パソコンの場合、何かの原因でハードディスク内のデータが消失してしまっても、バックアップがあればすぐに復元できます。
それに比べると、人間は不便な生き物です。
病気などで記憶を失ってしまったら、二度とその記憶を取り戻せないこともあります。
大切な記憶を失った後にどのような生活が待っているかは、人によって異なりますし、苦しみの程度も様々。
今回は、記憶喪失になった女性たちの数奇な運命をご紹介します。
〈originally posted on March 5,2019〉
1 すでに別れた夫の帰りを毎日待つ生活
ロシア在住のヴェロニカ・メシェリアコヴァ(30)は、29歳のとき、ポルフィリン症を患い、それに伴って短期記憶障害の症状が現れました。
彼女は結婚していましたが、2017年11月に離婚。
しかし、結婚したという記憶はあっても、離婚したという記憶が、今の彼女にはありません。
夫の帰りを待つヴェロニカに、夫とは離婚しているからもう帰ってこないことを伝えると、決まって彼女は泣き崩れます。
一日経つとそのことを忘れ、彼女はまた当たり前のように夫の帰りを待つのです。
そして、既に離婚していることを告げられ、また涙を流す。
毎日この繰り返しです。
二人がなぜ離婚したのかについては明らかにされておらず、離婚話をどちらが先に切り出したのかも不明。
ただ、ヴェロニカの母親は、いつか二人がよりを戻すのを期待しているそうです。
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2 同じ男性を二度好きになった女性
ロンドン南東部のケント州に住むジェシカ・シャーマン(21)は、2010年に「前頭葉てんかん」の症状があると医師から診断され、その際、発作に伴って「逆行性健忘」が起きる危険があることを告げられます。
それ以降、彼女は発作の度に一時的な記憶傷害に陥るのが日常的に。
2016年、出勤のために地下鉄に乗っているときに発作に襲われ、その瞬間にジェシカは記憶を喪失。
そばにいた彼氏のリッチ・ビショップが彼女を何とか職場まで送って行きました。
しかし、この時の記憶喪失は、それまでのような一時的なものではなく、彼女はほぼ全ての記憶を取り戻せなくなったのです。
母親が近づいて来ても母親だとは分からず、自分の顔、名前も記憶にありません。
自分が誰かと写っている写真を見せられても、写真の中のどれが自分か分からないので、いちいち鏡で自分の顔を確認せねばなりませんでした。
当然、彼氏のことも忘れています。
リッチは二人の関係を思い出させようとして、彼女をデートに誘ったのですが、ジェシカの方はあまり気乗りしなかった様子。
彼女はリッチを他人以上の存在として見ることができず、公園で手をつなごうとしてきた彼を拒絶。
しかし、リッチの努力の甲斐あって、彼女は二度目の恋に落ちました。
それからは、二人の絆は日に日に強くなり、今ではジェシカにとってリッチはかけがえのない存在になっているのだとか。
医師の話では、ジェシカの記憶は半年ほどで戻る可能性があるものの、発作によってまた記憶を失う可能性も高いそうです。
3 1980年から現代へタイムスリップ
米国ルイジアナ州バトンルージュに住むキム・デニコラ(56)は、2018年10月、自宅近くで聖書の勉強会に参加した後、激しい頭痛に襲われました。
すぐに病院に行きましたが、ベッドの上で目覚めたときには、彼女の脳から約40年分の記憶が消失。
「一過性全健忘」を発症していたのです。
夫のデイヴィッド(60)、自分の子供、孫のことも、彼女にとっては赤の他人。
両親が既に亡くなっていることも覚えていませんでした。
現在、デニコラが思い出せる最も最近の出来事は、まだ高校に通っていたときのこと。
彼女の中で、自分はまだ高校生なのです。
看護師から「今年は何年ですか?」と聞かれたときも、「1980年」と答えたとか。
彼女にとっては、40年前から現代にタイムスリップしたようなものですから、スマホやインターネットなど今のテクノロジーに触れるのは驚きの連続。
デニコラが覚えている電化製品、例えばテレビは、大きな箱型のブラウン管テレビですが、それが今や「薄い板」となって壁にかけられているわけです。
また、現役のアメリカ合衆国大統領は今でもロナルド・レーガンであり、オバマやトランプなどは何者なのかすら分かりません。
フェイスブックなどのSNSは、面白くはあるけれども、少々騒がしく感じるのだとか。
自分のことを女子高生だと思っていたのに、鏡で56歳の姿を目の前にしたときは相当にショックだったそうです。
40年間の記憶がごっそり抜け落ちてしまったデニコラがこれから生きていくのは簡単ではありません。
しかし、夫や子供たちの支えがあるので、彼女は現状を前向きに捉えはじめています。
4 毎週彼氏のことを忘れる彼女
イギリスのノッティンガム出身のジェニー・ギズビー(24)は、今から5年前、スーパーマーケットでバイト中に発作に襲われ、意識を失いました。
店長が救急車を呼び、彼女は病院に運ばれましたが、数日間意識は回復せず。
ようやく目が覚めたときには、記憶が無くなっていました。
両親のことも、彼氏であるスチュアートのことも分からず。
幸い、彼女が記憶を失うのは一時的な症状で、時間とともに記憶が徐々に蘇ってきました。
ジェニーは非常に珍しい神経障害を発症しており、それに伴う記憶障害はやや特殊。
時々眠りから覚めると記憶が消去されてしまい、しばらくして少しずつ記憶を取り戻すのです。
記憶が無くなるのは週に一回程度。
忘れては思い出して、の繰り返しです。
思い出すのを少しでも早めるため、彼氏のスチュアートは、二人の思い出の写真をスマホやタブレットに入れて、いつでも彼女に見せられるようにしているとか。
この厄介な記憶障害が原因で、ジェニーは大学の中退を決意。
毎週記憶が無くなってしまう生活はなかなか過酷ですが、彼女の話では、決して悪いことばかりではない様子。
彼氏のことを思い出す度に、始めて恋に落ちたかのような新鮮な感覚があるそうです。
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5 弟のハグで全ての記憶が回復
イングランド南西部、プリマス在住のクロエ・インマンという女性は、幼い頃から慢性的な頭痛に苦しんでいました。
2013年、15歳の誕生日を迎える直前に、彼女は医師から「特発性頭蓋内圧亢進症」と診断されます。
彼女は、脊髄を流れる脳脊髄液が通常より多く、それが頭痛を引き起こしていたのです。
治療のため、医師は腰椎穿刺によって彼女の脊髄から髄液を抽出。
しかしこの時、副作用によりクロエは殆ど全ての記憶を失いました。
クロエの家族構成は両親と妹、弟の5人家族ですが、彼女はその誰一人として認識できなくなり、自分が何者なのかも分からなくなったのです。
本人談によれば、そのときの感覚は、「スイッチをOFFにした瞬間に記憶が飛んだ」ようだったとか。
家族の写真の数々を見ても記憶は蘇らず、そこに写っている自分はまるで他人という印象。
いつも付き添っていた母親のジュリーについては、おそらくこの人が自分の母親なのだろう、という程度にしか把握できませんでした。
記憶の戻らないまま約2年が経ったある日、奇跡的なことが起きます。
クロエが家にいるとき、6歳の弟カレブが彼女の部屋に入ってきて彼女をハグした瞬間、失われた記憶が脳内に一気に流れ込んできたのです。
彼女の記憶は全て復活しました。
現在、クロエは適切な薬物治療のおかげで、頭痛に悩まされることもなく、普通の生活を送っています。