世の中には良い人もいれば悪い人もいるわけですが、平均的に見て、人間の本質はそのどちらなのか。
これは、性善説と性悪説はどちらが正しいのかということでもあります。
簡単には答えの出そうにないこの問題について、ヒントとなりそうな実験がいくつか存在します。
果たして、人間の本質は善か悪か。
記事のタイトルでバレバレな気もしますが……。
〈originally posted on September 13,2019〉
1 動物を轢き殺したがるドライバーたち
2013年、米国サウスカロライナ州にあるクレムソン大学の学生が、車のドライバーに関する少し変わった実験を行いました。
実験を行ったのはネイサン・ウィーバーという男子学生で、彼は車道に一匹の亀(よく見るとプラスチックで出来た偽物)を置いてみたのです。
すると、50人に1人のドライバーが、故意にその亀を轢いていました。
単なる偶然なのかどうかを確かめるため、彼は別の道路でもこの実験を実施。
結果はやはり同じでした。
無力な生き物をわざと轢き殺そうとするドライバーが2%の割合で存在するというのは、多いと見るべきか、少ないと見るべきか。
この点、ウェスタン・カロライナ大学のハル・エルツォーグ氏によれば、人間は、食物連鎖の頂点にいるということを示す衝動に駆られることがあるので、この実験結果は別段驚くことでもないとのこと。
この実験では亀が使われましたが、エルツォーグ氏の考えが正しいとすると、犬や猫でも同様の結果になる可能性はありそうです。
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2 危険な量の薬を患者に与える看護師
1966年、精神科医のチャールズ・ホフリングにより病院を舞台にして行われた実験では、看護師たちの矛盾した行動が明らかにされました。
被験者となったのは、自分が実験の対象であることを知らない22名の看護師。
勤務中、彼らは聞き慣れない声の主からの電話を受け、「アストロテン」という薬を患者に服用させるよう指示されます。
この薬、劇薬であると看護師たちは前もって聞かされているのですが、実際は無害の錠剤。
この実験のポイントは、彼らは規定量の2倍の薬を患者に与えるように言われること。
果たして、この危険極まりない指示に看護師は従うのか。
結果は、1名を除いて全員が指示に従いました。
後でその理由を聞かれた被験者たちは、あくまでそれが通常の手順だからと弁明。
興味深いことに、被験者ではない看護師たちに意見を求めたところ、自分なら絶対にそんな指示には従わないと答えたのです。
医師の指示に従うという立場と、自ら患者のケアに当たる立場とを併せ持つ看護師。
この二つの立場が矛盾するとき、看護師がどういう行動を取るのかを、この実験はよく示しています。
3 みすぼらしい子供には関わりたくない大人たち
6歳くらいの女の子が、通りの真ん中で一人立ち尽くしていたら、周りの通行人はどう反応するのか。
数年前にユニセフが企画したこの実験では、6歳の子役が仕掛人として起用されました。
その女の子が小綺麗な格好で立っている場合は、すぐに複数の通行人が彼女に話しかけ、迷子になったのかどうかを尋ねます。
しかし、同じ女の子が、貧しさがにじみ出たみすぼらしい格好をしている場合は、誰一人として声をかけません。
次に、場所をレストランに移して全く同じ実験が行われました。
女の子が綺麗な身なりの場合は、他の客たちがその子をテーブルに招き、食べ物や飲み物を薦めます。
一方、汚い見た目のときは、最初の実験とは異なり無視はされません。
ただし、無視されるより残酷なことが待っていました。
店内のほとんどの客が、女の子に店から出ていくように命じ、一人の男性客は店員を呼んで「あの子をつまみ出せ」とまで言う始末。
相手がたとえ子供であっても、その見た目だけで差別するという性質は、国籍を問わずほとんどの大人が持っているものと言えそうです。
4 人種差別は骨の髄に染みついている
2014年、ジェイソン・ロバートというYouTuberが、アメリカの黒人差別の実態が露骨に分かる実験をしました。
その実験では、まず白人であるロバートが、路上駐車してある車(実は自分の車)を白昼堂々盗もうとして、ドアに針金のような物を差し込みます。
盗難警報機がけたたましい音を発し続けていても、すぐそばを通る人たちは、チラ見する程度で特に何もしません。
途中、パトカーが横を通り過ぎましたが、警察官ですらロバートを無視。
結局、30分経っても誰にも何も言われずに終わりました。
次に、彼の友人である黒人男性が、同じ状況で同じことを実践。
驚くなかれ、その男性は速攻で通報され、わずか2分後に警察官に取り押さえられたのです。
ちなみに、2011年の統計では、自動車窃盗犯の64%は白人で、34%が黒人となっています。
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5 「人命救助はなるべく他人任せ」が多くの人の本音
最後にご紹介するのは、ともに心理学者であるジョン・ダーリーとビブ・ラタネの両氏によって行われた実験。
実験の参加者が2名、別々の部屋に入り、お互いの姿が見えない状況で、インターコムを使ってディスカッションをするよう指示されます。
2人のうちの片方は仕掛人で、会話の途中で急に具合が悪くなったフリをします。
このとき、他方の参加者はどうするのか。
普通に考えれば、直接助けに行くか、実験の主催者に報告するべきでしょう。
結果は、85%の参加者が相手の部屋に行って助けようとしました。
これのどこが人間の「闇」なんだと疑問に感じる人もいるでしょうが、実は本番はここから。
今度は、先程と全く同じ状況で実験が行われましたが、被験者には自分以外に4人がディスカッションに参加していると信じこませたのです。
すると、具合の悪くなった仕掛人を助けに行った人の数は、31%にまで激減。
「他の誰かが助けるだろう」という意識が働いたわけです。
最初の実験では、自分以外には助けられる者がいないというプレッシャーがあるので、助けに行く人が多かったのでしょう。
この場合は被験者が100%責任感を抱くことになりますが、参加者の人数が増えれば増えるほど、その責任感は低下していくのです。