社会に害をなす物があるのなら、それを禁止してしまえばよい。
問題を解決するのに、これ以上手っ取り早い手段は無いでしょう。
もちろん、現代社会では、そんなことはなかなか認められません。
害になりうる物を完全に封印してしまうより、それと上手く付き合う方が現実的な解決法です。
しかし、時代を遡れば、害があるどころか、全く無害の物が、堂々と禁止されていたこともあるのです。
〈originally posted on November 17, 2022〉
1 ゴルフ
ゴルフ発祥の地といえば、スコットランド(諸説あり)。
そのスコットランドで、かつてゴルフが禁止されていたことがあります。
1457年、ゴルフを禁止する法案が国会で成立したのです。
その理由は、単純に言えば、ゴルフの人気が高まり過ぎたから。
当時のスコットランドは、敵国からの侵入の危険が大きく、国防の強化が重要課題でした。
そのため、国民には弓術を身につけることが奨励されたのです。
しかし、若者たちはゴルフに熱狂。
ゴルフ場でプレーするだけにとどまらず、教会の敷地や一般の歩道など、所構わずやる者もいました。
このような事態を受けて、弓術のマスターに国民の意識を向けさせるべく、ゴルフを禁止にしたというわけ。
ちなみに、違反者には罰金が課せられました。
ただし、この禁止措置にどれほどの効果があったのかについては怪しいところ。
というのも、この法律の制定後も、ゴルフやフットボールなどのスポーツを禁止対象にする法案が度々成立しているからです。
おそらく、若者たちのゴルフ熱は、法律くらいでは抑えられなかったと考えられます。
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2 コーヒー
朝の目覚めはまず一杯のコーヒーから。
そして仕事に疲れたら、気分転換にコーヒーで一服。
我々の生活にコーヒーは欠かせない存在です。
そのコーヒーを安心して飲むことが出来ない国があったと言えば、驚かれるかも知れません。
18世紀後半のプロイセン王国では、朝のコーヒーを楽しむのも命がけでした。
早朝、数百人の警察官が、街の家々を回り、窓に顔を近づけ、クンカクンカと匂いを嗅ぎます。
そして、コーヒーの匂いに気づくと大音量で笛を吹き、それを合図に男たちがどこからともなく結集。
彼らは、コーヒーの匂いを発している家のドアを蹴破って突入するのです。
言わば「コーヒー警察」。
この制度を導入していたのは、当時国王だったフリードリヒ2世。
彼がコーヒーを目の敵にしていた理由は、ドイツの伝統的な飲み物であるビールに比べ、それが不健康なものだと考えていたから。
さらに、コーヒーの輸入額が増大したことによる、財政上の理由もあったとされています。
フリードリヒ2世は、コーヒーを完全に禁止したわけではありませんが、実質的に庶民が気軽に飲めなくなるような法律を制定しました。
しかし、国民のコーヒーに対する欲求は高まるばかり。
彼が死去した後、その法律が廃止されたのは当然と言えるでしょう。
3 革のトレンチコート
国民に対し、革製トレンチコートの着用を禁止した国があります。
国がトレンチコートを禁止するって、一体どんな国だよ!
と思われた方もいることでしょう。
そんなとんでもないことが出来るのは、我が国に向けてドッカンドッカンとミサイル発射を未来永劫くり返すであろう、この国です。
言うまでもなく、禁止を命じたのは、国のリーダーであるアノ男。
その理由とは何なのか。
トレンチコートの材料を軍事目的に使用するから……ではありません。
端的に言えば、彼のカリスマ性が原因です。
彼の見た目で特徴的なのは、間違いなくあの独特のヘアカットと、トレンチコート。
国民は、自分たちが敬愛して止まないリーダーの服装を真似し始めたのです。
街なかには革製トレンチコートを着る人が激増。
あっちを見てもこっちを見てもトレンチコート。
この状況が気に入らなかったために、「トレンチコート禁止令」を出したのです。
要するに、「俺様のマネをするな」ということ。
この禁止令はかなり徹底されており、警察が街をパトロールし、トレンチコートを着ている市民を見つけたら、その場で没収することもあったとか。
当然、店で販売している場合も没収。
ちなみに、本物の革製コートは価格が高く、庶民が気軽に手を出せるものではないので、低価格の模造品も多く出回っていたそうです。
4 ソーセージ
ドイツで有名な食べ物と言えば、まずソーセージを思い浮かべる人が多いことでしょう。
その種類は、細かいものも含めると優に1000を超えています。
そのドイツでは、第一次世界大戦中、ソーセージの製造が禁止されていました。
戦争は食糧難が付き物ですから、特定の食品が市民の手に行き渡らなくなる例は、もちろん珍しくはありません。
ただしそれは、出兵する兵士たちの食糧を確保するのが主な原因。
しかし、ドイツでソーセージが禁止されたのは、他の理由があるのです。
その理由とは、第一次世界大戦でロンドンを爆撃したツェッペリン型飛行船。
「空の要塞」という異名を持つこの飛行船には、ガスを充填する巨大な「バッグ」に、牛の腸が使われていました。
なんと、一隻の飛行船を製造するのに、25万頭もの牛が必要だったとか。
それを何隻も製造せねばならないのですから、ソーセージなど作っている場合ではないのも頷けます。
5 ヒーローごっこ
スーパーマンやワンダーウーマン、バットマンにスパイダーマン。
アメリカが生んだヒーローは数多く存在します。
そんなヒーローを、ちびっ子たちが真似て遊ぶのは、なんとも微笑ましい光景。
……だと思うのですが、そのヒーローごっこが禁止されたことがあります。
2013年5月、アメリカのペンシルベニアにある幼稚園が、今後は園内におけるヒーローごっこを一切禁じるという内容の通知を各家庭に送ったのです。
その理由は、なんとなく想像がつくかも知れませんが、子供たちを暴力的にするおそれがあるから。
ヒーローは、必ず悪役を倒します。
よって、そこにバトルが発生するのは避けられません。
「バトル」とは言っても、あくまでちびっ子が、戦うフリをするだけの話。
しかし、教育する側の大人たちは、それに危機感を覚えたのです。
バットマンごっこで、毎度毎度ジョーカー役をさせられる子供がいたら、それはイジメではないか。
そういう心配があったのかも知れません。
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6 PowerPointを使ったプレゼンテーション
デスクワークを行う人にとって、PowerPointのスキルは必須と言えます。
今どき、紙で資料を配るなどありえない、と考える人も普通にいることでしょう。
紙の資料にこだわっていたりしたら、某CMのように「昭和かよ!」というボヤキが聞こえてきそうです。
しかし、プレゼンにおけるPowerPointの使用を禁止した企業があります。
なんという時代遅れな企業……と思ってしまいそうですが、その企業とは、あのAmazon。
Amazon創業者であるジェフ・ベゾス氏は、パワポを禁止したのです。
その理由は、「時間の無駄」だから。
要領を得ないスライドショーをだらだらと見せられながら、欠伸を噛み殺しつつ説明に耳を傾け、ようやっと終わったときに、時間を食った割に大した内容ではないことに気づく……
パワポの持つこの意外な盲点に、ベゾス氏は今から20年近くも前に気づいていました。
長い長いスライドショーを見るよりも、要点を簡潔にまとめた紙の資料に目を通す方が、はるかに効率が良いのです。
つまり、パワポによるプレゼンは、タイパ(タイム・パフォーマンス)が最悪だということ。
さらに、パワポよりも紙の資料が優れているのは、時間短縮という点だけではありません。
パワポで作成すれば数十頁に及ぶような内容を、紙の資料で数枚程度にまとめるのは、それなりのスキルが要求されます。
作成者側が、資料の内容を十分に理解し、それを誰もが分かりやすい形に再構成する必要があるためです。
その結果完成した資料は、パワポで作った「だらだらスライド」よりも質が高い。
時間も短縮できて、なおかつ内容の濃い資料で情報をインプット出来るのですから、ベゾス氏がPowerPointを禁止したのは賢明だったと思われます。