一般論として、アルバイトは、正社員と比べて立場が弱い。
コロナ禍でそのことを痛感した人も多いのではないだろうか。
見方を変えれば、アルバイトをこちらから辞めるのは簡単だということでもある。
もちろん、契約内容を無視するような形で辞めてしまうのはマズイが、学生という立場の人間を採用しているのだから、採用した側もある程度は予測している事態だろう。
しかし、個別指導塾となると話は別。
塾講師は、非常に辞めにくいのである。
「あ~もう辞めたいこのバイト。やっぱ塾講師なんて向いてないわ」
と思っても、簡単には辞められない。
そこで今回は、数多の罠を回避して、確実に塾を辞めるテクニックをご紹介する。
〈originally posted on November 11,2014〉
1 個別指導塾を辞めにくい理由その1
当たり前だが、個別指導塾では、講師と生徒との信頼関係が重要な要素となる。
授業を担当してから数ヶ月も経つと、生徒の方も講師の指導方法に慣れてくる。
そんなときに、突然担当講師が替わったりすると、少なからず生徒には迷惑となろう。
受験生であればなおさらである。
入試まであと数ヶ月という時期に担当講師が変わるというのは、受験生にとっては大きな不安材料。
よって、生徒本位で考えれば、年度の途中で講師が辞めるという事態はなるべく避けるべきなのだ。
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2 個別指導塾を辞めにくい理由その2
塾側にとっても、講師が辞めるのは余計な仕事が増える原因なのである。
ある講師が辞める場合、その講師が担当している生徒全員について、代りの講師を当てなくてはならない。
他の講師のスケジュール、担当可能な教科や生徒の都合などを考慮して、改めて時間割を組み直さねばならないので、教室長は大変である。
夏期講習や冬期講習の直前に講師から辞めたいなどと言われたりしたら、それこそ悪夢だろう。
よって、講師が突然辞めたいと言ってきた場合、教室長が素直に了承する可能性は極めて低いことを覚悟しておくべきだ。
3 個別塾を確実に辞めるための秘策
以上に挙げた理由から、個別指導塾を辞めるのはなかなか難しい。
それでも、真剣に辞めたいと思うのなら、やはり辞めるべきである。
ただ、そのためにはそれなりの準備が必要だ。
まず、自分が辞めようと思う1ヶ月くらい前までには、教室長にその旨を申告しておこう。
これは、時間割を組み直すのに必要な期間を考慮してのことで、最低限のマナーである。
その際、間違いなく慰留されることとなるが、ここで説得されてしまっては元も子もないので、教室長に有無を言わせないような「辞める理由」を用意しておくべきだ。
その典型例を以下に挙げてみる。
大学の勉強が忙しくなった
これは理由としては弱い。
それくらいなら他の講師も頑張ってる、と言われてしまうかもしれない。
指導していく自信を無くした
こういった精神面の問題を理由にするのもマズイ。
「何でも相談に乗るからとりあえず頑張れ」と励まされるのがオチだ。
もっと稼げるバイトに変えたい
これが最も無難かもしれない。
留学費用を稼ぐ必要があるが、今の状態では全然足りないので、などと言っておけば説得力が増す。
僕がバイトをしていた頃にも何人か辞めていったが、その全員が最後に挙げた理由で押し切っていた。
「もっと稼ぎたい」と言われた場合、教室側はすぐさま授業を追加で割り当てるなどといったことはできないので、やはりこの理由がもっとも有効だと思われる。
ちなみに、ごく稀に、教室長に何も言わず、突然塾に来なくなって完全に連絡を絶ってしまう講師がいる。
こういうのを業界では「講師が飛んだ」と表現するらしいが、この辞め方だけはやらない方がよい。
ただ、こういう業界用語が存在するということは、この禁じ手を使って辞める講師が現実にいるということでもある。
しかし、こんな極端な手段に出なくても、最終手段としては、ただ一言「辞めます」と教室長に伝えるだけでよい。
民法第627条第1項にこう書かれてあるからだ。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
辞めるのに理由など要らないし、仮にあっても、それを雇用主に伝える必要も無い。
辞めたいから辞める。
それだけでいいのだ。
それに対して塾側が、
「おめーさぁ、ガキみたいなことホザいてんじゃねぇよ」
「おめーが今辞めたらどれだけ迷惑かかるか分かってんのか、あぁ?」
「もし辞めたら損害賠償を請求するからそのつもりでwww」
「ていうか、その分を今月の給料から引いとくわ(草)」
などと言ってきても動じる必要は全く無い。
バイトを辞めたからといって損害賠償請求など認められるわけがない。
さらに、労働基準法第5条にはこう書かれてある。
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
これに違反すれば10年の懲役刑もありうる。
そして、損害賠償請求をチラつかせることは、「脅迫」に当たる。
ちなみに、百歩譲って、バイト講師の身勝手な行動が原因で塾側に損害が発生したとしても、その損害額を給料から差し引くことは許されない。
労働基準法第24条第1項の趣旨に鑑みて、労働者の賃金債権と、使用者の労働者に対する債権は、相殺できないとする判例(最大判昭和36年5月31日)があるからだ。
4 個別指導塾は基本的にブラック
頭脳労働のバイトの中で、比較的やりやすい印象のある個別指導塾の講師だが、一体どういう理由で辞めたくなるのか。
職場の人間関係や、指導方法の悩みなど、理由は色々あるだろうが、おそらく一番多いのは、「割に合わない」というものだろうと思う。
とにかく、個別塾講師の授業以外での労働の多さは異常である。
その内容は塾によって様々だろうが、主なものは、生徒の成績管理やそれに関連した報告書の作成、夏季・冬季講習に向けての計画書の作成などである。
何故こういう事態が生じるのかというと、大抵の個別塾はギリギリの採算で経営をしているので、なかなか正社員を雇えないからなのだ。
だから、本来なら新たに社員を雇ってやらせるのが筋と思われる仕事をどんどんバイトに任せることになる。
こういった「ボランティア仕事」の量は塾によっても異なるし、同じ塾であっても教室によって異なりうる。
運が良ければ授業をやっているだけで済むし、運が悪ければ雑用に追われる日々を送ることになる。
僕の行っていた塾のある教室では、バイトをこき使う度合いが尋常ではなかったので、バイトがどんどん辞めていくことで有名だった。
ボランティア仕事をいくら頑張っても給与には一切反映されないのだから、ある意味当然である。
一部の超有名進学塾であれば、バイト講師に破格の給料を出す所もあるが、それ以外の十把一絡げの個別塾であれば、真面目に働けば働くほど割に合わないような待遇しかしないのが普通。
これから個別塾の講師をやろうか迷っている人は、その辺りをよく考えた方が良いだろう。
ちなみに、授業と授業の間は10分空いていることが普通だが、講師にとってあの10分は「休憩時間」ではない。
あの時間に、次の授業のためのコピーを取ったり、生徒からの質問を受けたりするわけで、あの10分は立派な「労働時間」である。
よって、本来なら給料が発生して然るべきなのだ。
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5 「引継書」を忘れずに
何とか辞めることを了承してもらえたら、実際に辞める日までに「引継書」を作成しておこう。
これは、自分の後任となる講師のために、今担当している生徒の学力や授業態度、その他留意すべき点などを簡潔にまとめたものである。
これを書くのは必ずしも義務ではないが、後任の講師のためにもなるべく書いておいた方が良い。
ということで、ここまで読んで下さったあなたに言うべきことは、あと一つしか残っていない。
塾講師なんてさっさと辞めてしまおう!
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