ちょっと待って、何でこっちが訴えられるの!?
濡れ衣、とばっちり、お門違い。
言い方は色々あれど、とにかく自分は何も悪いことはしていない。
なのに訴えられる。
謎……。
などと呑気なことを言ってられないのが裁判というもの。
どれだけ理不尽な理由で訴えられようとも、売られた喧嘩は買わねばなりません。
〈originally posted on October 19,2017〉
1 クッキーを配って訴えられた女の子
日が落ちてからしばらくして、玄関の扉をノックする音が聞こえたので外に出てみると、そこには誰もおらず、小さな箱が置いてあるだけ。
中にはクッキーとハート型のメッセージカード。
カードには、
素敵な夜を
T&Lクラブより
と書かれてある。
何となく女子が作ったことを思わせます。
しかし、「女の子の手作りクッキー」という言葉に速攻で反応してしまう僕ですら、いきなりクッキーが置いてあったら流石に首を傾げるでしょう(と言いつつ結局食べますが)。
この妙な出来事は、2004年、米国コロラド州のデュランゴという街で実際に起きたのです。
「T&Lクラブ」というのは、テイラー・オスタガード(18)とリンゼイ・ゼリッティ(19)の二人のこと。
地元の人に何か良いことがしたいと思い立った仲良し二人組は、クッキーを焼いて近所に配って回りました。
その際、自分たちの正体を知られたくなかったので、彼女たちはクッキーを置いてドアをノックしたらダッシュで立ち去っていたのです。
しかし、これが予期せぬ結果につながることに。
ワニタ・ヤング(49)という女性宅にもクッキーを置いていったのですが、実はこの女性、過去に何度か強盗の被害に遭っており、不審者の侵入に対して強い恐怖心を抱いていました。
テイラーとリンゼイの行いは、結果的にこの女性に「不安発作」を引き起こしてしまい、彼女は翌日に入院。
これに対し、二人は謝罪し、治療費を支払うと申し出たのですが、ヤングの方は怒りが収まらず、その申し出を拒否。
治療費を求めて訴訟を起こしました。
治療費を支払うと言っている相手に対して、治療費の請求訴訟を起こすのも妙な感じですが、何れにせよ、裁判の結果はヤングの勝訴。
当初の予定通り、彼女は治療費の900ドルをゲットしました。
確かに、テイラーとリンゼイにも非はありますが、謝罪している相手にわざわざ訴訟を起こすというのも、大人げない気がします。
【スポンサーリンク】
2 絵文字を使って訴えられたカップル
2016年6月、イスラエル出身のカップルが、引越し先を探していたところ、あるアパートの広告に目を付けました。
彼らは早速そのアパートの大家に連絡を取り、何度かメールのやり取りをします。
しかし、そのカップルの望む条件とは合わなかったため、契約を交わすのは見送ることに。
その約1ヶ月後、彼らは大家から唐突に訴訟を起こされました。
まだ賃貸契約も結んでおらず、ましてや家賃の滞納なども無いというのに、なぜ訴えられたのか。
その原因は絵文字です。
彼らが大家に送ったメールには、スマイリーフェイスやピースサイン、シャンパンボトルなどの絵文字が使われていました。
それらの賑やかな絵文字を見た大家は、てっきりそのカップルが部屋を借りる気満々だと思い込んだのです。
その結果、入居者募集の広告を取り下げてしまい、これにより一ヶ月の家賃が得られなかったとしてカップルを訴えることに。
メールに絵文字を使うなどごく普通のことであるのを考えると、大家の単なる勘違いで処理すべき訴えのようにも思えます。
ところが、裁判官の下した判断は、大家の勝訴。
絵文字を使ってしまったカップルは、2200ドルを支払うはめになりました。
3 息子を交通事故で亡くして訴えられた遺族
2007年4月26日、米国コネチカット州ハートフォードで、マシュー・ケニー(14)という少年が自転車に乗っていたところ、デイヴィッド・ウィーヴィング(48)の運転する車が激突し、彼は翌日亡くなりました。
2008年12月、裁判でウィーヴィングには懲役10年が宣告されます。
その数ヶ月後、ケニーの両親は、ウィーヴィングに対し、15000ドルの損害賠償を求めて訴えを起こしました。
これに対し、服役中のウィーヴィングは、同じく15000ドルの損害賠償を求めてケニーの両親を訴えたのです。
不当な刑事裁判と、それによる刑務所暮らしのせいで精神的苦痛を被った、というのがその理由。
ちなみに訴状は「手書き」でした。
ウィーヴィングの主張によると、ケニーが死亡したのは、事故当時彼がヘルメットを被っていなかったからであり、ひいては、ヘルメットを着用させずに自転車に乗せていた親に責任があるとのこと。
驚くべき思考回路を持つこの男は、過去にも何度か飲酒運転で逮捕されていました。
ケニーを轢いたときはシラフでしたが、車の速度は133キロ以上出ていたのです(制限速度70キロ)。
ヘルメットがどうとかいう次元ではありません。
明らかに滅茶苦茶な言い分なのですが、ある弁護士によれば、この手の訴訟が起こされる狙いは、相手に訴訟を取り下げさせることなのだとか。
また、加害者が被害者を訴えるイレギュラーな例は、訴訟大国のアメリカといえどもその数は少なく、被害者が加害者を訴えるという通常の訴訟のわずか4%しかないそうです。
4 線路に飛び込んで鉄道会社を訴えた学生
「人身事故により、列車の到着が遅れております」
駅のホームでこの手のアナウンスを聞いて、「あぁ、またか……」と何とも言えない気分にさせられるのは、恐らくほとんどの人が経験しているはず。
人生を終わらせる手段は数あれど、線路への飛び込みは、直接的・間接的に最も多くの人を巻き込んでしまう手段だと言えます。
特に、遺族にとっては、鉄道会社から損害賠償を請求されるのは確実ですから、色んな意味で悪夢です。
そして訴訟に関して言えば、遺族の側が鉄道会社を訴えることは通常は考えられません。
飛び込む人は、運転士が急ブレーキを掛けても絶対間に合わないタイミングで「死へのダイブ」をするわけですから、運転士の責任を問うのはまず無理でしょう。
しかし、世の中には何事も例外があります。
1977年3月7日、ニューヨーク在住のマイロ・スティーブンス(19)は、駅のホームに立っているとき、迫りくる列車が視界に入ると、そこから身を投げました。
この数秒後に列車は急停止。
衝突は避けられなかったものの、マイロは奇跡的に助かります。
ただし、その代償として片腕と片脚を失いました。
その約7年後、彼は、ニューヨーク市の公共交通機関管理所を相手取って訴訟を起こしたのです。
自分が腕と脚を失ったのは、運転士が早くブレーキを掛けなかったのが原因だ、というのがその主張。
この裁判は、途中で両者の和解が成立し、マイロには65万ドルが支払われることになりました。
自分から身を投げておきながら、運転士のブレーキが遅れた責任を追及する、というのは、普通の感覚ではちょっと理解できません。
【スポンサーリンク】
5 自分をかくまった夫婦を訴えた殺人犯
2009年9月7日、米国コロラド州オーロラ市で、ジェシー・ディミックという男が殺人事件を犯し、逃走しました。
その5日後、彼は、盗難車に乗っているところを警察に発見され、その瞬間、この殺人犯と警察とのカーチェイスが始まります。
途中でディミックの車のタイヤがパンクし、とある家の庭に車が突入。
彼は車を降りるとその家の中に侵入し、そこに住む新婚のロウリー夫妻をナイフで脅したうえ、自分をかくまうように命令しました。
ロウリー夫妻は素直に指示に従い、さらに食べ物や飲み物まで振る舞って、最終的に3人で映画のDVDを鑑賞したとか。
あまりに居心地が良すぎたのか、ディミックはそのまま熟睡。
その隙に、二人は家を抜け出して警察に通報。
駆けつけた警察官に彼はあっさり逮捕されます。
後の裁判で、ディミックは有罪が確定しました。
その後、ロウリー夫妻は、精神的苦痛に対する慰謝料として、75000ドルを請求する訴えをディミックに起こします。
それに対抗して、彼は235000ドルを請求する訴えをロウリー夫妻に提起。
その理由は、ロウリー夫妻がディミックと交わした約束を破ったから。
彼がロウリー夫妻に約束させた内容とは、自分が家から出て行った後で絶対に警察に通報しない、というもの。
その約束を破って通報したから俺は逮捕された。許さん。訴えてやる。
というわけです。
このおバカな裁判で彼に味方する弁護士はさすがに一人もいなかったようで、ディミックはたった一人で法廷に現れました。
結果は彼の敗訴。
そもそも、ロウリー夫妻は約束を破ってはいないのです。
ディミックは、自分が家を出た後で通報するなと言っていたわけですが、ロウリー夫妻が通報したとき、彼はまだ家で寝ていたのですから。