家庭、職場、学校。
どんな場所にもルールがあり、我々はそれに縛られます。
極寒の中でもジャンパーを着て登校してはいけないというアホな校則でも、校則である以上、生徒は従わざるをえません。
ルールを破れば、何らかのペナルティが待っています。
しかし、ルールに従わないことは、必ずしもルールを破ることになるとは言い切れません。
ルールの抜け穴を利用するという手もあるからです。
〈originally posted on February 18, 2023〉
1 全席禁煙の店内でタバコを吸う方法
米国ミネソタ州では、2007年に、飲食店など公共の場における喫煙への規制が一気に厳しくなりました。
基本的に、店内は全席禁煙となったのです。
これにより特に打撃を受けたのが、バーの経営者たち。
店内でタバコが吸えないとなれば、客足が遠のくのは避けられません。
しかし、一部の経営者が法の抜け穴を発見しました。
法律によると、公共の場であっても喫煙が許される例外があるのです。
それは、役者。
例えば、役者が舞台上でタバコを吸うのは、演し物としての演技なので、これはOK。
そこで経営者は思いつきました。
客は全員「役者」だということにしよう、と。
バーの店内はその全部が舞台であり、酒を飲んでいる客は全員、何者かを演じているわけです。
ある人は人生に疲れた会社員。
ある人は恋人との別れ話を切り出そうとする女性。
ある人は……。
彼らが吸っているタバコはあくまで「小道具」。
店内は、リアリティがありすぎる群集劇が展開されている空間なのです。
かなり無理がありますが、しかし真正面から反論しにくいのもまた事実。
当時、このような手法で禁止を回避していた店は複数ありました。
もちろん、行政側も彼らのやり方に素直に納得するはずもなく、法廷バトルにもつれ込んだケースもあったとか。
とはいえ、客一人ひとりが役者であるという設定は、単純に法に従わないやり方よりも、よほど粋だと言えるでしょう。
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2 クレジットカード会社をこちらの言いなりにさせる方法
仕事が終わって帰宅したとき、何気なく郵便受けを開けると、死ぬほどどーでもいいチラシがギッシリ。
学習塾、ピザ屋、不動産投資、開運セミナー……。
他人の居住空間にゴミを押し込んで平然としていられる人って何なんだろう。
仕事のストレスで気が変になりそうなところに、ゴミ処理の仕事を増やされる虚しさ。
2008年、ロシア人のドミトリ・アガルコフという男性も、おそらくそんな虚しさを感じていたのでしょう。
ある日、彼の家に、クレジットカードの入会を勧める封書が届いていました。
よくある封書です。
なんとかカードマンみたいなものです。
普通の人なら、特に興味が無ければゴミ箱に捨てて終わりでしょう。
しかし、アガルコフ氏は、よほど暇だったのか、同封されていた契約書を取り出し、長い長い規約条項に丹念に目を通しました。
そして、契約書の文面をパソコンでスキャンし、内容の一部を変更した上で、改めて契約書をプリントアウト。
彼は、自分にとって都合のいいように細則を付け加えたのです。
例えば、金利・手数料はゼロ、利用限度額なし、など。
クレジットカード会社側がこれらの規約を破った場合は5万ドルの違約金です。
さらに、一方的に契約を破棄する場合は10万ドルの解約金。
クレジットカード会社にとっては悪夢のような内容です。
アガルコフ氏は、この契約書にサインし、返送しました。
クレジットカード会社は、契約書が改ざんされているとは露知らず、その契約書にサイン。
後日、アガルコフ氏の元へカードが送られてきました。
それから数年後、アガルコフ氏が手数料を滞納していることを理由に、カード会社が彼に民事訴訟を提起。
アガルコフ氏が手数料を払っていなかったのは当然です。
彼が書き換えた契約書には「手数料ゼロ」となっていたのですから。
そしてこのとき初めて、カード会社は契約書が変更されていたことを知りました。
裁判の結果は、アガルコフ氏の勝訴。
送り返された契約書に全く目を通さずにサインしてしまった会社側の落ち度が重視されたのです。
カード会社の悪夢はまだ続きます。
アガルコフ氏は、カード会社が契約を遵守しなかったことを理由に、多額の賠償金を求めて会社を訴えました。
この訴訟は、結局、裁判外で和解がなされたそうです。
契約書の細かい条項などいちいち目を通す客などいない、とほとんどの会社は思っていることでしょう。
しかし、それを逆に利用されると会社がいかに無力であるかをよく表す事例といえます。
3 公共の場で酒・タバコを存分に楽しむ方法
開放的な空間で酒やタバコを楽しみたい人々が法の抜け穴を追求した例はまだあります。
米国テキサス州のオースティンでは、公共の場における飲酒・喫煙が禁止されていました。
しかし、どういうわけか「コロラド川の上」だけは禁止対象とされていなかったのです。
この抜け穴に気づいた人たちは、案の定、コロラド川にかかる橋にやってきました。
多いときには100人近くの人が集まり、酒やタバコをやりながらパーティ状態だったとか。
まさに、「パーティー・ブリッジ」です。
これに対し、最初のうちは、行政もさほど重大なことだとは捉えていませんでした。
しかし、橋の上に空き缶や吸い殻などのゴミが大量に散乱する事態になり、大いに頭を抱えることになったとされています。
4 図書館の本を廃棄処分から守る方法
米国フロリダ州にあるイーストレイク郡図書館で、2016年、奇妙な現象が発生しました。
9ヶ月の間に、全く同じ人物が2300冊以上の本を借りていたのです。
一日平均で約8冊。
超が付くほどの読書家ならありえない数字ではありませんが、それにしても多すぎます。
借りていたのは、「チャック・フィンリー」という人物。
しかしこの人物、実は存在しません。
ある図書館員がチャック・フィンリーなる者をでっち上げ、この者が本を借りたことにしていたのです。
この図書館では、全ての本につき貸出しの頻度がコンピューターで管理され、ほとんど誰にも借りられていない本は自動的に処分されるというシステムが導入されていました。
しかし、本によっては、今は誰も借りていなくても、将来的に人気が出る場合もあります。
借りられていないというだけで処分してしまうのは余りにも不経済。
そこでこの図書館員は、架空の人物チャック・フィンリーを作り上げ、偽の運転免許証や住所などの情報をシステムにインプット。
そして、借りられていない本が処分されないように、2300冊もの本を「彼」に貸し出していたというわけ。
貸し出された記録があれば、本が処分されることも無い。
システムのアルゴリズムを逆手に取ったのです。
なかなか上手く考えたものですが、しかしこの方法は、残念ながら成功しませんでした。
同じ人物が大量の本を借り、その直後に返却するというのはかなり不自然。
恐らくは、その不自然な記録が仇となって、企みがバレてしまったのでしょう。
ちなみに、「チャック・フィンリー」という名前は、MLBのロサンゼルス・エンゼルスに所属していたこともあるメジャーリーガーの名前から取ったそうです。
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5 同性愛者が合法的に結婚する方法
ジェンダーの多様性を認め、LGBTQの人たちが生きやすい社会を実現するというのが、今や世界の流れとして確立しています。
その流れから完全に取り残されているのが日本。
同性婚を1ミリも認めないどころか、総理大臣秘書官が堂々と同性愛者への差別発言をする時代遅れの国。
しかし、かつてはアメリカでも同性のカップルに受難の時代がありました。
その困難を経験していたのが、ミネソタ州に住むジャック・ベイカーとマイケル・マコーネルという二人の男性。
彼らは1967年に出会い、互いに恋に落ちました。
しかしながら、今から半世紀以上前のアメリカは、今の日本と同じく、同性婚は認められていなかったのです。
そこで、ジャックは何とかして法の抜け穴を見つけるべく、ロー・スクールに入学。
法律を学んだ彼は、マイケルを自分の養子にするという手段に出ました。
こうすれば、互いのファミリーネームを共有できます。
また、一方が亡くなれば相続が発生し、他方に財産が承継されます。
つまり、部分的にでも夫婦と同様の法的効果が得られるのです。
さらに、1970年、二人はミネソタ州の法律に大きな抜け穴があるのを発見。
同州の法律では、同性婚を明確に禁止する条文が存在しなかったのです。
そこで彼らは、結婚許可証を取得しようと試みました。
しかし、これが認められなかったため、法廷で争うことに。
二人は最高裁まで争ったものの、結果は敗訴。
これを受けて、彼らは最終手段に出ました。
結婚許可証の申請をする際、婚姻当事者の一方だけが役所に行けばよいという点を利用したのです。
ジャックは自分の名前を「パット・リン」という、男性としても女性としても通用する名前にして、マイケルが結婚許可証を申請。
役所は、申請書に男性と女性の名前が記載されていると思い込み、あっさり許可証を発行しました。
翌年、彼らはその許可証を使って、無事に結婚したのです。
ただ、それからの二人の生活は、決して順風満帆ではありません。
彼らがゲイであることが発覚すると、行政側は二人の婚姻を正式には認めなかったのです。
しかし、長く続いた訴訟の末、2018年にようやく裁判所は彼らの婚姻が法的に正当なものであるという判決を出しました。
ジャックとマイケルは、現在、アメリカにおいて婚姻期間が最も長い同性カップルとなっています。