死刑を廃止すべきか存置すべきかは、今の日本でも議論のあるところです。
さらに、死刑の運用方法が適切かどうかが問題となることも。
これに関しては、刑の執行を当日になって本人に告知することが憲法違反か否かが裁判で争われています。
現在、世界では50余りの国々で死刑制度が採用されていますが、死刑にまつわる議論というのはそう簡単に結論は出ないでしょう。
一方、そういった議論とは別に、死刑には、あまり知られていない側面があります。
それは、数は少ないものの、死刑執行を乗り切った死刑囚がいるということ。
今回は、そんなレアなケースをご紹介します。
1 「神の意思」で救われた囚人

1800年代始め、ジョセフ・サミュエルというイギリス人が、強盗事件を起こしました。
サミュエルとその仲間数人が家に押し入って犯行を行っている最中、保安官が駆けつけますが、彼らによって命を奪われています。
その後、サミュエルは逮捕され、国外追放を命じられてオーストラリアへ。
保安官の殺害について、サミュエルは容疑を否認していましたが、結局彼は裁判で死刑を宣告されました。
1802年9月23日、執行の当日。
なおも彼は殺人を否定し続けますが、その首には縄が巻かれ、予定どおり刑は執行。
しかし、首周りの縄が切れてしまい、サミュエルの体は地面に落下。
足首を捻挫しただけに終わりました。
そこで、新しい縄が用意され、2回目の執行へ。
ところが、今度は途中で縄がほどけてしまうというアクシデントが発生。
またもや新しい縄が用意され、3回目の執行がなされましたが、縄が切れて失敗。
縄に何らかの細工でも施されているのかという疑念が生じ、用意された全ての縄が調べられたものの、特に怪しいところは無し。
で、次は4回目の執行となりそうですが、4回目はありませんでした。
3度も刑の執行が失敗したのは神の意思が働いているからではないかという声が、執行を見守っていた人々の間から出始めたのです。
その結果、刑の執行は取り止めに。
サミュエルは、いわば観衆の声によって命を救われたのです。
しかしその後、彼は再び刑務所送りとなり、自由の身とはなりませんでした。
2 10発の弾丸でも死なない女性

1978年、ごく平凡なタイ人女性が誘拐事件を企てました。
彼女は家政婦として働いていたのですが、雇い主から突然解雇され、その腹いせに、雇い主の息子を誘拐して金を要求しようと考えたのです。
自分一人での実行は困難とみて、金を要求する役の男数人と手を組むことに。
彼女は6歳の息子を誘拐し、男たちに引き渡しました。
男たちはその子の父親、すなわち彼女の元雇い主から金を受け取ろうとしますが、計画が上手くいかず、男の子を殺害してしまいます。
その後、誘拐事件に関わった全員が逮捕され、彼女は裁判で死刑に。
執行方法は銃殺です。
執行当日、執行人が彼女の心臓を狙って10発の弾丸を発射。
ぐったりとした彼女の遺体は、すぐに遺体安置室へと運ばれました。
ところが……。
しばらくすると、彼女はむっくりと起き上がったのです。
信じがたいことに、10発もの弾を浴びていながらまだ生きていました。
そんな人間が存在することに驚きますが、実はこれには理由があります。
彼女の心臓は、普通とは逆の位置にあったのです。
そのせいで、致命傷を免れていたというわけ。
とは言っても、撃たれまくってもなお生きていたのはやはり凄いと言わざるをえません。
その後、改めて刑が執行されましたが、残念ながら(?)今回は「奇跡」は起きませんでした。
3 死刑を乗り切った後の悪夢

日本と同じく死刑制度を維持しているアメリカでは、死刑が失敗に終わったケースがいくつかあります。
過去5年間で、少なくとも9件の執行が失敗しています。
その典型例とも言えるのが、「致死注射」の失敗です。
これは、適切な血管に針を刺すことができないために起こります。
その背景にあるのは、執行人の経験不足や、囚人の肥満体型など。
そして、注射の失敗によって地獄の苦しみを味わったのが、ケネス・ユージーン・スミスという男。
スミスは、1988年3月18日、米国アラバマ州でエリザベス・セネットという女性を殺害。
殺害を計画したのは彼女の夫で、スミスは殺害の実行を請け負っていました。
裁判で彼は死刑となり、2022年11月17日、その刑の執行が行われたのですが……。
針を刺すべき血管を執行人がなかなか特定できず、執行は遅々として進みません。
スミスの体のあちこちにブスブスと注射針が刺されたものの埒が明かず、ついに執行は中止されたのです。
彼はとりあえず執行を乗り切りましたが、ここからの人生はまさに地獄。
苦痛に耐えているときの体験が蘇る度に悪夢のような恐怖を感じ、不眠症やうつ病を患うこととなりました。
そして2024年1月25日、2度目の執行が開始。
今回は、注射ではなく「窒素ガス」が使用され、執行は予定通りに終了しました。
4 「鉄の首」を持つ女

弾丸に貫かれても死なない女性がいるかと思えば、首を吊られても平気な女性もいます。
あまり詳しいことは分かっていませんが、1264年8月、イネッタ・デ・バルシャムという女性に対する死刑が執行されました。
彼女は、窃盗犯を匿った罪で死刑を宣告されたのです。
刑の執行は予定通り行われ、何のトラブルも無く終了。
彼女の体はロープに吊られたまま、翌朝まで放置されました。
しかし驚くことに、執行終了から少なくとも20時間は経過しているのに、彼女は生きていたのです。
これにより、その女性は結局「お咎めなし」になったのだとか。
それにしても、一体なぜそんなミラクルが起きたのか。
一説によると、彼女の気道は骨組織によって「骨化」していた可能性があるとされています。
つまり、ロープが絞まっても気道が完全に塞がれずに呼吸ができたので、命が助かったというわけ。
果たしてこれが真実かどうかは分かりませんが、相当にタフな女性であることは間違いありません。
5 最も幸運な死刑囚

1884年、イングランドの小さな村で、エマ・キースという女主人が自宅で殺害されました。
彼女は刃物で刺殺されていたのです。
真っ先に容疑がかけられたのが、ジョン・リーという男。
彼はキースに雇われていた使用人で、腕に不可解な切り傷がありました。
しかし、決定的な証拠は無く、あるのは状況証拠のみ。
にも関わらず、リーは後の裁判で死刑判決を食らいます。
執行予定日は1885年2月23日。
手段は絞首刑です。
執行の当日、執行人は予行演習を行いました。
レバーを倒すと、ロープ下の床がパカッと開く。
全く問題なし。
本番では、首にロープをかけられたリーがこの床の上に立つわけです。
執行の時刻になり、リーが床の上に立ちました。
続いて執行人がレバーを倒しますが……。
一向に床は開きません。
2回目を試みても、結果は同じ。
続いて3回目を試みましたが、やはり床はビクともしなかったのです。
結局、刑の執行は取り止めに。
その後、リーは22年間を刑務所で過ごした後、釈放されました。
それからの彼の人生については定かではないのですが、一説によれば、アメリカに移住して家庭を築き、1945年に亡くなったとされています。
それにしても、たった3回失敗しただけで刑の執行自体を取りやめるというのは、あまりにも短絡的な気がしてなりません。
しかも、死刑囚本人はノーダメージ。
ちなみに、なぜ床が開かなかったのかについてはよく分かっていません。
ひょっとすると、これもまた「神の意思」だったのでしょうか……。