今回は、気づいたら出られなくなっていた人たちの話です。
ダンジョンを歩いていると、急に床が開いて下に落ち、四方を壁に阻まれて出るに出られない。
こういうのは、ゲームの世界ではあり得る罠ですが、現実には起こりません。
ただ、床が突然開くことは無くても、何らかの原因で閉じ込められることはあり得ます。
さらに、妙な経緯で閉じ込められた場合ほど、なかなか出られないものなのです。
〈originally posted on May 12,2018〉
1 無能な警備員のせいでエレベーターに放置された男
1999年10月15日、ニューヨークのマグロウヒル社に勤めるニコラス・ホワイトは、1階の喫煙エリアで一服した後、自分のオフィスがある43階に戻るため、急行エレベーターに乗りました。
このエレベーターは、1階から40階まではノンストップになっています。
ところが、エレベーターはなぜか途中で突然停止。
どうにも嫌な予感がしたホワイトは、すぐに警報器を鳴らしますが、何も反応なし。
改めてエレベーター内を見回したものの、天井に監視カメラがある以外は、メンテナンスのスタッフにつながる電話番号すら見当たりません。
それからしばらくは、ただただ時間だけが過ぎていきました。
次第に危機感を募らせていったホワイトは、外に出たい一心で力任せにドアを開きます。
しかし、目の前にはコンクリートの壁があり、その表面には「13」の文字が見えるだけ。
このとき彼は、そのエレベーターが40階までノンストップであることを思い出したのです。
とりあえず、エレベーターが13階のあたりで止まったという事実は判明しましたが、それでどうにかなるわけでもありません。
完全にお手上げ状態となったホワイトは、所持品といえば財布とタバコとマッチくらいしかなく、水も食料も無いまま、とにかく待ち続けました。
そして、彼が閉じ込められてから約41時間後、監視カメラの映像に、警備員室にいた一人がようやく気づきます。
41時間もの間、エレベーターの中でホワイトが警報器を鳴らしたり、ドアを開けたりする様子がカメラに映っていたにも関わらず、警備員の誰一人として気づいていませんでした。
インターホンで警備員から事情を聞かれたホワイトは、監視カメラに向かって社員証を見せ、状況を説明。
その後、ようやくメンテナンスのスタッフが派遣され、彼は助け出されました。
彼の真に不幸な点は、エレベーターに閉じ込められたということよりも、警備員がおバカだったということかもしれません。
2 無能な行員のせいで銀行に放置された老人
2013年、フランス西部の都市レンヌにあるBNPパリバ銀行で、91歳の女性が閉じ込められるという前代未聞の事件がありました。
その女性は、銀行内にある自分の金庫を確認するため、行員に付き添われて金庫室へと入り、行員は金庫室から一旦外へ出て、扉に鍵をかけました。
ここまでは規定通りの流れであり、全く問題ありません。
しかしその後、その行員はお婆さんのことを完全に忘れ、仕事を終えたら建物の中の電気をすべて消してそのまま帰宅。
他の行員も、誰一人として、金庫室に閉じ込められたお婆さんに気づく者はいなかったのです。
ケータイかスマホがあれば、助けを呼ぶことなど造作もないですが、残念ながらその女性はケータイを持っていませんでした。
彼女にとってさらに不幸だったのは、その日が土曜日だったということ。
BNPパリバ銀行は、日曜と月曜が休みのため、次に従業員が出勤するのは火曜日。
91歳という年齢を考えると、まる二日以上も飲まず食わずでいるのはかなり危険です。
そんな不運なお婆さんを救ったのは、彼女の息子でした。
夜になっても母親と連絡が取れないのを不安に感じた彼は、警察に相談。
警察が彼女の足取りを辿ってみたところ、パリバ銀行に立ち寄った後、その金庫室に入ったまま出てきていないという結論に至りました。
日曜日の午前10時、警察から連絡を受けて銀行の従業員が金庫室の扉を開けたところ、真っ暗な部屋の中で静かに座っているお婆さんの姿が。
彼女は軽い脱水症状を引き起こしていましたが、命に別状は無かったそうです。
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3 無実なのに独房に放置された普通の学生
2012年4月、23歳のアメリカ人学生ダニエル・チョンが友人宅でくつろいでいたところ、いきなり麻薬取締局の者がやって来てその友人たちを逮捕しました。
彼らはドラッグの闇取引に関与していたのです。
そんな危険な連中であるとはつゆ知らず、呑気に遊びにきていたダニエルは、事情を説明することでひとまず犯罪とは無関係であると認められました。
ただし、そのことが確認できるまで、彼はいったん麻薬取締局の独房に入れられることに。
もちろん、一定の手続が済めば、ダニエルはすぐに釈放されるはずでした。
ところが、これまでに登場した不幸な人々と同様、彼の存在は完全に忘れ去られていたのです。
窓が無く、水も無く、食べ物も無く、看守もやって来ない独房の中で、手錠をはめられたまま1日が過ぎ、2日が過ぎ、3日目には遂に幻覚症状が現れ始めます。
喉の渇きをいやすため、彼は鉄製の椅子の上に放尿し、それを飲んで凌いでいました。
死を覚悟したダニエルは、自分のメガネを噛み砕き、レンズの破片を使って母親への最期のメッセージを腕に刻もうとしますが、最初の一文字を刻んだところで体力が尽きます。
一方、麻薬取締局の職員たちは、何かを叩く音や、人が叫んでいるような声が、誰もいないはずの独房から聞こえてくるのに気づいていました。
にも関わらず、彼らがその独房を調べに行ったのは、ダニエルが入れられてから四日目のこと。
ひょっとすると、その建物が呪われていると勘違いして、恐怖のあまり行動を起こせなかったのかもしれません。
独房の扉が開けられたとき、ダニエルの体は糞尿にまみれ、衰弱しきっていました。
すぐに病院に運ばれ、検査の結果、脱水症状や腎機能障害、けいれんなどが見られましたが、5日間の入院で何とか回復。
その後、かなり稀なことですが、麻薬取締局は公式に謝罪し、ダニエルは補償金として400万ドルを手にしました。
ちなみに彼は、そのお金で両親に家を買いたいと語っています。