当サイトでは、病気についての様々な話題を過去に扱ってきました。
奇妙な恐怖症や、謎に満ちた病気、実は存在しない病気など。
多くの変わった病気があるということは、人間の身体の複雑さの裏返しなのかもしれません。
そして、そういった病気の中には、今ではほとんど症例が見られなくなったものもあります。
歴史の中に忘れ去られた奇妙な病気には、どのようなものがあるのか。
今回は、それらの一部をご紹介します。
〈originally posted on October 4,2018〉
1 爆発する虫歯
今の時代に、虫歯がズキズキと痛むのをひたすら我慢しながら生活し続ける人は滅多にいないでしょう。
よほどの僻地にでも住んでいない限り、家の近所で歯科医を探すのはそれほど苦労しません。
電話かネットで予約すれば、治療を受けたその日に痛みは消え去ります。
しかし、こういうことは今でこそ当たり前ですが、19世紀には、虫歯は最も厄介な痛みの一つだったのです。
それは、当時の虫歯治療がかなりお粗末だったため、歯科医に行ったところで完治する保証が無かったから。
そのような時代では、虫歯が人々に絶望をもたらすこともありました。
例えば、イングランドのサセックスに住む或る男性は、1862年、虫歯に苦しみ、毎日悲痛な声を上げる生活を5ヶ月続けた後、自ら命を絶ったのです。
米国マサチューセッツ州スプリングフィールドに住む一人の牧師も、やはり虫歯によって地獄の毎日を過ごしていました。
波状攻撃のように襲ってくる激痛に耐えきれず、地面にやフェンスに頭をゴリゴリと押し付けたり、冷水の中に顔から突っ込んだりすることもよくあったとか。
ところが、ある朝、彼がいつものように虫歯痛に苦しみながら家の中を歩いていると、口の中で突然爆発が起こり、虫歯が粉々に砕け散ったのです。
その直後、彼は虫歯の痛みから開放され、嬉しさのあまりそのことを真っ先に妻に伝え、その日の夜は久々の安眠を得ることができました。
虫歯がいきなり爆発する現象を体験したのは、その牧師だけではありません。
ペンシルベニア州在住のW・H・アトキンソンという医師は、このような事例に3回遭遇しています。
それにしても、なぜ虫歯が爆発するのか。
これについては諸説ありますが、かなり有力なのは、「虫歯が電池と化していた説」です。
当時は、虫歯の詰め物として、鉛や銀、錫などの雑多な金属を混合したものが使われていました。
異なる金属どうしが互いに触れ合った状態で口内に置かれることで、歯が一種の電池と化していたのです。
さらに、不十分な治療が原因で虫歯の穴に水素が溜まり、そこに電流が接触してボンッ、という仕組み。
歯が爆発するときの衝撃は相当なもので、銃で歯を撃たれたかのように後ろにのけぞるほどだったと伝えられています。
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2 肌が緑色になっていく女性たち
18世紀のヨーロッパにおいて、医師たちは、しばしば女性特有の病気の対処に悩まされていました。
どういうわけか、そういった病気は、原因や治療法が判明しないことが多かったのです。
例えば、クロロシスという病気もその一つ。
女性がこの病気にかかると、月経周期が乱れ、活力が失われ、げっそり痩せてしまいます。
そして何より特徴的なのは、肌の色が緑色になること。
この不可思議な病は、200年以上も続きました。
奇妙なことに、女性の中でも上流階級の人にほぼ限定して見られる病気だったとか。
長きにわたって原因は不明のままでしたが、患者の月経が止まることがよくあったので、医師たちは半ばこじつけで、処女であることが関係していると決めつけていました。
その証拠に、この病気は一時期「処女の病」とも呼ばれていたのです。
で、結局この病気の原因は何だったのかというと、何の事はない、一種の貧血でした。
上流階級の女性たちの、偏った食生活が元で、鉄分が不足していたのです。
ちなみに、このことはクロロシスの患者が出始めた時点ですでに指摘されていたのですが、何故か200年もの間、貧血が原因であることを誰も真剣に受け止めていませんでした。
3 止まらないヘッドバンギング(うなずき症候群)
「うなずき症候群」という珍しい症状が最初に発見されたのは、1960年代のタンザニア。
その後、1980年代にもスーダンでこの奇病の患者が現れ、2010年ごろには東アフリカでの発症が確認されました。
この病気にかかると一体どうなるのか。
病名を見ればほとんど説明の必要が無さそうですが、この症状を抱えている人は、とにかく頭を前後に振るのが止まらなくなります。
さらに、栄養不足になる傾向も強いとされています。
その理由は、食事の最中にもヘッドバンギングが止まらず、まともに食べられないからです。
また、興味深い点として、子供がうなずき症候群にかかると、体の成長が遅くなることが多いのだとか。
その結果、彼らは実際の年齢よりも若く見えるのです。
この病気の原因に関しては、患者たちの住む地域に特有の寄生虫が関わっているという見解があります。
ただ、その寄生虫の被害に遭った人の全てに同様の症状が現れるわけではないので、まだ不明な点も多く残されています。
4 最凶の下痢(ブレイナード下痢)
「ブレイナード下痢」とは、一言で表現すれば、下痢のラスボスです。
この病気にかかった人は、突然お腹に激痛を感じたかと思うと、消防用ホースよろしく下痢便が怒涛のごとく噴射されます。
普通の下痢の場合とは異なり、一日に10回~20回はトイレにダッシュすることになるので、体は疲労し、さらには吐き気やけいれんなどの症状も伴います。
しかも、それらが数ヶ月から一年近くも続くというのですから、実に恐ろしい病気です。
この病気は、1983年に米国ミネソタ州において、病名の由来ともなったブレイナードという町で初めて確認されました。
ブレイナード下痢の流行は、1983年から合計10回起きており、そのうち9回がアメリカ国内で発生。
最も被害が酷かったのは、最初にブレイナードで起きたケースで、122人の肛門が爆裂しました。
病気の原因については、生乳や未処理水を飲んだことではないかとされていますが、未だ完全には解明されていません。
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5 どんな命令にも従う木こり(ジャンピング・フレンチメン)
1870年代、米国メイン州北部で木こりをしていたフランス系カナダ人の多くに、ある奇妙な現象が見られました。
彼らは、何かに驚くとその瞬間に高く跳び上がり、続いて周りの人達の行動をまねたり、言われたことを忠実に実行したりというように、奇怪な行動を取り始めるのです。
例えば、周りの人が何かを指さして、それを投げろとか、脚で蹴れとか、さらには、誰かを殴れなどといった命令をすれば、彼らは何も疑うことなくその通りに行っていました。
端的に言うと、彼らは何かに驚くと同時にその場でジャンプし、着地した瞬間に従順なロボットに変身するのです。
斧を手にした状態で。
この珍妙な現象に最初に気づいたのは、エール大学出身の神経学者であるジョージ・ミラー・ビアード。
彼の詳しい調査により、いくつか明らかになった点があります。
まず、ジャンプしてロボになってしまうのは、メイン州北部に住むフランス系カナダ人にほぼ限定されていたこと。
また、彼らの一部に「反響言語」の症状が見られたこと。
これは、幼児や統合失調症の患者などに見られる症状で、他人の発言を、聞いたままに繰り返すという特徴があります。
これらの事実から推測すると、「メイン州のジャンピング・フレンチメン」は、遺伝的要因によりそのような状態にあったのかもしれません。
ただ、環境的要因でそうなった可能性も捨てきれず、あるいは心理的な問題が関係していることも考えられます。
早い話、はっきりとした原因は特定されていません。