根も葉もない噂
であっても、今の時代、それが拡散するのに時間は要しません。
SNSのおかげで、どんなに下らない噂であってもあっという間に大勢の人の耳目に触れることとなります。
しかし、下らないからといって必ずしも軽視できるとは限りません。
他愛も無い噂が、企業の存立を揺るがすこともありますから……。
〈originally posted on April 28, 2023〉
1 チリの中からヒトの指
2005年、米国サンフランシスコのサンノゼにあるウェンディーズで、アンナ・アーヤラという女性が食事をしていたときのこと。
彼女は、自分が注文したチリの中に、ヒトの指が混入しているのを発見しました。
当然のごとく、彼女は店側にクレーム。
このことがメディアで報じられると、「チリの中から指」という話は一気に広まりました。
ところが、調理を担当していた従業員に店側が確認を取ったものの、仕事中に指を切断した者は皆無。
となると、誰かがイタズラで偽物の指を入れたのか。
しかし、問題の指はフェイクではなく、本物の人間の指でした。
その後、警察が捜査に乗り出したところ、アンナの話にはいくつか不自然な点のあることが判明。
さらに彼女は、過去に虚偽のクレームで騒動を起こした「前科」がありました。
もうお気づきでしょうが、チリに指が混入していたというのは彼女の嘘。
では、本物の指をどうやってチリに混ぜたのか。
実は、彼女の夫が、工事現場で作業中に指を切断してしまった同僚から、指を譲り受けていたのです。
それをアンナが自宅で調理し、店内で注文したチリに入れたというわけ。
アンナとその夫は、これが原因で逮捕され、裁判で実刑が下されました。
もちろん、これで事件解決、ではありません。
「指入りチリ」の噂はそう簡単に消えるはずもなく、ウェンディーズが被った損害は、2100万ドル。
ウェンディーズにとっては災難というしかありません。
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2 魔法使いのサッカー選手
2008年、コンゴのサッカー競技場で、大暴動が発生しました。
その結果、13人が命を落とすという悲惨な結果に。
こういった暴動が起きる原因は、自分の応援するチームが惨敗したときなどに、ヒートアップしたファンが暴れまくるというのが定番です。
しかし、この暴動のきっかけになったのは、あるウワサ。
そのウワサとは、選手のなかに「魔法使い」がいる、というもの。
一体何のことだと思われるでしょうが、魔法を使ったとしか思えないほどのスーパープレイを見せた選手がいたらしいのです。
このウワサは観客の間に一気に広まりました。
「敵チームに魔法を使う奴がいるぞ!」
本当にそんな選手がいるとしたら、それはもうチートという他ありません。
魔法を使うというチート行為に激怒したサポーターたちが、またたく間に暴徒と化したのです。
この暴動を鎮めるため、警察官は宙に向けて拳銃を発砲。
しかしこれがマズかった。
銃声に驚いた観客が一斉に出口へと殺到したため、その一部が群衆の下敷きになってしまったのです。
犠牲者の多くは子供でした。
それにしても、魔法を発端にしてここまでの暴動が起きるというのは驚きです。
3 ペプシから注射器
異物混入のウワサで企業が大ダメージを受けた例をもう一つご紹介しましょう。
1990年、カナダのオンタリオ州にある店で、注射器の一部が混入したペプシコーラの缶が発見され、ニュースになりました。
なぜ注射器が入っていたのか。
これについては、製造工場で従業員が故意に入れたとする見方がありますが、真相は定かではありません。
それから3年が経過した1993年、ワシントン州タコマで、80代の男性がまたもや注射器入りのペプシを発見。
これを皮切りにして、「ペプシから注射器発見」の報告が相次ぐようになりました。
それらの報告の中には、弾丸が入っていたとか、スクリューが入っていたといった謎めいたものまであります。
ここまで色んな物が出てくる愉快なコーラがあるなら、むしろ売上がアップしそうな気さえしますが……。
実は、これらの報告は完全なでっち上げ。
ペプシ社から金を騙し取ろうと考えた者たちによって、嘘のクレームが次々となされていたのです。
これに対してペプシ社側は、でっち上げだと半ば気づきつつも、裁判沙汰にさせないために金で解決。
さらに、ペプシコーラの安全性を訴えるために大規模な宣伝を展開。
工場に報道陣を招いて、製造過程で異物の混入する可能性が無いことをアピールしました。
こういったキャンペーンが功を奏して、ペプシコーラの売上は徐々に回復。
一方、虚偽のクレームを申し立てた者たちは、そのうち20数名が逮捕されました。
この事件は、汚い手段で小銭を稼ごうという策略によってペプシが被害にあった例ですが、最初に起きた注射器発見の事例だけは、その原因が謎のままです。
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4 宇宙戦争ドッキリの悲惨な結末
「ニューヨークで、異星人襲来を信じた人々がパニックを起こした」という事件をご存知の方は多いことでしょう。
1938年、H.G.ウェルズの小説『宇宙戦争』を題材にして、俳優のオーソン・ウェルズが、ラジオの生放送で、ニューヨークに異星人が襲来したということを、あたかも実際の報道であるかのようにしてオンエアーしたのです。
要するにこれは、一種のドッキリ企画。
今の時代にこんなドッキリをやっても誰も信じませんが、当時はネットの「ネ」の字も無い時代。
信じる人がいても不思議ではありません。
これを聴いた市民は、本当に異星人が地球を侵略しに来たと思い込み、ニューヨーク中が大パニックに陥った、というのがよく知られているエピソード。
しかしながら、これは正しくありません。
確かに、ラジオを聴いた人の中には、放送内容を信じた人もいたようですが、それはごく一部。
ほとんどの人は、他局の放送を聴いたり、知り合いに電話したりして、何事も起きていないことを知ったのです。
つまり、『宇宙戦争』の放送によって集団パニックが起きた、というのはガセネタ。
このことはあまり知られていません。
そして、これよりもっと知られていないのが、このドッキリをそっくり真似た国があるということ。
オーソン・ウェルズによるドッキリ企画から約10年後の1949年、エクアドルで最も人気のあるラジオ局が、スペイン語でこのドッキリを丸パクリ。
ただし、エクアドル版の方は、オンエアー中に、著名なタレントの死を生々しく報じるなど、シャレにならないほどのリアリティを追求していました。
その結果、ニューヨーク版の時とは異なり、異星人襲来を信じた多くの市民が通りに溢れ、街は大混乱。
警察までパニック状態だったので、収集がつかなかったのです。
ある神父は、死を覚悟した人々のために、即席で懺悔の場を設けて、何人もの「告解」を聴いていたとか。
このパニックで、一人の男性がショックで死亡しています。
さすがに悪ふざけが過ぎたと感じたラジオ局がネタばらしすると、市民の多くは安心するどころか、怒り爆発状態でラジオ局に殺到。
ラジオ局のビルはカオスと化しました。
ビル内にいた職員たちがバリケードを築くなどしたものの、少なくとも6名が命を落とすという事態に。
単なる悪ふざけにしては、その代償は大きすぎました。