法の番人である裁判官。
彼らは、人の運命を左右する重大な決断を迫られます。
その決断に至るまでの過程にはわずかなミスも許されません。
しかし、裁判官とて我々と同じ人間。
時には、判断を誤ることもあります。
さらに、暴走してしまうことも……。
〈originally posted on August 20, 2022〉
1 法廷でケータイが鳴っただけで全員刑務所行き
学校の授業中に、生徒がスマホをいじっていたら。
おそらく、先生が注意するでしょう。
では、法廷で被告人のケータイが鳴ったらどうなるのか。
その答えの一つは、「全員刑務所送り」です。
2005年3月、ニューヨーク市の裁判所で、数十名の被告人が、一つの法廷内に集まっていました。
被告人は全員、家庭内暴力の容疑で起訴され、有罪が確定。
彼らの処遇(実刑か或いは保護観察か)を決めるため、ロベール・リスタイノという裁判官が一人ひとりに聴聞を行っていたのです。
ただでさえニューヨーク市内の刑務所が溢れそうな状況であるのを考えれば、保護観察に処するのが妥当。
しかし、この聴聞の真っ最中に、突然ケータイの着信音が。
その瞬間、48歳のロベールはキレました。
今鳴ったケータイを直ちにここへ持って来なさい。
さもないと、君たち全員が一週間刑務所で過ごすことになる。
着信音が聴こえたのは私だけではないよな。
もう一度言う。
今ケータイを出さないと全員が刑務所行きだ。
この法廷にいる者、一人残らず刑務所行きだ。
冗談だと思うなら、ここのスタッフに聴いてみるといい。
私は本気だ!
ところが、ケータイを提出する者はゼロ。
そして聴聞が再開されました。
ロベールは、それぞれの被告人に話を聴く際、改めてケータイのことを尋問。
やはり、白状する者は皆無。
その結果、ロベールは宣言どおり、全員を刑務所送りに決定したのです。
ただ、流石にこんな滅茶苦茶な処分が認められるはずも無く、翌週には全員が釈放されています。
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2 証人に銃を手渡す裁判官
裁判官が裁判中に突然銃を取り出す。
日本ではおよそ想像できないことが、アメリカでは起こります。
2012年2月、米国ジョージア州の裁判所で行われていた、婦女暴行事件の裁判がそれです。
被害者の女性は、犯人の男に銃口を頭に押し付けられるという恐怖を体験していました。
裁判中、彼女は事件についての証言を行っていたのですが、裁判官のデイヴィッド・バレットは、その証言内容を聴きながら、いまいち要領を得ないと感じ始めていたのです。
彼女が体験したことを考えれば、それもやむを得ないというものですが、バレットはそれが我慢できませんでした。
裁判を進めることそのものに嫌気が差していたのです。
彼はいきなり銃を取り出すと、その女性に差し出しながら、こう言い放ちました。
「これで君の弁護士を撃ち抜いた方がいい」
なんというクレイジーさ。
銃で襲われた被害者に銃を渡そうとする感覚は、全く理解できません。
3 子供たちを全員少年院送りにする裁判官
些細な犯罪であっても罪は罪。
それがたとえ小学生や中学生が犯したものであっても、可能な限り厳罰で望むべし。
米国ペンシルベニア州の裁判所で少年事件を扱っていた、マーク・シャバレラという裁判官はまさにそんな人物。
彼は、特に重い罪を犯したわけでもない数千人の子供たちを少年院(拘置所)送りにしていました。
例えば、家にいるときライターで遊んでいてボヤ騒ぎを起こした10歳の女の子を少年院送りに。
興味本位で母親の車を運転しようとした結果、縁石に乗り上げてしまった11歳児を少年院送りに。
ネット上で校長を小馬鹿にした14歳の女子生徒を少年院送りに。
とにかく、何らかの法律を破った「ガキ」は、容赦なく少年院にぶち込む。
それがシャバレラのポリシー。
そして不思議なことに、シャバレラが少年少女を少年院送りにするたびに、彼はどんどんリッチになっていき、遂にはフロリダに高級マンションを買うまでになりました。
一体なぜか。
これにはカラクリがあります。
実は、シャバレラが子供たちを送っていた少年院は民間のものであり、子供を一人そこへ入れるごとに、その施設の所有者から彼は賄賂を受け取っていたのです。
その結果、シャバレラが裁判を担当し始めた1997年から、少年院送りになる子供が激増。
その数は、彼が在任していた7年間だけで約4000人。
シャバレラが受け取った賄賂の総額は260万ドルです。
この悪行が発覚した後、シャバレラは、裁判で懲役27年を宣告されています。
4 超危険な犯罪者を次々と無罪にする裁判官
ニューヨークのブルックリンにある裁判所に努めていたキャロル・ファインマンという裁判官は、あるとき、ブロンクスの裁判所への転勤が決まりました。
ブルックリンとブロンクスはどちらもニューヨークにありますから、この転勤によって生活環境が大幅に変わることは無いでしょう。
しかもこの転勤は、普通は昇進と受け取られる類のものでした。
しかしファインマンは、どういうわけかブルックリンに固執。
ブロンクスなんて嫌だ。
何とかしてブルックリンに戻りたい。
そう思った彼女は妙案を思いついたのです。
自分が、ろくに仕事ができないダメ裁判官だと判明すれば、ブルックリンに戻されるだろうと考えました。
ここで注目せねばならないのは、彼女の仕事は刑事事件の裁判官だということ。
この時点ですでに嫌な予感しかしません。
そしてこの予感は現実のものとなります。
彼女が担当した事件で、凶悪犯が次々と自由の身になっていったのです。
どう見ても有罪としか思えない事件で、彼女は無罪判決を連発し始めました。
凶悪犯が罪を償うことなく野放しにされるわけですから、市民はたまったものではありません。
この異常事態についてマスメディアから突撃取材を受けた彼女は、
「失せろよクソ野郎!警察呼ぶぞ!」
と、いかにも裁判官らしく理性的に応対。
その後、彼女はブルックリンの裁判所へと戻されることに。
結局、ファインマンの思惑通りになったのです。
5 法廷内で史上最悪の「プロポーズ」
2015年2月、米国テキサス州に住むジョステン・バンディという男が、男性の顔面を殴ったことで刑事裁判の法廷に立つはめになりました。
被害者は、バンディの彼女であるエリザベス・ジェインズの元カレ。
この元カレが、ジェインズについて暴言を吐いたため、頭にきたバンディが殴ってしまったというわけ。
なかなか男気のある人ですが、暴力はれっきとした犯罪。
裁判官のランドール・ロジャースは、15日間を留置所で過ごすことを命じました。
15日間というのはそれ程長くはないですが、しかし刑が執行されれば、バンディは現在の職を失う可能性大。
そこで裁判官はある(恐ろしい)提案をしました。
30日以内にバンディが彼女のジェインズと入籍すれば、留置所行きは免除すると。
このとき、バンディとジェインズの二人は、付き合ってはいたものの、お互いに結婚は全く意識していませんでした。
そこへ突きつけられた、悪魔のような提案。
バンディは、無職になるリスクを避けるため、しぶしぶこの提案を承諾。
一方、彼女のジェインズは、傍聴席の人たちがクスクス笑う中、顔を真っ赤にしていたとか。
結局二人は(不本意ながらも)結婚しました。
ジェインズにとっては災難という他ないでしょう。
女性にとって彼氏からのプロポーズは、人生で最も大きなイベントの一つ。
それが、よりによって刑事裁判の法廷で、傍聴人全員がプークスクス状態の中で行われたわけですから……。
6 法律を知らない裁判官
日本における裁判官は、最難関の国家試験の一つである司法試験を突破していますから、法律の知識に不安要素などありません。
ところが、素人並みの知識で裁判官をしていた人物がいます。
それが、米国ジョージア州の裁判官だったケネス・ファウラーという男。
刑事裁判においては、被告人が有罪であることを立証するのは検察官の役目。
立証できなければ、被告人は無罪です。
しかし、ファウラーの考え方は逆でした。
彼は、被告人が無罪であるという証明がなされない場合、それだけで有罪判決を出すことがよくあったのです。
「疑わしきは罰せず」という大原則がありますが、彼の場合は「疑わしきは罰す」。
これだけでも危険な存在ですが、裁判官としての彼の「暴れん坊」ぶりを示す例はまだまだあります。
被告人に侮蔑的な言葉を吐く。
女性の被告人に卑猥な言葉を吐く。
黒人の被告人に差別的な言葉を使う。
更に、被告人に対し、刑を軽くする代わりに金銭を要求。
これだけ滅茶苦茶なことをしていれば、そのツケが回ってくるのは当然です。
ファウラーは、ジョージア州の法曹界から永久追放されることとなりました。
後で判明したのですが、このファウラーという男、法律についてマトモな知識は持ち合わせていなかったそうです。
7 コイントスで被告人の運命を決める裁判官
裁判官が絶対にやってはいけないこと。
いろいろ考えられますが、その一つは間違いなく、コイントスで被告人の運命を決めることです。
流石にそんな奴はいない……と思いきや、しっかり存在しました。
ニューヨークのマンハッタンで裁判官を務めていた、アラン・フリースという男がその人。
あるとき彼は、有罪となった窃盗犯の刑期を決める際、それをコイントスで決めたのです。
ちなみにこれは1980年頃の話ですが、その時代を考慮してもマトモではありません。
8 口の悪すぎる裁判官
裁判官は、常に理性的で、冷静沈着であるべき存在。
その裁判官が、ちょっとのことでブチ切れて、暴言を吐いていたら裁判は成立しません。
しかし、米国アラスカ州にはそんな裁判官がいました。
名はティモシー・ドゥーリー。
この男、裁判官として就任した直後から、とにかく口が悪いことで有名でした。
性犯罪の被害に遭った女性に対し、極めて無神経な発言をしたことも。
2014年の家庭内暴力の事件では、被害者の女性の声が小さかったので、次のように言い放ちました。
皆さん悪いんだけどね、この人がもっとデカい声で喋るように私が引っ叩くわけにはいかないんだよ。
本気ではないとはいえ、暴力の被害者に対して暴力をチラつかせるのはあまりに非常識
ドゥーリーは、後に職務停止の処分を食らっています。
9 被告人に恋をした裁判官
恋愛というのは何をきっかけにして始まるか分かりません。
それがたとえ、裁判官と被告人という関係であっても、好きになったら止められないのです。
2004年、ニューヨーク市警の警察官だったキャサリン・ジョンソン=マーフィという女性は、交通事故を起こしてしまい、裁判で法廷に立つこととなりました。
その裁判を担当したのが、マイケル・ドースキーという裁判官。
彼は、法廷に入ってきたキャサリンを見た瞬間、一目惚れしてしまったのです。
裁判の期間中、彼はキャサリンに電話をかけまくり、遂には自分の想いを伝えました。
ドースキー自身は、彼女が無罪だとは思っていなかったようですが、結局、彼が下した判決は無罪。
その2週間後、彼らはデートすることに。
誰と誰が恋愛しようと、それは本来自由なのですが、これはどう考えてもやり過ぎです。
この事実が発覚すると、ドースキーは、裁判官としての免許を3年間剥奪される羽目になりました。
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10 拳で決着をつける裁判官
この世で発生するあらゆるトラブルが法律で解決できるわけではありません。
むしろ、裁判を起こすことで決着する紛争はごく一部。
では、法律ではどうにもならない場合、どうするべきか。
その答えの一つは、己の拳です。
2014年、米国フロリダ州在住の裁判官ジョン・マーフィは、ある裁判の最中、目の前にいる国選弁護人のことがどうにも気に入らず、イライラを募らせていました。
イライラは遂に頂点に達し、彼は、アンドリュー・ウェインストックというその弁護士に向かって、
「岩があったら今お前に投げつけてやるんだがな」
と挑発。
しかし、ウェインストックはそんな言葉に全く動じる様子は無く、平然と弁護を続けます。
それを見たマーフィは、自分のことを舐めているクソ生意気な弁護士に鉄拳制裁を決意。
「廊下に出ろ!」
マーフィのこの怒号を合図に彼らは退室し、廊下で激しく殴りあいました。
そして、ひとしきりパンチの音が響いた後、法廷に入ってきたのは……。
無傷のウェインストックと、ボコボコにされたマーフィでした。
自分からケンカを吹っ掛けておいて、逆にボコられてしまうというのは、なんとも情けない話です。