「アマゾンでちょっと難しそうな本を買ってみたぜ!」
「何じゃこれ……ぜんっぜん分からん」
個人的な話で恐縮ですが、僕は現代文という教科が苦手でした。
試験問題を解いているとき、「傍線部(イ)で筆者は何を言おうとしているのか。50字以内で説明せよ」などという問いを見ると、大抵は見当違いの答えを書いていました。
でも、試験問題に出される文章などはまだマシかもしれません。
これからご紹介する本は、常人の感覚では付いていけない要素を含んでいて、一筋縄ではいかないものばかりなのです。
〈originally posted on June 15,2016〉
1 『フィネガンズ・ウェイク』
は何か、ということが話題になったら、必ずトップ3に入るといっても過言ではないのがこの本。
アイルランド出身の小説家ジェイムズ・ジョイスが1939年に著した全4巻の作品です。
いちおう「英文学」に分類されるものの、世界の様々な言語が随所に織り交ぜられています。
ストーリーの全体像を把握しにくいことに加え、人間の内面や思考を描いた記述が複雑で、普通の人はもちろん専門家でさえ理解するのが極めて困難とされています。
ダジャレのような言葉遊びも多く、そのことから翻訳作業には相当な苦労が伴ったようです。
日本語版で最も知られているのは柳瀬尚紀氏の翻訳によるもの。
現在、アマゾンで入手可能ですから、ご興味のある方は読んでみてはいかがでしょう。
ワケが分からないものを読み続けることが、いつしか快感に思えてくるかも知れませんよ……。
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2 『裸のランチ』
1959年に出版された、アメリカ人作家ウィリアム・バロウズによる小説。
この作品も先の『フィネガンズ・ウェイク』と肩を並べるほどの難解さを誇っています。
それもそのはずで、この小説はその成立過程から狂っているのです。
モロッコのタンジエに住んでいたバロウズは、ヘロイン中毒の状態で山のような原稿を書き上げ、それらを細かく裁断。
次に、バラバラになった紙片を適当に並べ替え、それを友人で詩人のアレン・ギンズバーグに送りました。
それが出版されたのがこの『裸のランチ』というわけなのです。
理解が難しいのは当たり前と言えるかも知れません。
また、この作品は小児性愛や児童殺害を扱っていたことからアメリカの複数の州で発売禁止になりました。
その後、1992年にデヴィッド・クローネンバーグが映画化。
しかし、原作とは異なっている部分が多く、小説とは別物といった感じです(それでも難解なことには変わりないですが)。
筆者自身、この映画は4~5回観ましたが、何がどうなっているのかサッパリでした。
3 『ロホンツィ・コーデックス』
現在、ハンガリー科学アカデミーにて保管されている写本で、書かれたのは19世紀とされています。
この本最大の特徴は、448ページの全てが、他に存在しない独自の文字で書かれているということ。
文字の種類は200近くもあります。
これまでに多くの研究家が解読してみたものの、それらは互いに解釈の異なる部分が多く、いまだに「定訳」というものが存在しません。
あまりにも難解なので、この本は特に意味の無い単なるデタラメであると考えられた時期もありました。
しかし現在では、この写本はしっかりとした筋書きのあるもので、決して冗談の類ではないと見られています。
残念ながら我々が実際にこの本を手に取るチャンスは無さそうですが、こちらのサイトで全てのページの画像を見ることが出来ます。
4 『高齢者のためのダンス・レッスン』
この本は、チェコの小説家ボフミル・フラバルが1964年に書いた小説で、物語は、6人の女性が日光浴をしているところへ一人の老人がやって来て、自分の人生に起きた出来事を語り出す場面から始まるのですが、こう書くと「何だ、よくありそうな話で至って普通じゃないか」と思われかねないのでここでネタばらししますと、この本の明らかに普通でない部分というのが、全128ページが、恐ろしく長いたった一つの文で書かれていることでありまして、別の言い方をすれば、一度読み始めたら読み終えるまで「ピリオド」を見ることが無いという驚きの構成になっていまして、そこで僕も試しにこの説明文を頑張って一文で書いてみたものの、どう考えても単に読みにくいだけということに今気づきました。
5 『ギャズビー』
1939年にアーネスト・ヴィンセント・ライトが書いた小説。
ブラントン・ヒルズという荒廃した架空の街に主人公のギャズビーが活気を与えていくというのがあらすじ。
しかし先ほどと同様、注目すべきはストーリーではありません。
50110語で書かれているこの小説には、何とアルファベットの「e」の文字が一つも使われていません。
何でまたそんなところにこだわる決意をしたのか……。
それは常人には計り知れない部分なのでしょう。
それにしても、英語の文章で「e」を一切使わないというのは容易ではありません。
何故なら、英語は規則動詞の過去形に必ず「ed」を付けるからです。
この点は作者自身が最も苦労したようで、助動詞の「did」を使うなどのテクニックで乗り切ったとか(「talked」を「did talk」にするなど)。
6 『不思議の国のアリス』
イギリスの作家ルイス・キャロルによる、言わずと知れた児童文学の名作。
主人公のアリスは白ウサギの後を追いかけてウサギ穴に落ちてからというもの、自分の体が巨大化したり縮小したり、行く先々で奇妙な生物に出会ったりと、とにかく荒唐無稽なハプニングにばかり遭遇します。
しかし常人に理解不能なのは、ストーリーそのものではありません。
この奇天烈な物語が書かれた「動機」なのです。
ルイス・キャロルことチャールズ・ラトウィッジ・ドジソンは、オックスフォード大学クライスト・チャーチを首席で卒業した後、同校で数学を教えていました。
ただ、彼の持っていた数学の知識は何百年も前に書かれたテキストに基づくもの。
端的に言えば、非常に古かったのです。
しかし、18世紀半ばになって、学校の数学に「虚数」なるものが本格的に導入され始めました。
そして、ドジソン先生を大いに悩ませたのが、正にこの「虚数」なのです。
2乗すると負の数になるような「ありえない数」を彼はすんなりと受け入れられませんでした。
現実に起こる現象を数的に分析するのが数学の役目ではないのか……。
実際に存在しない数字を扱うことのどこが数学なのか……。
こうして、自分の中に生まれた葛藤を解消すべく「ありえない法則」に従った世界を描いた結果完成したのが『不思議の国のアリス』だったというわけです。
言うなれば、「不思議の国」は、虚数というバケモノに侵食されたクライスト・チャーチであり、その中で何とか正気を保とうとするアリスはドジソン本人だったのです。
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