欧米では、タトゥーを入れている人は特に珍しい存在ではないですが、日本ではまだまだ少数派。
服で隠れている場所に入れるのならまだしも、常に周りから見える場所に入れている人は、かなり少ないでしょう。
価値観は人それぞれですから、本来は、自分の体のどこにどんなタトゥーを入れようが、その人の自由。
ただ、こういうものだけは彫ってはいけない、というタトゥーがあります。
今回はそんなお話です。
〈originally posted on October 2, 2020〉
1 ニューヨークのツインタワー
イギリス在住のイラン人であるシェイン・ヒンクスは、2003年、右の上腕に、ニューヨークに存在したツインタワーのタトゥーを彫りました。
これは、その2年前、アメリカ同時多発テロ事件によって、ワールド・トレード・センターで大惨事が発生したのを受けてのこと。
彼は、多くの人たちが犠牲になった惨劇を忘れないように、このタトゥーを彫ったのです。
ところが、ここから先の彼の人生は、悪夢の連続でした。
彼がアジア人であることから、タトゥーの意味を誤解され、あの自爆テロを肯定しているかのように見られてしまったのです。
それ以来、彼はなるべくタトゥーを隠すようになったのですが、それでも、ふとした拍子に見えてしまい、その度に冷たい視線を浴びることに。
2005年にロンドンの地下鉄で爆破事件が起きたときには、このタトゥーのせいで逮捕され、6日間も勾留されました。
テロリストだと疑われる生活に耐えられなくなった彼は、タトゥーの除去を決意し、さらに、自分の名前を変え、住所も変え、「別人」として生きることにしたそうです。
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2 デカすぎる彼氏の名前
2021年11月、TikTokで人気のアシュリン・グレイスという21歳の女性が、自分の背中に彫ったタトゥーを激しく後悔することとなりました。
そのタトゥーとは、彼氏の名前。
うなじから腰にかけて、デカすぎる文字で「ALEXANDER(アレクサンダー)」という名前が彫られていたのです。
おそらくは、その彼氏のことが好きでたまらなくて彫ったのでしょう。
背中に大きく刻まれた名前のことを意識すれば、彼氏が離れた場所にいても、いつでも彼の存在を感じることができる。
そんなことを思っていたのかもしれません。
しかし残念ながら、このタトゥーを彫ってからわずか一週間後に二人は破局。
アシュリンの背中は、元カレの名前が脊髄に沿って常に自己主張している状態に。
この悲劇を知った他のTikTokユーザーたちからは、以下のようなコメントが。
「次に彼氏ができたとき、会話がきまずくなりそう」
「このタトゥーを彫った奴は刑務所行きだよ」
「同じ名前の彼氏を作れば?」
恋人の名前を、デカすぎる文字で彫るのだけは避けた方がよさそうです。
3 「私は人の物を盗るアホです」
2018年、ブラジルのサンパウロ市で、ルアン・ローシャ・ダ・シルバという18歳の少年が、窃盗容疑で逮捕されました。
彼は、スーパーマーケットで、制汗スプレーを5缶盗んだのです。
そのとき、警察官を驚かせたのは、彼の額に彫られたタトゥー。
ポルトガル語で、「私は人の物を盗るアホです」と書かれてありました。
やけに自虐的なタトゥーを彫るものだ、と思いきや、その真実はちょっと残酷。
逮捕される前の年、彼は、自転車を盗もうとしているところを持ち主に発見され、その人物によって無理矢理このタトゥーを彫られたのです。
自分の所有物を盗まれそうになったとは言え、なかなかにえげつない仕打ち。
ちなみに、このタトゥーを彫った男も、後に逮捕されています。
4 顔面が広告掲示板になった男の悲劇
米国アラスカ州アンカレッジ在住のビリー・ギビーという男性は、かつて「ビリー・ザ・ビルボード(広告掲示板のビリー)」という二つ名を持っていました。
彼は、スポンサーとなる会社と契約を結び、その会社のウェブサイトのURLを、顔などの目立つ部位にタトゥーとして彫り込んでいたのです。
街なかを彼が歩くだけで、道行く人がそのURLを目撃するというのは、インターネットが今ほどには普及していなかった時代には、それなりに効果的な宣伝方法でした。
実際、彼がこれを仕事として始めた頃は、かなり実入りが多かったのだとか。
しかし、スマホでインターネットを利用するのが当たり前の時代になってくると、このような宣伝手段は次第に時代遅れになっていきました。
収入は激減。
このままでは妻と子供を養うことなどできません。
そこで彼は、2013年、タトゥーを除去するためのレーザー治療を受けることを決意。
その費用を稼ぐため、就職活動を開始しました。
しかし、結果はことごとく不採用。
理由は明白です。
彼の顔面に彫られた20個のURLは全て、大人の男性がムフフな体験をする店のものだったのです。
そんなものが顔中に点在している者を雇う会社はありません。
そこでビリーは、腕や脚、胸などに新たな広告を彫るべく、それらの「空きスペース」をオークションにかける、という苦肉の策で一発逆転を狙うことにしたそうなのですが……。
果たして、活路は見いだせたのでしょうか。
5 猫にタトゥー
タトゥーが好きでたまらないという人は、自分の体にタトゥーを入れる分には、特に問題は無いでしょう。
しかし、自分が飼っているペットにタトゥーを入れるのはいかがなものか。
2017年、ロシアのスヴェルドロフスク州エカテリンブルク市で、背中にセクシーな女性のタトゥーが彫られたスフィンクス・キャットを、その飼い主が散歩させていました。
モフモフの犬や猫であれば、タトゥーを彫るのは不可能ですが、体毛の殆ど無いスフィンクス・キャットならばそれも可能。
とは言え、スフィンクス・キャットは、ただでさえ弱々しい見た目ですから、その体にタトゥーが彫られているというのは何とも痛々しい。
アレクサンダーと名乗るその飼い主は、案の定、動物保護団体などから強く非難されました。
ちなみに、ネコの名前は「デーモン」。
また、タトゥーに使用された絵柄は、ロシアではギャングのメンバーなどが好んで選ぶものだとか。
実際にタトゥーを彫る際は、麻酔薬を使っていたらしいのですが、それにしても、さすがにこれはやり過ぎでしょう。
6 警察に情報提供するタトゥー
かつて、イングランドのブリストルで車上荒らしを繰り返していた、アーロン・エヴァンスという男がいます。
2008年10月某日、この男は、いつものようにターゲットとなる車を見つけると、車内に侵入し、金品を盗み始めました。
ところが、エヴァンスが侵入した車は、警察の「おとり車」。
車内には隠しカメラが設置されており、彼の姿はバッチリ写真に写っていました。
これだけでも犯人逮捕に結びつく大きな手掛かりになりますが、警察は、予想外にあっさりエヴァンスを逮捕できたのです。
その理由は、エヴァンスの首に、自分の名前と生年月日のタトゥーが彫られていたから。
おそらく彼は、イギリスの犯罪史に、最もアホな窃盗犯の一人として名を残すことになるでしょう。
7 タトゥーで著作権侵害
元ヘビー級プロボクサーであるマイク・タイソンの左のこめかみには、炎をかたどった印象的なタトゥーが彫られています。
彼はこれまで複数の映画に出演していますが、その中の一つが、アメリカの人気コメディ映画シリーズ『ハングオーバー』。
この映画の二作目において、メインキャラクターの一人が、マイク・タイソンのタトゥーそっくりのタトゥーを入れて登場するシーンがあります。
これは、一作目に出演したマイク・タイソンへのオマージュだったのですが、このことが、映画の配給元であるワーナー・ブラザースに災難をもたらしました。
マイク・タイソンのタトゥーを彫ったタトゥー・アーティストであるヴィクター・ウィットミルが、ワーナーを訴えたのです。
その理由は、著作権侵害。
これに対し、ワーナー側は、『ハングオーバー』はコメディ映画であり、マイク・タイソンのタトゥーについても、あくまでパロディとしてやったことだ、と主張。
しかし、裁判所はこの主張を認めませんでした。
結局、ワーナー・ブラザースは、ウィットミルと和解を成立させることで丸く収めたのです。
実は、このような「タトゥー裁判」は珍しくありません。
例えば、バスケットボールのゲームで有名な『NBA 2K』には、実際のバスケットボール選手が多数登場しますが、それらの選手たちのタトゥーもリアルに再現されています。
そのため、複数のタトゥー・アーティストたちが、ゲーム開発会社を訴えたのです。
タトゥーを彫るときは、場合によってはこういった著作権侵害にも十分配慮せねばなりません。
8 全身タトゥー男が幼稚園の先生(そしてクビ)
フランスのパリ郊外にあるパレゾーという町で、幼稚園の教諭をしていたシルヴァン・エレインという男性は、最近、仕事をクビになりました。
仕事は真面目にやっていたのですが、それとは別の部分で、クビになっても仕方の無い理由があったのです。
それは、彼の見た目。
顔、胴体、腕など、体の至る所にびっしりとタトゥーが彫られていました。
「至る所」というのは決して大げさではなく、スキンヘッドの頭部全体にもタトゥーがあります。
しかも、トドメとして、眼球の白い部分がタトゥーで真っ黒。
ホラー映画にでも出てきそうなその外見は、幼稚園児に悪夢を見させるには十分すぎます。
クビになったのは、ある意味当然でしょう。
しかし、エレイン本人は、子供を相手に教えることが好きで、教諭の仕事自体は今後も続けていきたいのだとか。
本人の話によれば、世の中には色んな人間がいるのだということを子供たちに理解させることで、彼らが大人になったとき、差別や偏見を持ちにくくなるかも知れないと語っています。
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番外編 後悔しなくて済むタトゥー
タトゥーに付きもののワナと言えば、「後悔」です。
カッコよくてイカしたタトゥーだと思って彫ったものの、1年、2年と経つうちに、「なんか……コレジャナイ」という感覚が強くなり、最終的には「何でこんなタトゥーにしちまったんだ!」という後悔が怒涛のごとく押し寄せる。
しかし、いくら後悔しても、タトゥーを除去するのはそう簡単ではありません。
……と、これが今までの常識。
この常識を覆すタトゥーのサービスを、ニューヨークのブルックリンにある「エフェメラル・タトゥー」という会社が最近始めました。
その画期的なタトゥーの特徴は、約一年でタトゥーのインクが自然消滅するということ。
通常のインクと違い、時間とともに分解していく特殊なインクを使用しているのだとか。
これなら、こっ恥ずかしいタトゥーを彫ってしまっても、一年我慢すれば元通り。
先程の「ビリー・ザ・ビルボード」も、このタトゥーにしておけば、人生の難易度を上げずに済んだことでしょう。
ただし、インクが特殊であるとは言っても、タトゥーを彫る工程は通常と同じで、痛みも全く変わらないそうです。