朝、通勤・通学のため、いつものように家を出て、いつもの電車に乗ろうとしたら、「人身事故」が原因で電車が遅れている。
遅刻確定です。
ほとんどの人が一度はこういう経験をしているでしょう。
こんな時、遅刻は自分の責任ではないですが、場合によってはそうも言っていられないという状況もあります。
何にせよ、電車を利用する側としては甚だ迷惑。
死屍に鞭打つつもりは無いですが、あらゆる手段の中で、周りにかける迷惑度がずば抜けて高いのは、飛び込みでしょう。
しかし、よく考えてみると、飛び込みで最も迷惑を被るのは、乗客ではなく、轢いてしまった運転手だと言えます。
〈originally posted on October 11,2018〉
1 笑顔で手を振る者
イングランド南西部デヴォン州プリマス在住のデイヴ・グッドウィンは、電車の運転手としての23年間のキャリアにおいて、「志願者」を8回轢きました。
デイヴにとっての悪夢が始まったのは、1980年代にマンチェスターで運転手をしていたとき。
赤信号が見えたので減速すると、線路脇の茂みの中に人影が。
信号が変わり、駅のホームに向かって加速し始めると、20代と思しき男性が茂みからいきなり線路上に飛び出し、デイヴに向かって手を振ったのです。
ずっと笑顔のまま。
電車を緊急停止させるため、彼は咄嗟に安全レバーを引きました。
さらに、「その瞬間」の光景を見ないように下を向き、「その瞬間」の音を聞かないように手で耳を塞ぎます。
その直後、電車はその若者に激突。
轢かれた男性は、その時点ではまだ息がありましたが、翌日、二人の警察官がデイヴの元を訪れ、彼が亡くなったことを告げました。
それから、約9年間にわたってデイヴは運転手の仕事を続けますが、その間に彼の運転する電車が轢いた人の数は7人。
1997年のある日、彼が運転室から降りるとき、ぐにゃりという感覚が足に伝わり、何を踏んだのかと下を見ると、それは人体の一部でした。
これがきっかけとなり、デイヴは運転手の仕事を辞める決意をします。
その後、医師に相談したところ、彼は重度のPTSD(心的外傷後ストレス障害)であると診断されました。
また、夜中に寝ようとすると、彼の列車で亡くなった人たちの姿が脳裏に蘇り、平均1~2時間しか眠れないのだとか。
現在も彼は、PTSDを克服するために抗うつ剤を飲み、眠りにつくために酒を飲むという日々を送っています。
飛び込みをする人たちに対してどう思うかと聞かれたデイヴは、こう答えています。
「以前は、本当に身勝手な連中だと思っていた。
でも、それは正しくない。
彼らは絶望の中にあって、誰かの助けを必死に求めているんだ」
ちなみに、イギリスでは2016年~2017年の間に273人が線路へ飛び込んでいます。
この事実に関して、心の病に対する公的なケアが不十分であることを非難する声も上がっています。
2 職員のハグで救われた男性
極めて稀ですが、飛び込みによる最悪の結末を未然に防いだ例があります。
2017年4月、カナダのトロントにあるダンダス駅で、若い男性が線路上にいるのを駅の職員が発見したときのこと。
その職員は、男性の元へ駆け寄ると、
と一言。
するとその男性は小さく頷き、自暴自棄になっていることを伝えました。
するとその職員は、彼を強く抱きしめ、支えになってくれる人が、自分も含めて周りには大勢いるという話をしたのです。
その後、救急隊員が到着し、その男性は保護されました。