〈上掲の画像はウィキペディアより〉
この絵は、目の錯覚を利用した絵の中ではその歴史が古く、かつ有名なので、どこかで一度は見たことがあるという人が多いでしょう。
単純に女性の後ろ姿を描いたようにも見えますが、それ以外に、不思議な要素を含んでいます。
19世紀にドイツの絵葉書に採用されたときが、この絵が使用された最初であるとされています。
その後、イギリス人の漫画家ウィリアム・ヒルの手によって描き直されたのが下の絵であり、1915年に発売された雑誌に掲載されて以来、このバージョンが最もよく知られています。
〈ウィキペディアより〉
『私の妻と義母』というタイトルのこの絵は、見方によって、向こう側を見ている若い女性にも、左側を見ている年配の女性にも見えます。
オーストラリアにあるフリンダーズ大学で心理学を教える教授が、この絵に関して興味深い論文を最近発表しました。
その教授は、幅広い年齢にわたる約400人を対象にした実験を行い、被験者がこの絵を見たとき、「妻」と「義母」のどちらを先に認識するのかを調べたのです。
すると、若い人ほど先に若い女性の顔に気づき、年配の人ほど先に年配の女性の顔に気づく傾向が見られました。
これは、我々が目で見た物を脳が認識するとき、見たままに認識するのではなく、その認識内容に自分の年齢が影響しうることを意味しています。
さらに言えば、何かを「見る」ことと、それが何を表しているのかを「認識」することは、別のプロセスであることをこの実験結果は示しており、実際、両者は大脳の異なる部位で処理されることが分かっています。
色が異なって見える錯覚
〈ウィキペディアより〉
これは、見た物を脳がそのままの形で認識するのではないことを実感できる絵です。
AのパネルとBのパネルに注目してください。
実はこの二つ、全く同じ色なのです。
しかし、ほとんどの人は、Aのパネルが暗く、Bのパネルが明るく見えてしまいます。
ここでのポイントは、明るいパネルと暗いパネルが交互に並んでいるということと、緑色の円筒がBのパネルに影を落としている(すなわち、本来はもっと明るい色のはず)ということです。
我々の脳がこれらの既知の情報を踏まえて、目から入った絵の情報を合理的に解釈しようとする結果、どうしてもAのパネルとBのパネルは違う色に見えてしまいます。
このように、人間は、目から入った情報を、それまでの経験から予想される有るべき状態と組み合わせ、無理のない形で認識しようとするのです。
【スポンサーリンク】
ホロウマスク錯視
最後にご紹介するのは、「ホロウマスク錯視」と呼ばれるもの。
CGで作成された仮面がゆっくり回転するだけの映像ですが、仮面の内側が見えた瞬間、何故かそれが仮面の外側のように見えてしまいます。
〈何度見ても不思議な映像です〉
その理由は、仮面がこちら側または向こう側を向いているとき、それが仮面の外側なのか内側なのかを決めるのに必要な視覚情報が不足しているため、より自然な解釈として、普通の人間の顔を見ている時と同じように、仮面の外側を見ているのだと脳が認識するからです。
外側か内側かを決めるのに十分な視覚情報が得られるのは、仮面が横を向いたわずかな時間のみ。
ほとんどの人はこの映像を見て奇妙な感覚に陥るのですが、しかし、これを何の違和感もなく見られる人がいます。
それは、統合失調症を患っている人です。
この病気を抱えている人は、知覚した情報を合理的に捉え直すプロセスが欠如しているので、見た物を見たままで認識することができるのです。
〈originally posted on September 23,2018〉