博多華丸・大吉
さんのファンである僕は、仕事帰りにスマホでNHKの「あさイチ」という番組を観るのが日課になっている。
そんな「あさイチ」で、先日、気になることがあった。
痴漢の被害について、ある視聴者からのメッセージが紹介されていたときのこと。
画面にはそのメッセージの文章が映り、内容をアナウンサーが読む。
痴漢の犯人に対する処遇が甘すぎるのではないか、という趣旨の主張の最後に、
「痴漢は男の性だと諦めねばならないのか」
という一文がはっきりと見て取れた。
引っかかったのは言うまでもなく、「痴漢は男の性」の部分である。
こういう考えを持つ人がいること自体は、無理も無いと思う。
痴漢の被害に遭ったことのある女性にしてみれば、男は全て痴漢予備軍だと思いたくなるのも理解できる。
しかし、そのこととは別に、この表現は明らかに男性蔑視的だ。
実質税金で運営しているNHKとしては、この表現をオンエアに乗せるべきではなかった。
視聴者からのメッセージは、スタッフが改めてその内容を入力し、プリントアウトしたものを画面に映すのだから、この部分をカットすることは出来たはずである。
このメッセージが紹介されたとき、アナウンサーは「痴漢は男の性」の部分は読まなかったが、画面に映し出されている以上、同じことだ。
NHKは、女性に対する差別や、障害者、LGBTへの偏見などに関しては、啓蒙的な番組作りにかなり力を入れている。
その一方で、こういった男性蔑視の側面にはかなり鈍感だという印象を受ける。
同様の事例は他にもある。
例えば、かなり以前の話になるが、僕がたまたま某局のニュースを観ていたときにもこんなことがあった。
電車内で痴漢を働いた男が逮捕されたという内容を伝えた直後、女性アナウンサーがこう言って締めくくったのである。
「世の殿方には、もっと自覚を持ってほしいものです」
これを聴いた瞬間、驚きのあまりしばし固まった。
世の殿方って何だ……自覚って何……?
トノガタ……トノガタ……。
俺はトノガタだよな……。
男だし。
てことは、毎朝、家を出るときに、
「オイ、俺!
電車に乗ったとき、そばに女の人がいても体を触るなよ!
絶対に触るなよ!
犯罪だからな!
ちゃんと自覚しとけよ!」
こう自分に言い聞かす必要があるのだろうか。
酷い話だ。
こういった男性蔑視発言は、ときに公人でも堂々と言い放つ。
かつて、女性専用車両に加え、男性専用車両も電車に導入すべきではないか、という声が一部の男性から上がったことがある。
それについて、当時、国土交通大臣だった女性は、記者からコメントを求められてこう返した。
「男でそんな神経の細い人なんているの?」
今の時代、公の場で国務大臣が性差別発言をすれば、それは大問題である。
失職も免れない。
ところが、この発言は何の問題にもならなかった。
その理由は、当時の時代背景というよりは、男性蔑視発言だからだろう。
この国は、男性蔑視という概念には、どこまでも無頓着である。
誰かが男性蔑視発言をしようとも、そんなもの、ほとんどの人間は気にも留めない。
問題視しようとする者もいない。
「あなた食べる人、わたし作る人」
というキャッチコピーは、性差別であるとして大問題になり、そのCMは中止になった。
一方、
「亭主元気で留守がいい」
は、性差別であると非難されるどころか、面白いキャッチコピーだとして絶賛された。
要するに、この国には「男性蔑視発言」というものは存在しないのである。
だから、「痴漢は男の性」のようなメッセージを公共放送が堂々と画面に出しても、いちいち気にしてはいけない。
「これは男性蔑視だ!」などと声を上げても、そんなものは無視されるか、黙殺されるか、一笑に付されるかのどれかである。
男性蔑視という概念はそもそも存在しないし、神経の細い男もこの世に存在しない。
世の殿方は、このことをよく自覚しておくべきだ。