今もなお、世界中に多くのファンを持つ、架空の名探偵シャーロック・ホームズ。
TVドラマのシリーズとしては、故ジェレミー・ブレットがホームズ役を演じた作品は、日本でも根強い人気があります。
そういったドラマから受ける印象も原因なのでしょうが、一般的に、ホームズのイメージは、卓越した推理力で弱者を助ける正義の味方という側面が強いように思います。
ところが、原作の細かい部分に注目すると、ホームズの、ややダークサイドな面も見えてくるのです。
今回は、あまり知られていない、ホームズの意外な顔をご紹介します。
〈originally posted on April 29,2015〉
1 無関係な人を巻き込まない
シャーロック・ホームズは探偵という肩書きを持った「正義の味方」であり、事件解決のために無関係な人々を決して巻き込まないイメージがありますが、原作では目的のためなら手段を選ばないような一面も垣間見せているのです。
例えば、『恐喝王ミルバートン』の中で、彼は事件の重要な鍵を握る男に近づくため、あるメイドと「婚約」を結びます。
ところが、一旦事件が解決すると、ほとんど何も状況を説明しないままアッサリ彼女のもとを去ってしまうのです。
また、『四つの署名』『まがった男』『緋色の研究』などの作品中では、ベイカー街の浮浪児たちに小遣いをやって、自分の気が進まない汚れ仕事をさせる場面が出てきます。
ちなみに、こういったシーンは、先述のTVドラマの中でも描かれています。
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2 不合理な差別的発言はしない
これも、ある意味「正義の味方」というイメージから来るものかもしれません。
明晰な頭脳で精緻な理論を組み立てる名探偵にとって、理屈で説明しにくい差別的感情はそぐわない印象がありますが、原作での描かれ方は少々異なります。
『三破風館』では、スティーブ・ディクシーという黒人ボクサーの外見について、肌の色、分厚い唇や髪型などを口汚く馬鹿にする場面があるのです。
また、この『三破風館』における人種差別表現は他の作品よりもかなり過激なので、一部の評論家からは、この作品だけコナン・ドイルの書いたものではないのではないか、とも言われています。
ただ、注意せねばならないのは、この物語が書かれた当時のイギリスの時代背景を考えると、アフリカ出身の人たちにこのような態度を取るのはごく普通のことだったということ。
そうなると、ホームズだけが「特に」人種差別的だったというわけではないのです。
3 警察に情報を出し惜しみする
映画やドラマの中のホームズは、事件現場に現れると警察が気づかなかった証拠を高確率で発見し、彼だけがそれらの証拠から推理を進めて警察を出し抜くことが多いですが、これも原作とは違います。
ホームズは基本的に自分が発見した証拠を警察と共有します。
さらに、警察が見当違いの方向へ捜査を進めていると感じれば、自らヒントを与えたりもするのです。
こういったホームズの態度は『悪魔の足』や『ジョン・スコット・エクルズ氏のふしぎな体験』の中でハッキリと描かれています。
ホームズが警察の捜査より一歩も二歩も先んじることが多いのは、あくまで彼の卓越した「推理力」が原因であって、決して証拠や情報を出し惜しみしているからではないのです。
4 ワトソンはホームズの親友
ホームズの事件を細大漏らさず記録し、数々の難事件で彼を助けてきたワトソンは、間違いなくホームズにとって仕事上の最良のパートナーだと言えるでしょう。
しかし、ホームズが全面的に信頼を置く「親友」と言えるかとなると、結論が違ってきます。
というのも、原作ではワトソンの能力をあまり信用していないことを窺わせる描写が見られるからです。
例えば、『バスカヴィル家の犬』の中でホームズは、バスカヴィル家の様子を観察するようワトソンに指示するのですが、結局彼は自らバスカヴィル家に赴き、自分で様子を探るのです。
しかも、自分が来たことはワトソンに一言も告げずに。
さらに、『瀕死の探偵』の中で、ホームズは事件解決のために自分が死の病にかかっていると「装う」のですが、それをワトソンに伝えては他の者に真実がバレてしまうと考え、ワトソン自身にも本当に病気であると信じ込ませるのです。
結局、ホームズにとってワトソンは、非常に有能な「相棒」ではあっても、「親友」ではないと捉えるのがより的確ということになります。
5 帽子とパイプはホームズの象徴
シャーロック・ホームズといえば、常に「鳥撃ち帽」を被って「パイプ」をくわえているイメージがありますが、実はこれ、原作ではなく主に映画や舞台によって「作られた」イメージなのだとか。
まず、鳥撃ち帽に関しては、ホームズはロンドン市内で一度も被ったことが無く、そもそも帽子を被っていること自体が極端に少ないのです。
次にパイプですが、ホームズがくわえているパイプといえば、大きく「U」の字型に湾曲した大きめのパイプを連想する人が多いでしょう。
あれは「キャラバシュ・パイプ」と呼ばれるタイプなのですが、実はホームズが所有しているとされる3種類のパイプの中には含まれていないのです。
では、何故あのパイプがホームズのトレードマークになったのか。
それは、ウィリアム・ジレットという役者が舞台でホームズを演じた際、キャラバシュ・パイプの先端を自分の胸に乗せながら喋ることで、くわえたままでも台詞が言いやすいという理由から、原作には無いあのパイプを使用したのがきっかけなのです。
6 ホームズは中年の男性
ホームズとワトソンは、年齢的に30~40代の「おじさん」であると思っている人が多いのではないでしょうか。
ホームズが作品に登場したとき、彼は既にいくつもの事件を解決して名声を得ていましたし、ワトソンは戦争中に「軍医」として活動していた経歴を持っているので、そう捉えるのも自然なことかもしれません。
ところが、実際の二人の年齢はもっと若いのです。
ホームズは1854年生まれで、ワトソンに出会うのが1881年なのですが、彼らの冒険のほとんどは二人が知り合ってからの数年間に集中していることから判断すると、二人の年齢はせいぜい20代後半と見るのが正しいのです。
7 宿敵はモリアーティ教授
多くの映画やドラマの中でモリアーティ教授はホームズの宿敵として描かれていますが、これは演出上そのような設定にした方が盛り上がるからであって、原作のモリアーティ教授は宿敵とはほど遠い存在なのです。
実際にモリアーティ教授が登場するのは『最後の事件』の1作品のみで、あとは『恐怖の谷』でその存在について簡単に触れられているだけ。
また、二人が直接対決するのはライヘンバッハの滝で格闘する場面のみで、それ以外に彼らが一戦交えるような場面はありません。
実は、作者のコナン・ドイルはホームズの物語を書き続けるのに嫌気が差し、彼を死なせてこのシリーズを終わらせようと考えていました。
そして、ホームズに止めを刺すキャラクターとしてモリアーティ教授を登場させたというわけなのです。
しかし、世界で最も有名な探偵を亡き者にしたことへのファンからの反発は予想以上に強く、中には脅迫めいた手紙を送ってきた人もいたとか。
それを受けて、コナン・ドイルは再びホームズを「復活」させることになるのです。
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