「罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる」(刑法第42条1項)。
何らかの罪を犯して、自首しようかどうか迷っている最中の人が、今この記事を読んでいる可能性は果たしてあるのか。
それは分かりませんけれども(多分無い)、罪を犯したのなら、すんなり自首するのが得策でしょう。
逃げ続けるのにも限界があります。
後ろめたい気持ちを抱えつつ、世間から身を隠すようにして生きていくよりは、きっちり法の裁きを受けた上で人生をやり直す方が、長い目で見れば、よほどまともな選択。
捜査機関からすれば、犯罪者が自ら罪を告白してくれれば捜査の負担が一気に減ります。
そして、凶悪な犯罪を犯した者でも、実にあっさり罪を認めてしまう場合もあるのです。
〈originally posted on January 21, 2022〉
1 知らぬ間に4回も通報してしまった窃盗犯
2012年3月14日、米国ワシントン州レントン市の警察署に、妙な「通報」がありました。
電話を受けたオペレーターが詳しい話を相手に聞こうとしても、聞こえてくるのは次のような音声ばかり。
「お前が車を止めたら、すぐに俺が外に出る」
「ドアをこじ開けるのは、37秒もあれば終わるさ」
自分が目撃した犯行について通報しているというよりは、これから自分が行う犯行の確認をしているといった感じ。
発信者を特定することは出来ませんでしたが、その4日後、またもや妙な電話が。
「お前ビビってんじゃねえよ。バレてるわけねーだろ。まだ何もしちゃいないんだから」
さらに、その日の夜にも同じ番号から電話があり、車の窃盗についての会話が聞き取れました。
これらの電話の主は、恐らくは車の窃盗犯(と、その仲間)。
ズボンのポケットやカバンなどに入れっぱなしのケータイから、偶然、警察の番号へ発信がなされてしまい、そのことに気づかないまま、犯人は窃盗を繰り返していたのでしょう。
そんな偶然が3回も起きるということに驚きますが、数日後、4回目の電話がありました。
このとき、警察は遂に発信者の居場所を特定することに成功。
警察官がその場所に行くと、そこはウェズリー・ストームという男の自宅でした。
警察への電話についてストームに話を聞くと、彼は、「単なる間違い電話だった」と苦しい言い訳をしましたが、結局、逮捕を免れることは出来ず。
逮捕後、ストームは犯行について否認していましたが、例の電話の音声を録音したものを聞かされると、自供を始めました。
彼は、毎日3~4台の車を盗んでいたと見られ、この逮捕があってから、レントン市内における車の窃盗被害件数が半減したとか。
警察としては、それだけ多くの事件に関わっている犯人が、自分の方から電話してくれるのは、かなり運が良かったと言えるでしょう。
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2 自供が止まらない犯人
2020年3月、米国テネシー州に住むドナルド・マーティン・ウェストとトロイ・デイヴィスの二人が、車でニューヨーク市内を走っていたとき、警察官から停止するように命じられました。
二人の車のウィンドウが色付きであったこと、ナンバープレートが無かったことが、停止を命じられた理由。
ウェストたちは、素直に指示に従い、道路脇に停車。
警察官から免許証を見せるように言われたウェストは、免許証を提示するとともに、なぜか「銃の所持許可証」も差し出したのです。
さらに、何も聞かれていないのに、
「後ろに銃もありますよ」
と言って、自分が銃を持っていることを暴露。
多分、ウェストは、銃の許可証があるのだから、銃を持っていても何も問題は無いと信じていたのでしょう。
しかし、その許可証は、あくまで彼の住んでいるテネシー州で発行されたもの。
ニューヨーク州では何の意味もありません。
つまり彼は、銃を違法に所持していることを、自分から告白したのです。
そして、ウェストのお喋りはまだ終わりません。
警察官が何も質問していないのに、
「ああ、それから、マリファナとパイプもあるよ。あと、銃弾とか弾倉とか、手錠とか……」
と、次々と激ヤバ情報を提供。
この男、聞かれてもいないことを、とにかくペラペラと喋りまくりました。
忘れてしまいそうになりますが、警察官は、ウィンドウとナンバープレートの件で、彼らの車を停めただけ。
銃やドラッグのことなど、知る由も無かったのです。
半ば呆れ気味の警察官が、デイヴィスの方に、「何か付け加えることはあるか?」と聞くと、
「灰皿の中にもマリファナがあるよ」
と、嬉々として答えたとか……。
世の中がこんな犯罪者ばかりなら、警察官はラクでしょう。
3 警察に助けを求める犯人
先程の車の窃盗犯は、自分が知らない間に警察に通報してしまったわけですが、やむを得ず自ら警察に電話した例もあります。
2015年8月、米国モンタナ州で、ライアン・ペインという男が、車の窃盗を行っていたときのこと。
何をどう間違えたのか、彼は車のトランクに閉じ込められてしまったのです。
ここでライアンは究極の選択に迫られました。
閉じ込められたままの状況で、自分で何とかする方法を探すか。
それとも、電話で警察に助けを求めるか。
もちろん、後者を選ぶことは、ある意味自殺行為。
とは言え、車から出られないままだと、それはそれで本当に自殺行為。
結局、彼は警察に電話しました。
駆けつけた警察官たちが、ライアンを無事に救助。
しかし、車から出られてホッとしたのも束の間、当然ながら彼を待っていたのは逮捕です。
4 死の直前に罪を告白(そして快復)
1995年、米国テネシー州ナッシュビルで、ジョイス・グッドナーという35歳の女性が、廃屋の中で、残忍な方法によって殺害されるという事件が発生。
捜査機関は、この事件の犯人について、早くからジェイムズ・ワシントンという男に目を付けていました。
彼は、グッドナーと長い付き合いがあったのです。
しかし、事件現場からDNAのサンプルを入手することが出来ず、物的証拠も乏しかったことから、事件は迷宮入りに。
そして、事件発生から14年が過ぎた2009年、事件解決に向けて大きな動きがありました。
この当時、ワシントンは、別の事件で収監されていたのですが、突然の発作に襲われ、病棟に移されることに。
しばらく治療を受けていたものの、余命いくばくも無いと悟った彼は、看守を呼び、「最期の告白」として次のように述べたのです。
一つ伝えたいことがある。
そうしないと、良心の呵責に耐えられない。
ちゃんと聞いてくれ。
俺は人を殺した。
殴り殺してしまったんだ……。
こうして、ワシントンは、グッドナー殺害の事実を認めました。
死を目前にして、罪の意識に抗えなくなったのかも知れません。
彼の予定では、そのまま天に召されるはずだったのでしょう。
ところが……。
ワシントンはその後、モリモリ体力を回復しました。
「最期の告白」のつもりが、この告白をきっかけにして裁判が始まったのです。
その後、法廷で彼はその告白を撤回。
曰く、「治療薬の影響で、一種の幻覚症状が出て、事実無根の告白をしてしまった」とのこと。
しかし、無理がありすぎるこの主張は却下され、たった3日間の審理によって、2012年11月、彼は終身刑を宣告されました。
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5 3000人を犠牲にした男の意外な秘密
何をもって凶悪犯とするかは、いくつかの尺度がありますが、殺害した人数もその一つに入るでしょう。
その意味で、ヘンリー・リー・ルーカスという男は、間違いなく「凶悪犯」です。
なぜなら、1983年に彼が警察に告白した殺人の件数は、3000を超えているから。
3000人を犠牲にするというのは、もはや人間兵器と言っていいレベル。
警察も、さすがにこの告白を額面通りに受け取ることは無かったようで、実際にルーカスが関わっているとされた事件は600件ほど。
それでも恐ろしい数です。
しかし、これだけの事件を起こした犯人にしては、ちょっと不自然な点が。
例えば、彼の犯行には、一貫した要素がほとんどありません。
被害者たちには特に共通点は無く、無差別に選んだ者を標的にしている感じでした。
厳格な捜査をしていれば、色々と矛盾点が浮き彫りになった可能性もありますが、警察はそこまで突っ込んだ捜査をせず、また、被害者の遺族もルーカスが犯人であるということに納得していたのです。
当時は、DNA鑑定も無かったので、警察としては、容疑者の自供に依存する面が強かったのでしょう。
ところが、2000年以降、DNA鑑定が一般的になり、ルーカスが犯した事件の数々が改めて調べられたところ、驚くべき事実が発覚。
ルーカスは、ほとんどの事件について、嘘を言っていました。
本当に彼が自ら実行した事件は、3件。
その3件の被害者は、彼の母親、ガールフレンド、そして大家。
それ以外の、膨大な数の事件については、何も関わりが無いのに、彼は自分の犯行だと言い張っていたのです。
ある専門家は、ルーカスについて次のように述べています。
彼は筋金入りの「かまってちゃん」で、警察が望むような話を構築する能力がずば抜けて高いんだ。