新型コロナウイルスの影響で、我々の生活に欠かせない存在となったマスク。
一時期は入手困難で、転売ヤーの餌食になった人が続出しましたが、現在では何の問題も無く買えてしまいます。
それどころか、政府が用意した「アベノマスク」も大量に余っているという有様。
それはさておき、今回は、マスクはマスクでも、ウイルス感染防止のためのマスクの話ではありません。
「マスク」と名の付くものには色々な種類がありますが、おそらく最も気味の悪い、そして謎の多いマスクをご紹介します。
〈originally posted on September 11,2016〉
1 土食症マスク
16世紀から19世紀にかけて、西アフリカの奴隷たちの間で「土食症」と呼ばれる病気が広まっていました。
これは、何らかの理由で味覚異常が生じた場合に地面の土を食べてしまうという症状です。
奴隷たちが土を食べることで、食欲不振やうつ病、息切れ、目眩といった様々な悪影響が出るものと当時は信じられていました。
そこで、彼らが土を食べないようにする手段として考案されたのが、土食症用のマスクなのです。
仕組みは単純で、大きな穴開きおたま(スキマー)のようなもので口の周りを覆うようになっています。
当然ながら自分で自由に取り外すことは出来ず、しかも、炎天下でもこれを装着したまま過酷な労働を強いられていたので、ほとんど拷問に近い状態だったようです。
このマスクは、土を食べるのを防止するだけでなく、収穫した作物を奴隷たちが勝手に食べないようにする役割も担っていました。
ちなみに、多少の土を食べたくらいでは重大な健康被害にはつながらないので、土食症対策としては、このマスクはほとんど意味をなしてなかったとされています。
2 アイマスクを付けた謎多き男
1966年、リオ・デ・ジャネイロのニテロイという街の郊外にある丘で、凧揚げをしていた男性が偶然人の遺体を発見しました。
それは二人の男性のもので、二人ともフォーマルなスーツを身につけ、レインコートを羽織っていたのです。
目立った外傷は無く、誰かに襲われたとは考えにくい状態でした。
そして最も謎に満ちていたのが、この二人がどちらも鉛製のアイマスクをはめていたという点。
さらに、そばには小さなノートがあり、そこには次のような暗号めいた文章が書かれていました。
16:30 指定の場所へ
18:30 カプセルを飲む 効き目が現れたら金属部を保護 マスクの信号を待つ
後の捜査でこの二人の男性は、ミゲル・ホセ・ヴィアーナとマヌエル・ペレイラ・ダ・クルスだと判明。
彼らはリオから数キロメートル離れた街で電気技師として働いていました。
二人が最後に目撃されたのはニテロイ市内のバーで、そこのウェイトレスの証言によると、彼らは店にいる間しきりに時計に目をやり、かなり緊張した様子だったとか。
彼らが一体何者なのかについては諸説あり、地球外生命体と交信しようとしていたのではないかとも言われていますが、真相は今も謎に包まれています。
3 スプラッター・マスク
1917年、第一次世界大戦中の「カンブレーの戦い」においてイギリス軍は、当時ではまだ珍しかった戦車を投入しました。
しかし、このときの戦車は頑強な兵器のイメージからは程遠く、走行速度は人間の徒歩並みに遅いうえ、砲撃を食らうと装甲が簡単に破壊されるという弱々しいものでした。
さらに、敵からの攻撃を受けたときの衝撃で、車体の塗装やリベットなどが、操縦している兵士の顔目がけて飛んで来るのです。
そこで考え出されたのが、「スプラッター・マスク」という特殊な防護マスク。
目の周りは革製の目出し帽のようになっており、口の部分は鎖かたびらで覆われていました。
このマスクが醸し出す不気味な雰囲気は、敵のドイツ軍兵士を恐れさせるのに十分だったようです。
……最初の内は。
大きな脅威になるかと思われたイギリス軍の戦車が実はザコ同然であることが分かると、ドイツ軍は容赦なく攻撃を続行。
おまけに、気味の悪いマスクは戦場で目立ちまくり、容易く銃撃のターゲットにされたのです。
トドメとなる悲しい事実として、戦車内の温度は50度にまで上昇し、一酸化炭素まで漏れ出ていたのでそこは正に地獄。
変な見た目のマスクは、全く何の役にも立っていなかったのです。
4 ベイビー・ガスマスク
ガスマスクを装着した人というのは、ただでさえ少し怖い印象を与えますが、第一次および第二次世界大戦中はさらに不気味なガスマスクが存在しました。
それが、赤ん坊のために作られた「ベイビー・ガスマスク」です。
見た目はガスマスクというよりは、頭をすっぽりと覆ってしまう大きなヘルメットのような感じでした。
このガスマスクの真に怖いところは、手動のポンプを使って親が常にマスクの中へ酸素を送り込まないと赤ん坊が危険な状態になること。
ガスマスクを付けねばならないような非常時にこれをするわけですから、かなり大変だったことでしょう。
ちなみに、アメリカでは子供が恐怖心を抱かないように、ミッキーマウスを模したガスマスクがありましたが、一説によると普通のガスマスクよりもはるかに気味が悪かったそうです。
さらに、ペットの犬に装着できるガスマスクもあったとか……。
5 ペスト医師
(ウィキペディアより)
14世紀のヨーロッパでペストが蔓延したとき、ペスト患者だけを専門的に治療する「ペスト医師」と呼ばれる人たちがいました。
手袋、ブーツ、ワックスを塗ったガウンなどで全身を固めてなるべく肌を露出させないようにしていたのが特徴です。
そして、彼らの見た目に関して最も奇異だったのが、嘴の付いたマスク。
嘴の部分には様々な種類の香料が詰め込まれており、その匂いが邪悪な気から身を守ってくれると信じられていたのです。
彼らの治療法は、基本的には患者の体から血液を排出させるというものでした。
また、ペスト医師たちは杖のような物を手にしていましたが、これは患者に直接触れることなく身体を調べるために使われていたようです。
皮肉なことに、ペストによって200万人もの人が犠牲になったことで、患者の命を救うべきペスト医師のマスクは、いつしか絶望的な運命の象徴となりました。