以前、「ネットで誹謗中傷を繰り返す最悪の人々」という記事を書きましたが、ネット並みの強い影響力で一般人の生活をいとも簡単に潰してしまう危険性が、テレビ番組にもあります。
危険性という意味において、SNS等のネットとテレビとの決定的な違いは何かといえば、テレビの場合は烏合の衆による特定個人への一斉攻撃が起きにくい点でしょう。
ただし、テレビ番組は、そういった一斉攻撃を誘発するきっかけにはなり得ます。
また、時には番組内容そのものによって個人が精神的に追い込まれる場合も……。
今回は、テレビ番組が原因で人生を狂わされた人たちの話です。
〈originally posted on November 27,2019〉
1 犯罪再現ドラマに「殺された」父親

2019年9月、イギリスのチャンネルITVで、『告白』というシリーズがオンエアされました。
クリストファー・ハリウェルという連続殺人犯の起こした事件をベースにした犯罪捜査ドラマです。
登場人物は役者が演じているものの、名前はすべて事件関係者の実名。
事件の被害者の一人であるベッキー・ゴッデン(当時20歳)は、2003年に行方不明になり、その後死体で発見されました。
ベッキー殺害事件についても、その捜査過程がドラマの中で詳しく再現されていたのですが、それにより、彼女の父親であるジョンの日常は一変することに。
ドラマの中の彼は、ベッキーが居なくなったとき、娘の安否にまるで無関心な男として描かれていました。
さらに、警察の捜査を混乱させたことにより、彼が非難される場面も。
一言で言えば、ドラマの中の彼は、自分の娘を守ることもできない無能な男でした。

ジョン本人の話によれば、これらは全て番組側のでっち上げなのだとか。
しかし、たとえ真実と異なっていても、一度オンエアされてしまったらもう終わりです。
ネット上では彼に対するバッシングが止まりませんでした。
SNSやメールでもジョンへの攻撃が繰り返されたので、彼はあらゆるソーシャルメディアのアカウントを削除。
実名が世間に知れ渡っているので、怖くて外も歩けない状態だったとか。
ジョンは、「この番組によって自分は殺され、娘も再び殺された」とコメントしています。
2 ドラマのオープニングになぜか息子の遺体

2005年9月28日、米国ロサンゼルスで、アンディ・ネルソン・アバルカ(当時23歳)という男性が、ギャングに襲われ、射殺される事件が発生。
それから数年経ったある日、アンディの母ヒルダと、彼の姉ジェシカは、『サウスランド』という番組を観ているときに背筋が凍る思いをさせられました。
アメリカで人気だったその刑事ドラマのオープニング映像には、解剖台に乗せられた本物の遺体が映っていたのですが、よく見るとそれはアンディのものだったのです。
自分の身内の遺体が、テレビ番組のオープニングに毎週登場するというのは、遺族にとっては悪夢と言うほかないでしょう。
アンディの遺族は、その写真を使用することについてテレビ局からは何も聞かされていませんでした。
その後、彼らはテレビ局を相手取って訴訟を提起。
ここで問題なのは、果たして番組側のこの行為が法を犯したことになるのかということ。
オープニング映像に映っているのは、あくまで「遺体」だからです。
これがプライバシーの侵害になるのか否かは、アメリカ国内でも州によって異なるのだとか。
しかし、いずれにせよ、倫理的な面からはやはり問題があると言うべきでしょう。
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3 悩み相談の番組に出演して人生が終わった男性

2005年に放送が始まり、イギリス国内で屈指の人気を誇っていた『ジェレミー・カイル・ショウ』という番組があります。
一般人の出演者が、家族や恋人との悩みを打ち明け、司会のジェレミー・カイル進行の下、その悩みを解決するというトーク番組です。
2019年5月、この番組に、スティーブ・ダイモンド(63)という男性が出演しました。
このときの悩み相談の内容は、彼とそのフィアンセであるジェーンとの関係についてのもの。
スティーブが、他の女性と浮気している疑いが浮上していたのです。
彼はその疑惑を全面否定したのですが、番組側はわざわざウソ発見器を用意。
スティーブはウソ発見器にかけられ、その結果、彼はウソをついていると判定されました。
この瞬間、観客からは非難轟々。

収録後、彼は親しい友人に電話し、ウソ発見器の方が間違っているのだと涙ながらに語ったとか。
しかし、結局彼とジェーンとの関係は絶望的に。
それから10日後、スティーブは自宅の寝室で自ら命を絶ちました。
この事実を重くみたテレビ局は、同番組の打ち切りを決定。
スティーブが出演した回も、オンエアされることはありませんでした。
ちなみに、この番組は、他の複数の出演者についてもその生活を破滅させたという忌まわしい過去があります。
誰かを犠牲にすることなく高視聴率の番組を作ることがいかに難しいかをよく物語っている事例といえるかもしれません。