弁護士にとって、過払い金の返還請求訴訟というのは、件数も多く、その仕事の進め方は、ある程度ルーチン化されていると思われます。
しかし、弁護士が依頼される事案には、かなり複雑なものもありますし、ときには、全く扱った経験の無いものもあるでしょう。
後者の場合、弁護士としてやり甲斐を感じらるものなら良いですが、逆に、馬鹿げたものだと厄介です。
依頼の内容を聞かされた途端、
「何言ってんだ、この人……」
と心の中で呟いてしまうほど、訳の分からない事案もあるかも知れません。
〈originally posted on April 16,2020〉
1 「お宝」グッズを勝手に処分した親を訴える
米国ミシガン州出身、”チャーリー”という男の人生は、「お宝」に囚われた人生と言っていいでしょう。
ここで言う「お宝」とは、思春期の男子がベッドの下に隠すような、或いは、一人暮らしの成人男性が、自分の死後速やかに友人に処分してほしいと願うような、そんな「お宝」です。
彼は、高校時代および大学時代に、その手のお宝グッズを他の生徒に販売していたことが原因で、退学処分になったこともあるとか。
2016年、そんなチャーリーが離婚したとき、彼は、両親の住む実家に転がり込んできました。
家の中で彼は、いわゆる自宅警備員としての日々を過ごしていたのですが、10ヶ月ほど経って両親との仲が険悪に。
その後、家を追い出された彼は、インディアナ州に転居。
数ヶ月後、実家に置いていた彼の荷物が、両親から送られてきました。
その荷物を見て、チャーリーは愕然とします。
段ボール箱12個分もの、彼のお宝グッズが、ただの一つも含まれていなかったのです。
それらのお宝の中には、現在では入手不可能な貴重なビデオもあったとか。
彼の主張によれば、お宝グッズの総額は、28000ドル(約300万円)。
お宝について両親を問いただすと、「全て処分した」という恐ろしい返事が。
ブチ切れたチャーリーは、両親への刑事告訴を試みます。
しかし、警察に全く相手にされなかったため、86000ドル(約930万円)の損害賠償請求訴訟を提起しました。
ちなみに、彼の父親の話では、息子のお宝グッズを処分した理由は、
「息子の精神面が心配だった」
とのこと。
こんな感じで親に心配されるチャーリーが離婚した理由も、やはりお宝と関係があるような気がします。
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2 ノートパソコンと結婚したい男がユタ州を訴える
価値観の多様性が重視される現代では、女性・男性という「性別」についてさえ、昔とは異なる捉え方が広まりつつあります。
これはつまり、結婚に関しても、女と男との結婚だけが結婚ではないということ。
とは言っても、人と物との結婚を法律的に認める必要は、果たしてあるのか。
弁護士、音楽プロデューサーなどの肩書を持つクリス・セビエという男性は、その必要があると考えています。
2016年、彼は、米国ユタ州を相手取って訴訟を起こしました。
その理由は、彼がノートパソコンと結婚することを、州が法的に認めないから。
もちろん、「ノートパソコン」というキラキラネームの女の子ではありません。
Windowsが搭載された普通のパソコンです。
セビエによれば、同性間の婚姻は認められるのに、パソコンとの婚姻が駄目なのは、筋が通っていないとのこと。
ちなみにこの男性、これ以前にも、テキサス州やアップル社に対して奇抜な訴訟を起こしたことがあります。
3 殺人犯が「神」を訴える
神をも恐れぬ男がいるとすれば、ルーマニア在住のパヴェル・ミルチア(40)は、間違いなくその一人です。
殺人の罪で懲役20年の刑に服していた彼は、2007年、神を訴えました。
ミルチアの主張によると、2005年、彼は神と「契約」を結んだことで、この世のあらゆる邪悪なものに対して抵抗できるはずでした。
ところが実際は、彼は邪悪な思念に抗えず、人を殺害してしまいます。
このことが、神の「契約違反」にあたるというわけです。
この訴えに対し、ルーマニア西部、ティミショアラ市の裁判所は、訴え却下の判決を下しました。
その理由は、「神は法に従うべき存在ではなく、住所も無い」というもの。
極めて常識的な判断だと言えますが、何となく、改めて言うほどのことなのか、という気もします。
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4 「2澗ドル」を求めてニューヨークを訴える
2014年4月11日、米国ニューヨーク州マンハッタンで、一人の男が、裁判史上の伝説を残しました。
男の名前は、アントン・プリシマ(当時62歳)。
彼は、22頁に及ぶ手書きの書類を裁判所に提出し、損害賠償請求訴訟を提起したのです。
弁護士に依頼しても、誰も引き受けてくれないと考えたのか、代理人は立てずに本人訴訟で挑みました。
彼の請求の根拠は、かなり支離滅裂です。
バスに乗っているとき犬に手を噛まれた、病院にいるとき中国人カップルに無断で写真を撮られた、空港のカフェで料金をぼったくられた、などなど。
プリシマが被告として名前を挙げたのは、ニューヨーク公共交通機関管理所、ニューヨーク市、ニュージャージー・シティ大学メディカルセンター、ファストフード店「オー・ボン・パン」、ディスカウント・ショップ「Kマート」など多数。
これだけでもかなり面倒くさい雰囲気が漂っていますが、真に驚くべきはここから。
彼がこの訴訟で請求した金額は、「2澗(かん)ドル」です。
「澗」というのは、普通ならまずお目にかからない単位ですが、これは10の36乗のこと。
「億」の10000000000000000000000000000倍です。
この金額の凄い(おバカな)点は、地球上に存在する全ての金銭を合計しても、この額には届かないというところ。
何から何まで無茶苦茶な訴訟です。