普段から攻撃的な態度を取る人というのは、単純にそういう性格をしているだけなのか。
それとも、性格以外の何かが関係しているのか。
仮に後者だとすると、人を攻撃的にさせる物が我々の周りに存在していることが考えられます。
しかも、それがかなり意外なものである可能性も……。
〈originally posted on August 15,2019〉
1 男らしくない男ほど攻撃的な面がある
昔の不良漫画などに出てくる、ケンカが三度の飯より好きそうな感じの主人公は、肩で風を切って歩き、別の不良グループと視線が交わるやいなや、相手に殴りかかります。
こういう主人公は、たいてい厳つい顔をしていて、筋骨隆々。
男らしさをぎゅぎゅっと凝縮したような感じです。
それとは逆に、ケンカが弱そうで、男らしさに乏しい、のび太君がそのまま高校生になったようなキャラクターは、引っ込み思案で大人しい感じ。
これを現実世界に当てはめると、体がガッチリしていて男らしい人の方が、そうでない人よりも、暴力的な傾向が強いと思ってしまいそうです。
しかし、見た目が弱そうな人間が、攻撃的ではないとは限りません。
2012年、アメリカ疾病予防管理センターのスタッフで、行動科学者でもあるデニス・レイディ氏が、男らしさと暴力性、飲酒癖、薬物使用などとの関係を調べる実験を行いました。
その結果、自分は男らしさに欠けていると自覚し、しかもそのことにストレスを感じている人ほど、暴力性が強いことが分かったのです。
一方、自分の男らしさについて何も不安要素が無い、あるいは関心が無い人の暴力性は、比較的低め。
「男らしさ」の定義の仕方は人によって微妙に異なるので、外見だけで男らしさを判断するのは難しい面があります。
ただ、この実験の一番重要なポイントは、自分自身や社会が求める「男らしい男」と、現実の自分との間のギャップに、本人がどれだけストレスや不安を感じているか、ということ。
そういったストレスや不安が大きいと、暴力に訴える可能性が高くなるのだと考えられます。
余談ですが、イギリスでは「飲み屋では小柄な男に気をつけろ」というのが、酒好きの男性の間で長きに渡って暗黙のルールとなっているそうです。
ケンカの弱そうな奴ほど、酒が入って口論になると何をするか分からないということなのですが、この研究結果はそれを裏付けるものとなりました。
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2 武器を見るだけで攻撃性が上がる
海外の人からは、日本は基本的に安全な国だというイメージを持たれています。
実際、殺人事件などの発生率は低く、強盗事件の認知件数については、ここ5年間で4割程度も減少。
凶悪事件に対する抑止力の一つと考えられるのは、やはり銃の所持が禁止されていることでしょう。
これはもちろん、銃を犯罪に利用出来ないからですが、抑止効果の理由はそれだけではないようです。
米国オハイオ州立大学で心理学を教えるブラッド・ブッシュマン教授によると、人間は、単に銃などの武器を見ているだけで攻撃性が高くなります。
具体的には、武器を見ることで、攻撃的な思考や感情、敵意などが増幅し、他人が自分に危害を加えるのではないか、と考えるようになるのだとか。
この反応は、武器を見ると無意識のうちに、ほとんど反射的に起こります。
ある実験では、車のドライバーが、青信号で停止しているトラックの後ろになったとき、どういう条件でクラクションを鳴らすかを調べました。
すると、そのトラックに銃が積まれている場合の方が、そうでない場合よりもクラクションを鳴らす確率が高かったのです。
銃を見ただけで、ドライバーの攻撃的な側面が刺激されたということでしょう。
ちなみに、ブッシュマン教授の話では、攻撃性を強めるのは銃に限らず、剣や手榴弾など他の武器でも同様なのだそうです。
3 猫のウンコと間欠性爆発症
「間欠性爆発症(IED)」という病気をご存知でしょうか。
これは、突発的に怒りを爆発させ、暴言などで相手を攻撃してしまう障害です。
怒りが爆発するのは年に数回程度ですが、単純に気が短い人と違って、他愛もないことで怒りを抑えられなくなり、異常なほど攻撃的な言動に出てしまいます。
車の運転中、割り込みをされただけで過度に怒りを顕にするような人は、この症状を持っている可能性があるとされています。
この病気について、シカゴ大学のエミリ・コッカロ教授らが行った研究によると、IEDを患っている人は、そうでない人に比べ、「トキソプラズマ症」に感染している確率が約2倍も高いそうです。
トキソプラズマ症になると、脳内で何らかの化学的変化が起こり、それが攻撃的な言動につながると考えられています。
そして、この症状を引き起こす原因となるのが、トキソプラズマ原虫。
我々の身の周りで、この原虫がよく見られる物は主に2つあり、一つは生肉。
もう一つは、猫のウンコです。
ということは、猫を飼っている人は、IEDになってしまう危険性が高いのか。
先の研究に参加した、シカゴ大学のロイス・リー教授によれば、IEDになるのを防止するために、猫を避けたり、飼わないようにしたりする必要は無いとのこと。
その理由は、猫を飼っていれば必ずトキソプラズマ症に感染するわけではなく、仮に感染しても、必ずIEDを発症するわけではないから。
IEDの患者の中で、トキソプラズマ症を発症している割合は、20%程度なのだそうです。
4 タトゥーを入れている人は反抗的(かもしれない)
欧米と違って、日本では腕や首などに大きなタトゥーがある人を見ることは滅多にありません。
タトゥーはファッションの一種だと考えれば、自分の体のどこに入れるかは、本来個人の自由。
そう考えると、人の目に触れるところにタトゥーを彫る人が少ないのは、やはりそれが「怖い」という印象を周りに与えがちだからかも知れません。
では、タトゥーを入れていることと、攻撃性との間には、何らかの関係があるのか。
それを調べたのが、イギリスにあるアングリア・ラスキン大学で社会心理学を教えるヴィレン・スワミ教授。
同教授の研究によると、タトゥーを彫っている人は、そうでない人に比べ、怒り易さ、暴言の頻度、反抗的な態度などの度合いが著しく高いのだとか。
その原因は、タトゥーを彫る動機にあります。
タトゥーを彫る人たちの心理を分析すると、彼らは、何か嫌なことがあったとき、世間から「反抗的」だと見なされるような行動を取る傾向があるそうです。
その反抗的な態度の分かりやすい形が、タトゥーを彫ること。
この結論は、20歳から58歳までの378名の被験者を調べて得られたものです。
スワミ教授の説が正しいとすれば、誰の目にも触れないような場所に小さなタトゥーを入れている人よりも、上半身にびっしりタトゥーを入れている人の方が、攻撃性は高いと言えるかも知れません。
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5 暴力的なゲームより、難しいゲームの方が有害
アメリカでの度重なる銃乱射事件に関して、先日、トランプ大統領が、暴力的なビデオゲームなどを批判する声明を発表しました。
ゲームに対する批判は今に始まったことではなく、トランプ大統領はかなり以前から暴力的なゲームや映画などをもっと厳しく規制すべきだと主張しています。
残忍な犯罪が起きる度に問題視される、暴力性の強いゲーム。
こういったゲームは、本当に人を攻撃的にさせるのか。
これについては昔から様々な研究があり、肯定派と否定派に分かれています。
その中でも、かなり説得力のあるものを一つご紹介しましょう。
オックスフォード大学で行われた研究によると、ゲームがプレイヤーを攻撃的にさせるか否かについて、そのゲームが暴力的かどうかは直接には関係ありません。
では何が関係してくるのかというと、ゲームの難易度です。
ゲームの中には、コントロールがやたらと複雑だったり、死ぬほど練習しないと先に進めなかったりするものがあります。
このような難易度の高いゲームほど、遊んだ後のプレイヤーの攻撃性を高めるのです。
この点は、ゲームのジャンルを問いません。
つまり、一見すると極めて平和的なパズルゲームであっても、その操作性や難易度によってはプレイヤーを攻撃的にさせます。
逆に、暴力性の強いゲームであっても、敵をサクサク倒して爽快感が味わえるものなら、ストレス発散になりこそすれ、プレイヤーを凶暴化させることは無いのです。
ただ、一つ注意すべきは、暴力性・残虐性の強いゲームは往々にして難易度が高いということ。
それを踏まえれば、暴力的なゲームに対する批判もあながち的外れではないかも知れません。