一見すると何の変哲もないモノでも、それが誕生したきっかけには意外な秘密があります。
何かが発明される背景には、多くの場合、世間がそれを必要としているという事情があると言えるでしょう。
よって、最初から人を困らせようという目的で生み出されたモノは、あまりその例がありません。
これからご紹介するのは、その数少ない例です。
〈originally posted on May 1,2018〉
1 ランボルギーニ
車好きの人の中には、ランボルギーニに乗るのが一つの夢であるという人も少なくないでしょう。
たとえ車好きでなくても思わず見とれてしまうこの車は、いかにして誕生したのか。
そのきっかけは、二人の男の諍いだとされています。
第二次世界大戦中、イタリア空軍でメカニックの仕事をしていたフェルッチオ・ランボルギーニは、終戦後、北イタリアで小さな自動車修理屋を始めます。
そのかたわら、不要になった軍用機などを買取り、それらの部品を使ってトラクターを製造していました。
トラクター販売などの成功により、莫大な金を手にしたランボルギーニは、フェラーリ250GTを始めとする何台ものフェラーリを購入。
ところが、フェラーリのクラッチに問題があることに対してランボルギーニの不満が日に日に増大します。
そして、遂に彼はエンツォ・フェラーリ本人のもとに直接文句をぶちまけに行きました。
これに対し、ユーザーの意見など気にも留めないことで有名だったフェラーリは、あっさりランボルギーニを追い返します。
しかもその時、フェラーリは彼にこう言い放ったとか。
ブチッ…
完全にキレてしまったランボルギーニは、フェラーリをイラつかせたい一心で、独自の車を造ることを決意。
そして、フェラーリの下で働いていた従業員を数人引き抜いて、ランボルギーニ350GTを完成させたのです。
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2 『アイ・アム・ザ・ウォルラス』
1967年、ジョン・レノンは、自分の母校の生徒から届いた一通のファンレターを読んでいました。
その手紙には、ビートルズの楽曲が学校の授業で取り上げられ、生徒たちがその歌詞に解釈を加えていることが書かれてあったのです。
そしてこれは、レノンにとって最も無意味で馬鹿げていると思えることでした。
手紙を読み終えたとき、彼の頭に、少々意地の悪いアイデアが浮かびます。
歌詞の意味を分析するのが馬鹿らしくなるような歌を書いてやろう、と。
その結果生まれた曲が、『アイ・アム・ザ・ウォルラス』なのです。
直訳すると『私はセイウチ』となるこの歌の歌詞は、言葉の組み合わせが全くもって意味不明。
「コーンフレークの上に座って」「死んだ犬の目から黄色いカスタードが滴って」など、訳の分からない表現が満載です。
案の定、この曲がリリースされると、熱心なファンたちが、この謎めいた歌詞の意味を解析しようと躍起になりました。
しかし残念ながら、この歌には、隠されたメッセージなどといったものは何も無いのです。
3 点字
点字はもともと視覚障害者のために作られたのではありません。
実は、兵士が戦争で使用するのが目的でした。
点字の原型を発明したのは、ナポレオン率いる軍隊において隊長を勤めていたシャルル・バルビエです。
ナポレオンからの指令を受けた彼は、昼夜を問わず兵士どうしが無言で連絡しあえる手段として、「ナイト・ライティング」なるものを考案しました。
これは、最大12個の点を使って仏語アルファベットを表現するというシステムです。
しかしながら、あまりの使いにくさから、これは兵士たちには極めて不評でした。
そこでバルビエはパリに渡り、視覚障害者のための国立研究所に、この「ナイト・ライティング」を紹介。
そのとき彼は、ルイ・ブライユという15歳の少年と出会うのですが、そのブライユ少年もまた、兵士と同様に「ナイト・ライティング」は使いにくいと感じました。
そこでブライユは、点の数を減らすことで、指でなぞれば簡単に文字を読み取れるようにナイト・ライティングを改良し、それが現在の点字につながっているのです。
4 存在しない単語
「esquivalience」というやたらと長い英単語がありまして、その意味は、「職務上の責任を意図的に回避すること」です。
スペルも覚えにくければ、意味も覚えにくい。
そしてこんな単語、大学受験生であろうと覚える必要は全くありません。
何故なら、この単語は『新オックスフォード米語辞典』の編纂者の一人が独自に考え出した造語だからです。
つまり、もともと英語に「esquivalience」などという単語は存在せず、これが載っていたのは同辞典のみ。
存在しない単語を、伝統ある辞典に掲載した目的はただ一つ。
パクリを発見するためです。
仮に、他の出版社が、『新オックスフォード米語辞典』から、単語の定義を丸パクリしたとしましょう。
そうすると、高い確率で「esquivalience」という単語の定義もパクることになります。
しかし、この単語を掲載している辞典が他に存在するはずはありませんから、そこでパクリが発覚するというわけです。
どちらがどちらをパクったのかが争点になっても、この単語を掲載していること自体が、パクリを示す動かぬ証拠となります。
5 Hiybbprqag
辞典に掲載された「存在しない単語」とは異なり、この「Hiybbprqag」はもはや単語ですらなく、発音のしかたも定まっていません。
いわば、単なる文字列です。
ただ、その文字列が作られた目的は、やはりパクリ発見にあります。
2009年にマイクロソフトが「Bing」という検索サービスを開始したとき、その検索結果がグーグルのそれをパクっているのではないかという疑念がグーグル側に生じました。
それを検証すべく、グーグルは「Hiybbprqag」などの意味不明な文字列を複数作成し、それらをグーグルで検索した際に、予め作為的に紐づけされた特定のウェブページが表示されるようにしたのです。
つまり、それらの文字列を検索したときに、グーグルで検索した場合と同じ結果が表示されるのは、グーグルの検索エンジンを使用した場合のみということになります。
この罠を仕掛けてからしばらくして、グーグルが「Hiybbprqag」などの言葉をBingを使って検索してみると、予想通りグーグルと同じ検索結果が表示されました。
これにより、Bingがグーグルの検索結果をパクっていることはほぼ確実に。
これに対し、マイクロソフト側はパクリ疑惑を否定したのですが、それを真に受けた人はほとんどいなかったと思われます。
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6 『ドルアーガの塔』
『ドルアーガの塔』というのは、1984年にナムコより発売されたアーケード用のアクションRPGです。
全60階からなるドルアーガの塔に主人公のギルが単身乗り込み、最上階で待つ恋人のカイを救うのが目的。
各フロアは迷路になっており、敵を倒しつつ鍵を拾って出口の扉を開けばステージクリアとなります。
実に単純な内容ですが、このゲームには、他のゲームが到底マネ出来なかった一つの特徴があります。
それは、各フロアごとに設定された条件を満たすと、特殊なアイテムが入った宝箱が出現するという要素。
それらのアイテムの多くは、ゲームクリアに必須の物や、冒険に役立つ物、逆に取ってはいけない物までさまざま。
そして、アイテムを出現させるための条件は、序盤こそ簡単なものが多いですが、終盤になると非常に複雑なものになってきます。
例えば、1階であれば「グリーンスライムを3匹倒す」、2階なら「ブラックスライムを2匹倒す」というように、普通に遊んでいても偶然条件を満たせるものになっています。
しかし、後半から終盤にかけては、以下のようにかなり複雑な条件が設定されているのです。
39階:上上下下下下下の順でレバーを入力する
44階:ドルイド・メイジ・ソーサラー・ウィザードの順に敵を倒す
51階:一定方向にレバーを約8.5秒入力し続ける
58階:フロアマップ左から10列目の上から8行目・2行目・5行目の場所をこの順に下向きに通過する
それぞれのフロアにどんな条件が設定されているのかに関しては、プレイヤーには何のヒントも与えられません。
つまり、全て自力で発見せねばならないのです。
このゲームが発売された当時は、当たり前ですが、ケータイもスマホも無く、インターネットも普及していません。
今のように情報共有ができない状況で、ゲーマー達は試行錯誤を繰り返してこれらの条件を地道に発見していったのです。
55階の宝箱の出し方がどうしても見つからず、ゲームの筐体を叩けば出るのではないかという妙なウワサまで流れたことがあったとか。
ちなみに、55階には元々宝箱がありません。
要するにこのゲーム、普通の人間には到底クリア出来ないようになっていたのです。
では、何故そんなゲームが出来たのか。
一説によると、一部の強引なゲーマーへの対抗策の意味合いがあったそうです。
当時は、ゲームセンターに新しいゲームが入荷すると、金に物を言わせてコンティニューを繰り返し、一気に最後まで攻略してしまうゲーマーが存在していました。
ゲームセンターの経営者やゲームメーカーにとっては、一つのゲームをなるべく長い間、多くの人に遊んでもらう方がいいわけで、そういった強引な攻略集団は、ある意味悩みの種でした。
そこで、相当な手練のゲーマーであっても簡単にはクリアできない仕掛けとして、特定の条件を満たさないと出現しない宝箱が考案されたというわけです。
〈3DSのVC版ドルアーガの塔〉
普通に考えれば、そこまで難しいゲームは売れないのではないかと思いたくなりますが、そもそもこのゲームは、開発に至るまでの経緯からして大きなヒットを狙ってはいませんでした。
しかし、ナムコにとって嬉しい誤算として、常軌を逸した難易度が話題となり、結果的に『ドルアーガの塔』は大ヒットを記録したのです。