我々の身の周りのモノには、それが誕生するに至った起源があります。
大抵の場合は、必要だからこそそれが生まれたと考えていいでしょう。
まさに「必要は発明の母」というわけです。
しかし、そういったモノばかりではありません。
実に意外な、そして不気味な起源を持つモノもあるのです。
〈originally posted on December 31, 2022〉
1 観覧車
デートにおいて憧れのシチュエーションとして人気のある観覧車。
観覧車でキスを決めるのは、最高にロマンチックでしょう。
まあ、想像ですが……。
ところで、観覧車は誰が発明したのか。
これは、おそらくご存知の方が多いことでしょう。
理由は、観覧車は英語で「フェリス・ホイール(Ferris Wheel)」と言うからです。
1893年、次の万国博覧会の開催地がシカゴに決まったとき、アメリカは、何かインパクトの強い展示物を欲していました。
これには、1881年にフランスでエッフェル塔が建設されたことへの対抗意識もあったとされています。
その展示物を実現するべく白羽の矢が立ったのが、ジョージ・ワシントン・ゲイル・フェリス・ジュニア。
この重大な任務を引き受けた彼は、人が乗ったゴンドラを巨大な車輪で回す装置を発案しました。
高さ約80メートル、重さ約70トン。
2000人以上もの客を乗せられるという、当時としてはあまりにも壮大な代物でした。
それゆえ、万国博覧会の組織委員会は、こんなバカげた計画に乗り気では無かったのです。
しかし、フェリス自身が資金を集め、彼が一切の責任を負うのであれば、という条件でOKが出ました。
かなり酷い条件ですが、フェリスはそれを承諾。
そして彼は、史上初となる観覧車を完成させました。
フェリス・ホイールの誕生です。
観覧車は大成功で、莫大な利益をもたらしました。
これにより、フェリスは巨万の富を手に入れた……と言いたくなりますが、真実はその逆です。
観覧車が生む利益のほとんどは、組織委員会に流れました。
さらにフェリスを不幸が襲います。
彼は、観覧車について何も特許を申請していなかったので、彼のアイデアをパクって観覧車を作った者たちが、フェリスに訴訟を起こし始めたのです。
訴訟費用が膨らみ、フェリスは破産。
妻にも見捨てられ、その寂しさを紛らわすため、アルコールに浸る毎日。
遂には腸チフスを発症。
万国博覧会で、自らが作った観覧車をデビューさせてからわずか3年後、フェリスは37歳で他界しました。
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2 「ロンドン橋落ちた」の歌
「ロンドン橋落ちた」の童謡は、あまりにも有名なので、知らない方はまずいないでしょう。
この歌が何をきっかけにして生まれたのかについては、諸説あります。
その中でも特に不気味なのが、「人柱」説。
ヨーロッパの特定の地域では、かつて、子供たちが建物の「一部」になるという慣習があったとされています。
例えば、城や教会を建設する際、子供が壁などの一部になるというわけです。
生きたまま……。
何となく、巨人が進撃する某漫画に出てくる壁と似ていますが、こちらは巨人ではなく子供。
何故そんなことをしたのかというと、建物の堅牢性、安全性を高めるため。
いわば、子供たちが「永遠の監視者」として建物を見守るのです。
ある文献によれば、ドイツのブレーメンにある橋を建設するときに、この慣習が行われていたとか。
ロンドン橋でもこの慣習がなされたのかについては、文献に記録が無いので定かではありません。
しかし、「ロンドン橋落ちた」の歌は、この人柱のことを念頭に置いて作られたのではないかとも言われています。
ある意味、その証拠と言えるのが、この歌を歌いながら行われる遊び。
二人の子供が両腕でアーチを作り、他の子供たちがそのアーチの下を次々とくぐっていきます。
そして、歌が終わった瞬間に、アーチが降ろされ、1人の子供が捕らわれるのです。
3 SAT(大学進学適正試験)
日本において英語の試験というと、TOEICやTOEFLが有名です。
一方、日本でも受験できるものの、あまり知られていないテストとして、「SAT」というものがあります。
これは、アメリカの高校生が大学へ進む上で受けることとなる標準テスト。
このテストのスコアは、合否を判定する上で一つの判断材料になります。
言わば、高校生の間に学んだことがしっかり身についているかを見極めるためのテストです。
そう捉えると、このテストは非常に合理的で、ダークな要素とは無関係に思えます。
ところが、このテストが始まったきっかけはかなりダーク。
SATが初めて実施された1900年代は、アメリカへの移民が急増しました。
これに対して危機感を覚えたのが、カール・ブリガムという人物。
彼は、アメリカの大学に黒人やユダヤ人をなるべく入学させないために、SATを考案したのです。
SATでは、白人に有利なテストを採用しました。
具体的には、あらかじめ、白人の生徒の方が他の民族より高得点を出す問題の傾向を調査しておき、白人に有利な問題を中心にテストを構成したのです。
4 人生ゲーム
家族で遊べるボードゲームの代表といえば、人生ゲームで決まりでしょう。
1980年にアメリカで発売が開始されたこのゲームは、今や世界中で遊ばれています。
日本でもお馴染みのゲームですが、人気アニメなどとコラボした商品が多く、独自の進化を遂げている印象があります。
そんな人生ゲームが進化する前、つまり、初代のオリジナル版は、今とはかなり雰囲気の異なるゲームでした。
人生ゲームでは、止まったマス目に様々なイベントが記されています。
このイベントの内容が、オリジナル版ではかなりダークな内容だったのです。
例えば、「貧困」「破産」「犯罪」「投獄」など。
そしてトドメは、自ら人生を終わらせる、「自……」。
子供も遊ぶゲームであることを考えれば、かなり恐ろしいマス目です。
初代人生ゲームがここまでダークな内容だったのには理由があります。
人生ゲームの生みの親であるミルトン・ブラッドレーは、リトグラフ(石版画)で生計を立てていました。
特に売れ筋だったのが、エイブラハム・リンカーンのリトグラフ。
ところが、このリトグラフの売れ行きが次第に悪化していき、ブラッドレーは経済難に陥ります。
金も無く、生きがいも無く、希望も消え失せた状況で作られたのが、初代人生ゲーム。
ダークな内容だったのも無理はないでしょう。
ところで、こんなダークばボードゲームは果たして当時売れたのか。
意外なことに、このゲームは飛ぶように売れました。
人生に絶望してしまったら、その人生をボードゲームにすればいい。
この発想が無かったら、ブラッドレーの人生は本当に終わっていたかも知れません。
5 「朝飯前」って英語で言えますか
Amazonの検索欄に「英語で言えますか」と入力すると、「~って英語で言えますか」系の本が山ほど出てきます。
僕はそういう本のタイトルを見る度に思うのです。
それ言い出したらキリがないだろ、と。
英語にするのが難しい日本語の表現など、それこそいくらでもあるでしょう。
例えば、「それ言い出したらキリがないだろ」って英語で言えますか、みたいに。
それはさておき、「そんなの朝飯前だ」って英語で言えますか(オイ)。
僕は、とあるアクションゲームをやっているときにこの英語を知りました。
様々な言い方が考えられますが、答えの一つは、「It’s a piece of cake.」です。
他には、「It’s a cakewalk.」という言い方もあります。
どちらも、「cake(ケーキ)」が入っています。
なぜ「ケーキ」なのか。
甘いケーキは、ちょろいとか簡単とか、そういうイメージがあるのか。
実は、これらの表現に「ケーキ」が入っている理由は、かなりダーク。
アメリカで、黒人が奴隷として働かされていた時代、週末になると、あるコンテストが開かれていました。
それは、白人のための余興として、黒人が踊りを披露するコンテスト。
優勝した者には、一切れのケーキが渡されます。
これが、「a piece of cake」や「a cakewalk」の由来です。
ちなみに、「take the cake」と言えば「優勝する」という意味。
つまり、ケーキが含まれるこれらの表現は、黒人奴隷に対する侮蔑的な余興が起源となっているのです。
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6 チェーンソー
2022年、アニメでは数々の話題作がオンエアーされました。
『鬼滅の刃』『進撃の巨人』『スパイファミリー』などなど。
そんな中、個人的に2022年度No.1のアニメだと思うのが、『チェンソーマン』です。
映像、音楽、ストーリー、どれを取っても最高でした。
当たり前すぎますが、チェンソーマンと言えば、やはりチェーンソー。
では、そのチェーンソーが生まれたきっかけは何なのか。
そんなの、木を切り倒すために決まってるだろ、と言いたくなりますが……。
そうではありません。
ある意味、『チェンソーマン』よりも恐ろしい起源です。
実はチェーンソーは最初、人間に使われていたのです。
1700年頃、ヨーロッパでは、自然分娩が難しい場合、「恥骨結合切開」という手術が行われていました。
端的に言えば、赤ん坊が出てくるための空間を広げるための手術ですが、今の時代に行われることは稀です。
当時、この手術にはナイフが使われていました。
しかし、適切な施術が非常に難しく、母体への危険も大きいものでした。
そこで、1780年に、スコットランド在住の医師2人が、多数のナイフが付いた器具を発明。
これが、チェーンソーの原型です。
そして1830年、クランクを手で回すことで刃を回転させるという、今のチェーンソーにより近い物が開発されました。
この器具はとても優秀で、分娩のときのみならず、開頭手術や切断手術にも利用されることに。
しかし、医療技術の進歩とともに、チェーンソーが人体に使われることは無くなっていきました。
その一方で、1900年代になると、チェーンソーが木の伐採に使われ始めます。
それからは、伐採にチェーンソーを使うのが通常の利用法となったのです。
『チェンソーマン』の主人公は、悪魔を相手にチェーンソーをぶん回すのですが、もともとチェーンソーが人間を相手にして使われていたというのは驚きです。