは脳に良いのか悪いのか……。
筋金入りの『ボーダーランズ』ファンの自分としては非常に気になります。
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5 30代で認知症になった夫を待つ運命
一般的に、認知症は高齢者に特有のものというイメージがありますが、場合によっては驚くほど若い年齢で発症するケースもあります。
2018年8月、イギリスのノッティンガムで、一組のカップルが結婚式を挙げました。
新婦の名前はジョーダン・ブラッドベリー(30)、新郎はダニエル(31)。
12年間の交際を経た二人の挙式は、普通とは異なる特別な意味合いがありました。
その理由は、ダニエルが、31歳にして認知症であると診断されていたから。
すなわち、この結婚式での感動を彼が記憶していられるのはそう長くないということ。
それだけではなく、病気が進行すると、式を挙げること自体が彼にとって大きな負担になります。
よって、結婚式をなるべく楽しいものとしてダニエルに体験してもらうため、ジョーダンは式の準備を急ぎました。
その甲斐あって、この結婚式は二人にとって最高のものとなったのです。
ダニエルが認知症であると最初に診断されたのは、2017年9月。
認知症を発症した原因は、遺伝です。
彼の父親は、プレセニリン1(PSEN1)という原因遺伝子により認知症を発症した非常に珍しい患者で、36歳という若さで亡くなりました。
その遺伝子を、ダニエルは受け継いでいたのです。
血液検査により認知症であると判明したとき、妻のジョーダンはすでに妊娠3ヶ月でした。
残酷な真実を知ってしまったダニエルは、ショックのあまり頭を抱え、その場にいた者は皆泣き崩れたとか。
症状を自覚してから、彼はうつ病に悩まされ、頭痛に苦しみ、それらが仕事にも影響した結果、エンジニアの職を失いました。
現在、彼の双子の娘ジャスパーとローラは2歳になっていますが、彼は我が子を抱きかかえることも出来なければ、就寝時に本を読み聞かせることも出来ません。
そもそも、子供の世話自体が不可能なのです。
それは、子供に食事を与えたかどうかすら今の彼には記憶できないから。
自分に残された時間が長くはないことから、ダニエルは死ぬまでに達成すべき目標をリストに列挙しました。
その中には、「娘たちの初登校に付き添う」というものもあります。