奴隷というのは、歴史の教科書だけに出てくる言葉ではありません。
現代にも、形を変えて奴隷は存在し続けています。
しかも、こういった人々の存在は、発展途上国に限りません。
どんな国でも問題になりえるのです。
もちろん、その数は、歴史的に見ればかなり少なくなっていますが、しかし少ないとは言っても、世界中で約4千万人の奴隷がいると見られています。
ただし、この数字はあくまで目安に過ぎず、現代社会において、日本を含め、各国にどれくらいの数の奴隷がいるのかを正確に把握するのは極めて困難です。
〈originally posted on November 13,2018〉
1 窓拭きしているだけの女性が警察の注意を引くワケ
昼間、Tシャツ姿の女性が、家の窓を拭いている。
一見すると何の変哲もない光景です。
専業主婦が、毎日の家事をこなしているのだと考えれば、至って普通のこと。
しかし、現在イギリスでは、こういったありふれた瞬間を撮った写真が、警察によって重要な情報として共有されているのです。
その理由は、その女性が、「奴隷状態」にある可能性が考えられるから。
毎日、ほとんど家から出ずに掃除をしている女性について、その人が奴隷であるかもしれないと疑われる状況が、今のイギリスには存在しているのです。
2 現代型奴隷の特徴
現代型の奴隷は、精神的・肉体的な虐待、または脅迫などによって意思決定の自由を奪われ、強制的に働かされている人のことであり、住居を限定され、しばしば人身売買の対象にもなります。
また、奴隷の具体的な形態としては、借金が返済できない債務者を働かせる、子供を様々な目的で酷使する、本人の意思に反して第三者と結婚させる、といったものがあります。
年齢・性別の割合で見ると、子供よりも大人の奴隷の方が多く、また、女性と男性では、その数に大差は無いとされています。
さらに、近所に住む人が奴隷状態にある可能性を示すものとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 健康状態が明らかに悪そうな外見をしている
- 常に不衛生な身なりをしているなど、劣悪な生活環境にいる疑いがある
- 深夜あるいは早朝に車で送迎されている
- 他人と目を合わせようとせず、会話を避けようとする
3 市民からの情報に頼る警察
イングランドのエイボン・サマーセット警察によれば、過去2年間で、奴隷に関する市民からの通報は確実に増加傾向にあるとのこと。
そして、市民からの通報こそが、奴隷状態に置かれている人を救うために極めて重要なものとなります。
この種の犯罪は、警察の目が届きにくい場所で発生しているので、通報をきっかけにして事件が解決するケースが非常に多くなっているのです。
4 洗車場の従業員
現在、イギリスにおいて特に奴隷が増えている場所は、自動車の洗車場です。
過去二年間だけでも、洗車場で奴隷として働かされているケースは、350件以上あったことが明らかになっています。
被害者の国籍で比較的多いのは、ルーマニア。
また、被害者本人からの通報は、全体の1%に過ぎず、残りの99%は市民からの通報です。
5 アメリカの奴隷事情
奴隷解放宣言(第二部)が発布されたのは1863年ですが、それから約150年経った2013年の時点において、アメリカ国内だけで6万人の奴隷がいたと推測されています。
奴隷たちが仕事をする場所は様々ですが、アメリカで比較的多いのは、縫製工場で働くパターン。
メキシコ出身のフロール・モリーナという女性も、そんな一人でした。
2002年、アメリカでの生活に憧れていた彼女は、自分が受講していた裁縫の授業を担当する教師を通じ、アメリカでの就職を斡旋してくれる人物に出会います。
その人物の話では、モリーナの「雇い主」が、彼女の旅費やアメリカでの住居まで全て手配してくれるとのこと。
条件の良すぎるこの申し出を信じてしまった彼女は、パスポートを取得してロサンゼルスへ。
このとき彼女は、自分が人身売買に巻き込まれていることなどは想像すらしていません。
ちなみに、人身売買によってアメリカに来る被害者の多くは、彼女のように正規のパスポートを使って合法的に入国しています。
違法入国するのは全体の3割にも満たないのです。
6 奴隷化していくプロセス
合法的にアメリカに入国し、仕事と住む場所まで与えられたモリーナが、如何にして奴隷にさせられていったのか。
彼女の仕事を斡旋した人物は、まずパスポートや身分証明書などをすべて渡すように彼女に命じます。
何かマズイことが起きていると感じつつも、強引に説得されたモリーナは、パスポート等をすべて渡しました。
すると、その斡旋人からいきなり、「お前には3000ドルの貸しがある」と告げられます。
つまり、それがこの「出来すぎた話」の代償というわけ。
そしてここから、モリーナの悪夢が始まります。
3000ドルの借金を返済するために働くのはもちろんですが、生活のあらゆる面で「雇い主」の命令に従わねばならないのです。
休み無しで、毎日18~20時間働かされ、なおかつ外を自由に出歩くことは許されないという、地獄の生活が幕を開けました。
7 奴隷を服従させ続ける言葉
たとえ奴隷のように扱われても、隙を見て逃げることは可能ではないか。
そう考える人がいるかもしれません。
しかし、人身売買を行う者たちが口にする「ある言葉」によって、奴隷状態はいとも容易く維持されるのです。
その言葉とは、「警察」。
パスポートや身分証明書を取り上げられた被害者は、逃げたところで不法滞在ゆえに警察に捕まる危険性を指摘されると、刑務所に入るよりは、たとえ辛くても奴隷生活の方がマシだと思ってしまうのです。
また、奴隷に対する一般的なイメージとは異なり、彼らは肉体的な虐待を受けることはあまりありません。
体に怪我を負っている場合、その人が異常な状況下にあることが周りにバレる恐れがあるからです。
つまり、虐待で最も多いのは、相手を精神的に追い詰めるような攻撃です。
8 我々も奴隷と無関係ではない
奴隷状態の人たちが仕事をしている工場などの職場には、通常の従業員も一緒に働いています。
よって、被害者たちは見た目には普通の従業員と変わらず、職場自体には何の問題も無いように思えるのです。
このように、誰かが奴隷として酷使されている状況は、決して隠されることなく、一般人の目に触れる形で存在しています。
ということは、現代に奴隷がいるなどとは普段全く意識していない人でも、日常生活で奴隷と接触している可能性は十分にあるということ。
さらに言えば、我々が購入する、衣料品などの商品の中にも、奴隷によって作られた物があるかもしれないということです。
9 助けてくれる者はいない
奴隷状態から逃れることができた人たちもいますが、その際、誰かに助けてもらったというケースは決して多くありません。
彼らのほとんどは、自力で脱出しています。
先ほどのモリーナは、アメリカに渡る前、目的地に着いたら教会に行かせてもらうことを斡旋人と約束していました。
そしてこのたった一つの約束が、彼女の身を自由にする鍵となったのです。
奴隷生活が当たり前のようになっていたあるとき、雇い主にしつこく懇願することで、モリーナは日曜日に一日だけ教会に行くことを許可されました。
一時的に解放された彼女は、駐車場を歩いて通り過ぎるとき、自分が自由の身になっていることに驚きます。
このチャンスを逃すとまた奴隷に逆戻りだと考えた彼女は、職場で知り合った唯一の友人に電話をしようと決意。
しかしここで大きな問題が。
モリーナは英語が上手く話せず、おまけに電話をかけるためのお金も持っていなかったのです。
彼女はダメ元で通行人の男性を呼び止め、自分の代わりに電話をかけて欲しいと片言の英語で伝えます。
その男性は、言われたとおりに電話をかけ、モリーナは友人に助けを求めました。
その後、友人が車で駆けつけ、遂に彼女は本当に自由の身となったのです。
現在、彼女はアメリカに住み、自分のような被害者を一人でも減らすべく活動を行っています。