内容的に問題のある本は、最悪の場合、出版禁止という運命が待っています。
他人の名誉やプライバシーを侵害するような本であれば、そういったこともやむを得ないでしょう。
しかし、全く何の害も無いのに禁止されてしまったら……。
今回は、日本人の感覚ではやや理解に苦しむ問題提起により、禁止処分を受けた本をご紹介します。
〈originally posted on December 1,2016〉
1 『ハリー・ポッター』シリーズ
図書館教育を国際規模で推進していくことが目的であるアメリカ図書館協会によれば、2000~2009年の間で最も頻繁に禁止処分を受けた本は、J・K・ローリング原作の『ハリー・ポッター』シリーズです。
魔法を使って死んだ者を蘇らせるなどといった要素は、保守的なキリスト教信者には到底受け入れがたいというのがその理由。
ただし、キリスト教信者の中にもこの本を肯定的に捉える人はいますし、禁止処分とはいっても、購入手段が無くなるわけではないので、それほど大きな影響は無かったようです。
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2 『くまのプーさん』
イギリスの児童文学作家A・A・ミルンが生み出した愛くるしいキャラクターである『くまのプーさん』は、ディズニーによる映画化や、ぬいぐるみなどのグッズ化を経て、世界中の子供に親しまれています。
ところが意外なことに、何の害も無さそうなこの「プーさん」の原作本は、これまでに複数の国で発売禁止の憂き目に遭っていて、そういった国にはロシア、中国、トルコなどがあり、何と作者の出身であるイギリスも含まれています。
禁止の理由はさまざまですが、その中でもロシアのケースは非常に変わっています。
ナチス・ドイツを信奉していたある人物が、ナチスの象徴である鉤十字をあしらったプーさんの絵を所持していたため、
プーさん = ナチス
という方程式が偉い人の頭で完成してしまい、発禁処分となりました。
3 『メリアム・ウェブスター辞典』
『メリアム・ウェブスター辞典』は、アメリカで出版されている、歴史の長い定評ある辞典です。
特に変わった要素は無く、日本の標準的な国語辞典に相当します。
辞書を禁止にしてしまうなど通常は考えにくいのですが、カリフォルニア州メニフィー市の教育委員会は、この辞書を学校の図書館に置かないこととする決定を下しました。
その理由は、ある性的行為を表す語句について説明した項目があったため。
ある小学校で、そのような説明を子供たちが読む可能性があるのは問題だ、という苦情が保護者から寄せられたのをきっかけに、本格的な議論が行われていたのです。
4 『アンネの日記』
(ウィキペディアより)
第二次世界大戦中、ナチス・ドイツによるユダヤ人狩りを逃れ、身を隠しながら気丈に生きる人々の姿を描いたアンネ・フランクの作品。
その歴史的意義の大きさに加え、人が生きていく上で遭遇する多くの問題について考えさせられるところから、学校の図書館に置かれることもよくあります。
しかし、米国アラバマ州のある教育委員会は、この本を学校で取り扱うことを禁止しました。
わずか15歳でこの世を去ったアンネ・フランクの綴った文章は、年齢の近い学生が読めば一層こころに響くものがあるはずなのに、なぜ禁止してしまったのか。
その驚くべき理由は、「内容が重すぎるから」でした。
また、2010年にはヴァージニア州の学校で、「性的に露骨な描写がある」という理由で禁止になっています。
5 『トワイライト』
女子高生と超イケメンなヴァンパイアとの恋愛を描いた、ステファニー・メイヤー原作の小説。
映画化もされたのでご存知の方も多いはず。
2009年、オーストラリアのとある小学校は、この本を学校図書館から排除しました。
ロマンス的な要素や、超自然的な能力を描いた部分が、同校が教えるキリスト教の精神にそぐわないと考えられたためです。
教師たちは、高学年の生徒に向けて、現実とフィクションを混同しないように注意を促すセミナーまで開催しました。
6 『不思議の国のアリス』
白ウサギを追いかけて奇想天外な世界へと迷い込んだアリスが、数々の非現実的な体験をするという、ルイス・キャロル原作の物語。
幾度となく映画やアニメになっている名作ですが、その一方で、児童虐待や薬物使用を助長するのではないかという懸念から、子供には不適切だとする人は今でも少なくありません。
時代を遡るとさらに奇妙な理由が主張されていまして、1931年には中国の一部の地域で、「動物が言葉を喋る」という点が問題視され、禁止となりました。
これを読んだ子どもたちが、動物を人間のように扱うことを政府が恐れたと言われています。
さすがに考え過ぎでは、と思ってしまいますが、米国ニューハンプシャー州の学校でも、1900年に同様の理由で生徒の閲覧が禁止されました。
7 『三匹の子豚』
三匹の子豚がそれぞれ藁や木の枝で家を建てるたび、性根の腐った狼がそれを破壊し、子豚を食らってしまうが、最後に残った3匹目の子豚だけはレンガで堅牢な家を建て、みごと狼にリベンジを果たすというおとぎ話。
基本的には子供が読んでも大丈夫なはずですが、イギリスのパークロード小学校の校長であるバーバラ・ハリスは、この本が低学年の生徒の目に触れないような措置を取りました。
同校では、全校生徒の3分の2がイスラム教徒なので、それに配慮したというのが主な理由。
しかしこれに対し、イギリスのイスラム評議会の広報担当者は、
「善意から取られた措置なのだろうが、誤解を招きかねない。
イスラム教では豚を食すことは禁じているが、それに関する本を読むのは何ら問題ない」
と、当たり前すぎるコメントを発表しました。
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8 『オズの魔法使い』
竜巻で家ごと吹き飛ばされ、気づいてみたら「オズの国」にいたドロシーが、元の世界へ戻るために、カカシやブリキ、ライオンといった仲間とともにオズの魔法使いに会うための旅に出るという、ライマン・フランク・ボーム原作の古典的名作。
先の『不思議の国のアリス』からも影響を受けているとされています。
1957年、米国デトロイト市の公立図書館は、この本の取扱いを禁止しました。
その理由は、「子供が読んでも何の価値も無い」から。
ここまでバッサリ切り捨てると清々しいです。
また、臆病な行動をする登場人物がいるため、そういった部分が子供を消極的にさせるという点も指摘されました。