近年、性的マイノリティーの人たちをもっと深く理解しようという動きが、日本でも活発になっています。
例えば、NHKではトランスジェンダーの話題についての番組に力を入れていますし、子供に分かりやすい形で伝えているものも少なくありません。
そういった、性的マイノリティーの人たちを示す言葉が、「LGBT」。
「LGBT」という表記は、日本においてもかなり定着してきましたが、海外では「LGBTQ」あるいは「LGBTQ+」という表記もよく使用されます。
ご存知の方も多いでしょうが、ここで改めて、それぞれのイニシャルが表す意味をご紹介しましょう。
L……レズビアン(女性の同性愛者)。
G……ゲイ(同性愛者。男性を指すことが多いが、厳密には男女問わず当てはまる)。
B……バイセクシュアル(恋愛対象が性別に縛られない人)。
ちなみに、男女両性の特徴を備えているのは「バイジェンダー」。
T……トランスジェンダー(生まれたときの性と、自認する性が一致しない人)。
反対に、一致しているのが「シスジェンダー」。
Q……クィア(伝統的な性のカテゴリーに当てはまらないと自認する人。本来は差別語)。
またはクエスチョニング(自分自身の性の捉え方がまだ定まっていない人)。
+……上記いずれの定義にも当てはまらない人。
最後の「+(プラス)」は、人によっては、おまけ的なものに感じるかも知れません。
しかしながら、性的マイノリティーのコミュニティにとっては、この「+」が、ある意味最も重要なのだとか。
何故なら、性の概念について、上記に列挙したイニシャルだけではカバーし切れないものが数多く存在するから。
その一部を挙げるだけでも、インターセックス、ツースピリット、アセクシュアル、パンセクシュアル、アジェンダー、パンジェンダー、ジェンダー・ヴァリアントなど、実に様々なものがあります。
本当の意味で性の多様性を認めるということは、それらを包括的に示さねばならないということ。
よって、最後に「+」を付け加えることが、非常に大きなインパクトを持つのです。
〈originally posted on December 5, 2021〉
1 同性愛者カップルの子供の方が成績が良い
両親がどちらも男性あるいは女性という環境で育った子供は、男女の夫婦に育てられた子供に比べ、何らかのデメリットはあるのか。
例えば、子供の成長に伴う行動面や学習面などについて、ネガティブな影響はあるのか。
この点、1980年代には、研究者の間でも意見が分かれていたようです。
しかし現在では、ネガティブな影響があるという考え方は、もはや時代遅れになっています。
アメリカのコロラド大学デンバー校における研究によると、同性愛者のカップルに育てられたということが、デメリットとなることは無いのだとか。
さらに、2015年にアメリカのテキサス大学で行われた研究によれば、同性愛者の両親は、異性同士の両親に比べ、より多くの時間を子供と過ごす傾向があります。
この傾向は女性同士のカップルの場合に顕著で、平均して40%も多くの時間を子供に割きます。
一方、男性同士のカップルでは、異性同士の両親における母親と同等の時間、父親の2倍の時間を子供のために使います。
これらの違いは一体どこから来るのか。
研究を主導したケイト・プリケット博士の話では、同性愛者のカップルが子供を持つに至る経緯が関係しているのではないか、とのこと。
どのような手段で子供を持つにせよ、同性愛者の場合、子供のいる家庭を作りたいという強い願望があるのが普通です。
それと同時に、親になる覚悟や責任感、使命感も強く、このことが、上記のような差を生む原因になっているというわけです。
以上の点から、両親が同性愛者であるということが、決してネガティブな要素にならないのは明らかでしょう。
しかし、それだけではないのです。
最近、オックスフォード大学が、オランダにおける同性愛者のカップルと異性同士のカップルについて、その子供が学校でどのような成績を取っているのかを調査・比較しました(ちなみにオランダは、2001年に世界で初めて同性愛者どうしの結婚を合法化した国)。
すると、小学校と中等学校において、同性愛者のカップルの方が、平均的にみて、子供の成績が高いことが分かりました。
その理由は、先述のように、両親が子供と過ごす時間が長いということもありますが、両親の経済力の高さも指摘されています。
同性愛者のカップルが子供を持つには、それなりの資金が必要であることが多いからです。
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2 エコバッグとゲイの奇妙な関係
コンビニやスーパーで買い物をする際に、あると便利なのがエコバッグ。
少しでも環境のことを考えるなら、なるべくレジ袋に頼らないようにするべきでしょう。
しかし、エコバッグを全く使わないという人もいます。
そういう人は、いちいちエコバッグを携帯するのが煩わしいのかも知れませんが、実はもっと意外な理由のあることが分かりました。
2019年にアメリカのペンシルベニア州立大学が行った研究によれば、普段エコバッグを使わない男性は、「ゲイだと思われたくない」という理由でエコバッグを避けている人が多いのだとか。
エコバッグとゲイとの間に一体何の関係があるのか。
研究を行ったジャネット・スウィム教授の話によると、日常的に見られるエコフレンドリーな行為(エコバッグを持ち歩く、洗濯物は乾燥機を使わずに干す、など)は、古くから、どこか女性的な行為であると見られる傾向があります。
そこで男性は、エコバッグを持ち歩けば、自分の性について周りから誤解されるのではないか、という意識が働き、エコバッグを避けるのです。
実際、男性が上記のようなエコフレンドリーなことをしていると、その人に対して、男性も女性も、
「この人、ちょっと男性っぽくないな……」
という印象を抱くそうです。
もちろん、男性であれば誰もがこういった理由でエコバッグを避けるわけではありません。
自分が男性であるということについて、ある種のコダワリを持っている人に限られます。
3 差別をする人間はバカ?
LGBTのような性的マイノリティーの人々を差別する人間に対して、強い憤りを感じている人は多いでしょう。
中には、「差別する連中なんてみんなバカ」と断言する人もいそうです。
では、差別する人間は本当にバカなのか。
2016年にマーク・ブラント、ジャレット・クロフォードの両氏が発表した研究論文によれば、知能指数の低い人ほど、黒人やアジア系アメリカ人、ゲイ、レズビアンといった人たちに対する差別意識が強いそうです。
ということは、「差別する奴はバカ」というのは、一面の真実があるということになります。
そうなると、「やっぱり、賢い人間は差別なんかしないのさ」と思ってしまいそうですが、実はそうでもありません。
知能指数の高い人は、キリスト教原理主義者や軍人、保守的な人々に対する差別意識が強いことが分かりました。
つまり、知能指数の高い人も、低い人も、差別意識は強いのですが、差別の対象が異なるのです。
4 「生まれながらにしてゲイ」では差別を無くせない
LGBTの人たちに対する差別を無くすためには何が必要か。
この点、例えば、ゲイの人たちは、自らの選択でゲイになったのではなく、生まれながらにしてそうなのだ、という考えを広めることが考えられます。
同性愛者は、同性愛者として生まれたのだから、そこには本人の選択が入り込む余地は無い。
つまり、本人にはどうしようもないのだから、本人には何ら責任は無い。
こういった考え方を社会に定着させることは、LGBTに対する差別を無くしていくことに一役買うように思えます。
しかし、現実はちょっと違うようです。
2016年にアメリカのテネシー大学とミズーリ大学コロンビア校が行った研究によれば、大学生の多くは、ゲイの人たちは生まれながらにゲイなのだと認識していました。
しかしその一方で、「だからこそ、自分とは全く違う存在」という意識が強いことも明らかになったのです。
自分とは違うのだという意識は、逆に言えば、自分はゲイの人たちに対する支持者・理解者(=アライ)ではないという意識であり、このことが偏見や差別に繋がります。
「生まれながらにして自分とは違う存在」という考え方は、歴史的に見れば、奴隷制度や人種差別の根底にあったわけですから、差別になりうるのも当然かも知れません。
5 『ハリー・ポッター』を読む子供が増えれば差別は減る
悪と戦う魔法使いのヒーローと言えば誰か。
これはもう間違いなく、ハリー・ポッターで決まりでしょう。
そして、ハリー・ポッターは、悪を倒すだけではありません。
差別も駆逐してくれるのです。
2014年にイタリアのモデナ・レッジョ・エミリア大学で行われた研究によれば、『ハリー・ポッター』シリーズを読むことは、マイノリティー・グループへの差別や偏見を軽減させる効果があります。
『ハリー・ポッター』の物語には、人間以外にも様々な種族が登場しますが、その中には、不当な差別を受けながら生きている者たちもいます。
ハリーやその仲間が、彼らの置かれている境遇に理解を示し、共感するようなシーンを読んだ子供は、移民に対する捉え方が好意的なものになったのだとか。
また、高校生の場合、過去に読んだ『ハリー・ポッター』の冊数が多ければ多いほど、同性愛者に対する偏見が無くなることも明らかに。
ただし、以上の効果が見られたのは、読者がハリーに感情移入した場合のみ。
逆に、
「ヴォルデモート最っ高~!滅ぼせヒャッハー!」
みたいな読者には、この効果は期待できません(勿論、そういう読者が差別的であるとは限りませんが)。
さらに、大学生の場合は、ハリーに感情移入しながら読まずとも、ヴォルデモート卿に共感できない読者であれば、難民に対する偏見が弱い傾向が見られました。
結局、若い世代においては、『ハリー・ポッター』をよく読んでいる人ほど、LGBTを含むマイノリティー・グループに対する捉え方が、より好意的なものだったのです。
LGBTの人たちへの差別は、彼らの精神面に深刻な影響をもたらしていますから、その差別を無くす効果がある『ハリー・ポッター』は凄い本だと言えます。
そんな凄い本を書き上げた原作者のJ.K.ローリングさんも凄い。
ちょっとクサイ言い方ですが、世の中の差別を無くしてしまうのが、彼女の「魔法」なのかも知れません。
そして、ローリングさんにとって、これ以上皮肉なことは無いでしょう。
何故なら彼女は……。
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番外編 LGBTを敵に回したJ.K.ローリング
2019年12月、世界中に数え切れないほどのファンを持つ偉大な作家が、その評判を一気に落とすことになりました。
すべての始まりは、イギリスの非営利シンクタンクに勤めていた一人の女性研究員のツイート。
彼女は、トランスジェンダーの人たちに対する差別的な発言(「男性が女性になることはできない」など)をしていたのです。
そしてそれが原因で、仕事をクビに。
不当解雇であるとして訴訟を起こしたものの、彼女の発言は、
「トランスジェンダーの人々の威厳を傷つけるのもであり、イギリスのいかなる法によっても保護されない」
と裁判所に判断され、敗訴。
これに対して怒りを顕にしたのがローリングさん。
彼女は、その元研究員を支持する内容のツイートをしたのです。
ローリングさんは、2017年、2018年にも、トランスジェンダーへの偏見とも受け取れるツイートに「いいね」をしたことが問題視されていましたが、このツイートが決定的になり、多くの人たちが彼女を差別的であるとして痛烈に批判。
さらに、2020年には、「新型コロナウイルス終息後の社会を、生理のある人々にとってより平等なものにするために」という新聞の見出しにツイッターで噛みつきました。
「生理のある人々」って何?
確か、そういう人たちを表す単語があったと思うんだけど。
誰か教えてくれない?
ウー……ウー……ウーマッド?
この発言の根底には、生理があるのは「女性として生まれた女性」だけであるという信念が流れています。
フォロワー数が優に1400万を超えている人がこのツイートをしたわけですから、火に油を注ぐどころか、爆薬を注ぐことになったのは明らかでしょう。
その後もローリング批判は続き、2021年11月には、トランスジェンダーのための活動家数名が、エディンバラにあるローリングさんの自宅前で自撮りした写真をツイッターに投稿。
その際、彼女の住所を晒したことから、ローリングさん宅には殺人予告の手紙が山盛り届いたとか。
完全にLGBTコミュニティを敵に回してしまった感じですが、しかしローリングさん自身は、自分はLGBTの味方であり、彼らに対する差別には断固反対するという立場を表明しています。
一見すると矛盾していますが、これはどういうことなのか。
おそらくローリングさんは、LGBTの人たちが差別や偏見から守られるべき存在であるという認識はあるのでしょう。
しかしながら、彼女のように女性として生まれた女性と、トランスジェンダーの女性が、あらゆる点で同じ「女性」であるとは考えていないはず。
むしろ、両者の間には「越えられない壁」があると捉えているような気がします。
LGBTのコミュニティにとっては、そういう捉え方こそが差別的なのですが、ローリングさんにとっては、それはあくまで「性」を理解する方法の一つであって、差別ではない、ということになるのでしょう。
ローリングさんとLGBTコミュニティの主張は、しばらくは平行線を辿ることになりそうです。
この状況は、さすがのハリー・ポッターでも、魔法であっさり解決というわけにはいきません。