ゲームや漫画、アニメなどのクリエイターたちを悩ませるのは、個々の作品についてSNSで誹謗中傷する輩でもなく、レビューサイトで酷評する連中でもありません。
真に厄介なのは、海賊版の存在です。
多くのクリエイターたちの才能と努力によって完成した作品が、ネット上でいとも簡単に公開されてしまう。
こうした海賊版は、著作権者や開発会社に損害をもたらすのはもちろんのこと、その作品に関わった大勢の人たちの精神面にも大きなダメージを与えます。
海賊版に対する我が国の法規制や取り締まりは少しずつ、着実に厳しくなってきており、先日、海賊版サイトに訪問者を誘導する、いわゆる「リーチサイト」を運営していた男が逮捕されました。
自らが海賊版を公開していなくても逮捕されるというのは、大きな前進と言えるかもしれません。
とは言え、海賊版を根絶するための道のりはまだまだ長いでしょう。
今回は、ゲーム会社が実践してきた、驚くべき海賊版対策をご紹介します。
〈originally posted on February 21, 2022〉
1 『グランド・セフト・オート4』の酔っぱらいモード
飲み屋でしこたま酒を呷り、店を出たときには重度の泥酔状態。
こんなとき、自分の周りの景色がぐわんぐわんと回っているのを経験したことのある人は多いはず。
2008年に発売された『グランド・セフト・オート4』というゲームの海賊版対策が、まさにそれです。
このゲームでは、海賊版であることをゲームが検知すると、序盤こそ普通に遊べるものの、途中から画面が上記のような「酔っ払いモード」になります。
画面を見ているだけで酔いそうになるこのモードは、プレイ中ずっと続くので、逃れることは出来ません。
では、普段からしょっちゅう酔っ払っている人なら気にせずそのまま遊べるのかと言えば、そう甘くはないのです。
『グラセフ』シリーズをやったことのある人ならご存知でしょうが、このゲームでは、路上に停めてある車を盗んで市街を爆走するのが楽しみの一つになっています。
ところが、海賊版の場合、主人公が車に乗り込むと、車体が煙を吹き始め、スピードはどんどん加速する一方。
とても制御できる状態ではないので、車から飛び降りるしかありません。
要するに、まともに遊べないのです。
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2 『バイオショック』が与える真のショック
かつて、ゲーム会社にとっての海賊版対策の一つは、ゲームを実際に購入したユーザーのみがそのゲームを遊べる、という環境を作ることでした。
2007年、それを実現してくれる画期的な技術が開発されました。
それが、「セキュロム」。
セキュロムの凄いところ(というか、恐ろしいところ)は、ゲームのインストールを有効化するために必要なアクティベーションの回数が制限されていること。
『バイオショック』というゲームのPC版が発売された当時、パブリッシャーである2K Gamesは、このセキュロムを採用しました。
その結果、正規のユーザーであっても、「2回」までしかアクティベーションができない状態に。
クリアしないうちにうっかりゲームをアンインストールしてしまったらオオゴトです。
パソコンの調子が悪くなって、Windowsを再インストールしたときなども同様。
では、2回のアクティベーションを使い切ってしまい、遊べなくなったらどうするのか。
ゲームを起動できなくなったユーザー達は、2K Gamesに問い合わせました。
すると、一旦ゲームをアンインストールしてから再インストールすれば、新たにアクティベーションできるとの回答が。
しかし、この手順を試しても何も問題が解決しない人が続出。
改めて2K Gamesに問い合わせると、今度は、セキュロムの開発会社に連絡してくれとのこと。
言われた通りに連絡すると、セキュロム側は、ゲームの販売元に尋ねて欲しいという答え。
まさにたらい回し。
一説によれば、2K Games側は、セキュロムの仕組みについてよく分かっていなかったとか。
何にせよ、自分の金で買ったゲームが自分のPCで遊べないというのは、ユーザーにとっては悪夢としか言いようのない状況です。
数多くの苦情を受けた2K Gamesは、後にアクティベーション回数を5回に増加。
しかし、抜本的な解決には至らず、結局、アクティベーションの回数制限を事実上無効化するソフトウェアを公開したのです。
2K Gamesのこの大失態を見た他のメーカーの多くは、同様の事態に陥るのを全力で避けるため、セキュロムの採用を見送ったと言われています。
3 『スター・トロピクス』の「手紙の謎」
『スター・トロピクス』は、任天堂が1990年に海外向けとして発売したアクション・アドベンチャーゲームです(日本では未発売)。
見下ろし型のフィールドをプレイヤーが移動する様子は、初期のドラクエによく似ています。
筆者自身、実際にプレイしたことがないので、どんな感じのゲームなのかはよく分かりませんが、重要なのはゲーム内容ではありません。
任天堂がゲームに仕掛けた違法コピー対策です。
ゲームを進めていくと、あるパズルを解かねば先に行けない場面に遭遇するのですが、そこで次のようなメッセージが。
「手紙を水に浸すようにマイクに告げよ」
このメッセージの謎を解かない限り、ゲームは手詰まり確定です。
マイクというのは主人公の名前ですが、手紙のようなアイテムはゲームに出てきません。
実は、この「手紙」とは、ゲームのパッケージに封入されている手紙のこと。
マニュアルと一緒に入っている雑多な紙類をすぐに捨ててしまう人は、もうそこで終わり。
運良く手紙を捨てずにいた場合、その手紙を水に浸します。
するとアラ不思議、パスワードが浮かび上がってくるのです。
そのパスワードを使って先程のパズルを解けば、めでたくゲームを続行できるというわけ。
要するに、この面倒くさい謎解きは、実際にゲームを購入した者にしか分からないパスワードをパッケージに同封しておくことで、海賊版の所有者には遊べないようにしたもの。
インターネットが普及していなかった時代だからこそ成立した方法だと言えます。
4 『ファークライ4』でネットの晒し者に
この世で最も滑稽な「不満」とは何か。
それは、海賊版のゲームで遊んでいる人が、そのゲームに関してネット上に書き込む不満でしょう。
例えるなら、レストランで無銭飲食をした奴が、その店のメシが不味いと文句を言うようなもの。
金は一銭も出さないが、不満だけはどんどん吐き出す。
ゲーム会社にとって害悪でしかないこういう輩は、果たしてどれくらい存在しているのか。
それを調べるため、2014年、人気シリーズ最新作である『ファークライ4』をUbisoftがリリースする際、ゲームの中にある「ワナ」を仕掛けておきました。
このゲームでは、各種設定項目の中にある「FOVスケーリング」というものを適切に調整しないと、画面の表示が、まるで魚眼レンズを通して見ているかのような、おかしな状態になります。
「FOVスケーリング」を調整するだけの話なので、大した問題ではありません。
それのどこがワナなのかと思われるでしょうが、実はこの「FOVスケーリング」は、製品版のゲームでは、どこを探しても見つからないのです。
発売日当日に公開された修正パッチを当てることで、初めて設定項目に「FOVスケーリング」が現れます。
そして、その修正パッチをダウンロードできるのは、正規ユーザーのみ。
正規ユーザーであれば、大した手間も無く、普通にゲームで遊べます。
一方、海賊版であるためにパッチをダウンロードできないユーザーはどうしたのか。
ある者はツイッターで文句をぶちまけ、ある者はネット掲示板で解決法を質問しました。
しかしそれは、自分が海賊版で遊んでいることを自ら暴露しているのと同じ。
当然ながら、彼らはネット上で晒し者になりました。
そしてこの状況こそが、まさにUbisoftが予想していたものなのです。
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5 撃破不能なラスボスのワナ
インディーゲーム
の開発会社は、大抵は小規模で、少ない予算でゲームを開発しています。
ゲーム自体も比較的短い時間で終わるものが多く、価格もロープライスなのが普通。
しかし、そんなインディーゲームも、ときに、海賊版で遊ぶ者たちの標的にされます。
『Shooting Stars!』というアクションゲームには、そんな連中への対抗策として、とっておきのワナが用意されていました。
このゲームの海賊版は、最終面に差し掛かるまでは、プレイ中に特に問題は起きません。
しかし、最終面になると、ありえない数の敵が一気にプレイヤーに襲いかかります。
普通のゲーマーではまず即死でしょう。
では、超絶スキルを備えたゲーマーが、大量に湧いてくる敵どもを殲滅することに成功したら何が待っているのか。
それは当然、ラスボスのご登場です。
しかしこのラスボス、どうやっても倒せません。
理由は単純で、ボスのHPが無限にあるから。
つまり、ゲームオーバーになるのは時間の問題。
そしてゲームオーバーになった瞬間、画面には次のような内容のメッセージが表示されます。
ゲームオーバーになるって最低な気分だよな。
でも、インディーゲームを違法コピーされるのはそれより遥かに最低な気分なんだ。
ゲームを購入して我々をサポートしてくれ。